駅のホームから線路に毎日10人近くが転落しているそうです。その数は2016年の1年間だけでだけで3,518人。
分析の結果、意外な転落原因というのが見えてきました。
乗客の安全を守る対策の最前線を取材しました。
西日本旅客鉄道株式会社
[blogcard url="https://www.westjr.co.jp/"]
JR新大阪駅、ホームに少し見慣れないベンチがあります。
通常はホームのベンチは電車と平行に置かれますが、JR新大阪駅では電車に対して直角になっています。
一体、何故なんでしょうか?
実はホームからの転落者の約6割が酔客。いわゆる「酔っぱらい」なんです。
JR西日本が転落した酔客の動きを分析したところ、その多くが電車に気付いてベンチから立ち上がり、そのままの勢いでホームに転落していました。
西日本旅客鉄道株式会社の駅業務部、川上賢介さんによると、
このようにベンチを変えていれば立ち上がって真っすぐ行っても線路内には転落しない。
JR新大阪駅ではベンチの向きを変えてから転落者が半減。ところがこれだけでは不十分だといいます。
ホーム柵(ホームドア)が一番転落防止に効果がある。
転落対策の要はホームドアだといいます。しかし1日10万人以上が利用する全国の駅でホームドア設置済みは260駅のうち82駅。
なぜ整備が進まないのでしょうか?
東京急行電鉄株式会社
[blogcard url="http://www.tokyu.co.jp/"]
土曜日の深夜、東急東横線の日吉駅。
終電後、一本の電車が入ってきました。積まれていたのはホームドアです。
東京急行電鉄株式会社の工務部、村上浩至さんは、
終電後から初電が走るまでの約3時間弱で今、何もないところにホームドアを設置する。
約100人の作業員が一斉に電車からホームドアを運び出します。ホームドアの普及を阻む理由の1つが終電から始発までという限られた設置時間です。
「ホームドアの重さは?」
だいたい400キロ。
ずらりと並んだホームドアの総重量は約16トン。駅によってはこの重さに耐えられるようにホームの補強工事が必要です。
さらに電車は3ドアや4ドア、そして6ドアと車両によってドアの数が違うのでホームドアの設置は困難です。東京急行電鉄株式会社では4ドアと6ドアの車両を併用していましたが、ホームドアを導入するため、全て4ドア車に統一する車両編成の変更を余儀なくされました。
ホームドアの設置は2時間余で完了しました。
東京急行電鉄株式会社はホームドア関連で489億円を投資。莫大なコストが普及を妨げています。
軽くて丈夫で安ければ事業者としてはありがたい。
株式会社音楽館
[blogcard url="http://www.ongakukan.co.jp/"]
軽くて安上がりなホームドアを思いついた人物がいます。
元カシオペアで音楽プロデューサーの向谷実さんです。
実はトレインシュミレーターの開発を手掛けるほどの鉄道好き。
これが私たちが考案した軽量型ホームドアです。
鉄板の代わりに使われているのが金属のバー。重量は従来型の6割。導入コストは半分以下を目指します。
バーで防護することで全体的な重量は軽くなる。軽くなれば土木工事も安くなる。
アイデアを閃いたきっかけはJR九州の社長との雑談でした。
「JR九州としてホームドアを考えているが軽いもの作れないか」と突然聞かれた。
信号機などを手掛ける日本信号株式会社と共同開発しJR九州での試験導入も決まりました。
しかしバー式にはひとつ課題があります。それは強度です。
先端が最も脆弱。そこに大きな圧力が上からかかったとき耐え切れるか。
そこで強度を高めるために4本のバーのうち上と下の2本を空洞のパイプから中身の詰まったアルミ棒に変更。全体の強度は従来の2倍になりました。
日本信号株式会社のステーション安全設計部、伊佐山正さんは、
人が上に乗ることも想定して設計している。
この日はバーの先端に体重100キロの人がよじ登ったと想定して強度を測定します。ジャッキで力を加えるとみるみる曲がっていきます。これは国が定めた強度の指針より厳しい条件です。
荷重をかけたあともスムーズに開閉することが求められるのです。
問題なく最後まで閉まった。
新型ホームドアに関する技術WG
1月中旬、向谷実さんがやって来たのは国土交通省です。
JRや大手私鉄の担当者たちが勢揃いし次世代型ホームドアの開発メーカーによるプレゼン大会が開かれました。
そこに向谷実さんも参加したのです。
上部を支える土木工事の部分が軽くコストが安くなり設置がしやすくなる。
早速、鉄道会社も向谷実さんのホームドアに興味を示したようです。
東京急行電鉄株式会社の電気部、矢澤史郎さんは、
土木工事の必要ない形も今後研究しないといけない。今後とも情報交換を進めたい。
向谷実さんに手応えを聞いてみると、
すごくよかった。これからホームドアを大量に発注した場合、皆さん「ちゃんと作れるんですか」と納期の心配をされた。だったら受けて立ちましょう。