今年さまざまなニュースがありましたが、私たちの身近なところで日々頭を悩ませたのが物価高・インフレです。長年、デフレが続いてきた日本でも今年さまざまな商品が値上がりして、その数は実に2万品目以上にも及びました。ただ賃金がなかなか上がらない中で値上げが相次いだため、消費の現場では逆に低価格競争が起きていました。
ディスカウント店"値下げ"の裏側
千葉市内にあるディスカウントストア「ミスターマックスあゆみ野店」。カートいっぱいに買い物する人たちの姿が…
お客さん

とても安い。
お客さん

ちょっと多めに取っちゃう。
物価高で財布の紐がきつくなる中、買い物欲を誘うのはあるキャンペーンがあるからなんです。
田中瞳キャスター
税別で99円のポテトチップスをはじめ、さまざまなナショナルブランドの商品が2,000品目値下げされているということです。

「アタック抗菌EX詰替超特大」は30%引き、ミスターマックスは食品や日用品を中心にナショナルブランド2,000品目を2月まで最大30%値下げしています。
お客さん

一番必要としているものが安いので。
お客さん

何十円でも安ければ違いのが今の状態。
値上げが相次ぐ中、2,000品目もの値下げはどうやって実現しているのでしょうか?
売り場では次々と商品を投げ込む早業で陳列完了。この"投げ込み陳列"は店内の至る所に。
ミスターマックス・HD
鳥越寛上席執行役員

普通だったらフックにかけて陳列する商品だが、ガサッと投げ込むことで陳列の手間を大きく省いている。
ラップ売り場では…
ミスターマックス・HD
鳥越寛上席執行役員

ラップを箱から出すのではなく、箱の表面だけカットして、そのまま陳列することで作業軽減を図っている。
ミネラルウォーターも段ボールのまま常温で販売。しかも、バックヤードから山積みの商品をそのまま売り場へ並べます。
こうしたコストカットの積み重ねによって値下げを実現しているといいます。
ミスターマックスは今年9月からの値下げキャンペーンで対象商品の売り上げが3割増えたとしています。
ミスターマックス・HD
鳥越寛上席執行役員

元々ローコストオペレーションを徹底している。
ローコストがこの物価高になった時に非常に効いてきている。
企業努力を行ってできる限り価格を維持していきたい。
消費者の節約志向の高まりでこうした低価格を売りにしたディスカウントストアは今年度初めて売り上げが4兆円規模になるとみられ、店舗数も過去最多となる見通しです。
ラーメン新潮流「スープが無い!?」
こうした低価格志向に合わせ、メーカーも開発を始めています。
カップ麺は今年20円ほどの値上げが相次ぎ、店頭には200円以上の商品も並ぶ中…
ビッグ・エー 葛飾南水元店
鈴木裕二店長

明星食品の「かけラーでっせ」。税別88円です。
価格が目を引くこの商品、実は…
お客さん

具が入っていない。「かけ」だもん。
今年9月、明星食品が発売した麺とスープだけの新たなカップ麺。中には麺と粉末スープだけ。出来上がりはこのシンプルさ。
具を省いたのが低価格の理由です。
具がないカップ麺を買う人は…
お客さん

安いならいいんじゃないか。
別に好みで自分でもやし入れたりできるから。
ラーメンのほか、そば、うどんの3種類。全て具は入っていません。主力のカップ麺と比べ、4割ほど安いのが売りです。
明星食品 マーケティング部
根橋弘樹次長

計画通り好調。売れ行きは順調。
「具材が入っていない分お求めやすいのね」とはっきりしている。
不安なく食べていただける。買っていただける構造がある。
外食ではラーメン1杯1,000円は当たり前になる中、東京・目黒に今年オープンした店には平日にも関わらず行列が…
麺に生卵を絡めて食べる釜玉うどんのラーメン版「釜玉中華そば」、1杯590円です。
中垣正太郎キャスター
意外とさっぱりしています。
麺ももちもちしていて太さが適度にあるので食べ応えがあります。

釜玉中華そば ナポレオン軒
創業者 小宮一哲さん

物価高騰を受けて、手軽な価格でラーメンを提供したいという思いで「釜玉中華そば」にたどり着いた。
有名つけ麺チェーン創業者が手掛けるこの店。麺は近隣にある系列店の製麺所で打つ自家製麺を毎日届けています。
打ち立ての麺を茹でる直前に手もみ。太さや形を不揃いにすることで独特の触感に。
お客さん

麺が好きなので麺好きにはたまらない。
お客さん

安いと思う。立地考えてもすごく。
お客さん

めちゃくちゃおいしかった。また通う。
中垣正太郎キャスター
採算取れている?

釜玉中華そば ナポレオン軒
創業者 小宮一哲さん

しっかり黒字化できている。
590円ながら原価率は系列のラーメン店と同じ30%に抑えているといいます。一番のからくりはどんぶりの底に見えるスープ。
釜玉中華そば ナポレオン軒
創業者 小宮一哲さん

通常のラーメンの10分の1しか釜玉中華そばには入らない。
スープ作りには豚骨や野菜の煮込みなど丸2日間かかり、ラーメンの原価の多くを占めます。スープを10分の1しか使わない釜玉は大幅に原価を抑えられるのです。
具もネギと卵のみ。これも低価格の理由です。
小麦は値上がりしていますが1杯当たり10~20円と影響は大きくないといいます。
釜玉中華そば ナポレオン軒
創業者 小宮一哲さん

価格高騰の影響を受けるものが少ないので、この価格でやっていけている。
二重丸に花がつくくらいの状態。
この業態は一般的なラーメンよりも値段が安いところで戦える。
非常に期待ができる。
円安・原料高"均一ショップ"の苦悩
一方、低価格を売りにしている100円均一のショップではある変化が…
角谷暁子キャスター
八重洲の地下街に今月新しくオープンしたのがこちらのお店です。
100円ショップを展開する大創産業が手掛ける別業態のお店です。

スタンダードプロダクツはシンプルなデザインが特徴でおよそ7割が300円の商品です。
100円ショップを展開する大創産業は300円の商品を中心に扱うショップを別のブランドとして展開。4月には東京・銀座にも出店しました。
これまで国内店舗の9割以上が100円ショップのダイソーでしたが、来年2月までの1年間の新規出店はおよそ4割が300円の商品を中心としたショップです。
背景には何があるのでしょうか?
その理由を探りに全国1万点以上の100円ショップに商品を卸す企業「ミツキ」を訪ねました。
700種類以上の商品を取り扱っていますが、そのほとんどを中国などの海外で生産しています。そのため…
100円ショップに商品を卸す
ミツキ
中村喜吉治社長

この自転車の空気入れは入ってくる時、100円近い。
こうした100円ショップの商品は多くを海外の工場から仕入れているため、円安で仕入れ価格が大きく上昇。中国などの人件費や輸送費も高騰したため、卸値が100円を超えてしまう商品が出てきているのです。
番組スタッフ
それはどうする?

100円ショップに商品を卸す
ミツキ
中村喜吉治社長

継続不能。
100円では売れなくなるので廃盤になっていく。
コストの限界を超えた商品はほかにも。大きな鏡やプラスチックのシャンプーボトルなどジャンルを問わず50種類以上の商品が100円では作ることができなくなり廃盤となる予定です。
100円ショップに商品を卸す
ミツキ
中村喜吉治社長

このパーツを何十銭安くしてくれ、このパーツを何十銭安くしてくれと、1円でも安く作ろうとずっと海外の工場と話をして出来上がった商品なので、ここからコストダウンするのは限界に近くなってきている。
100円での商品供給が難しくなる中、今年店舗を増やしているのが3コインズです。店名の通り300円の商品を中心に販売しています。
ぬいぐるみを抱っこする子供用品も。
お客さん

よく来る。
「300均」だった物が高級感が出てきた。
お客さん

キッチン用品、お皿などデザインが好き。
300円均一の3コインズにも変化が…実はいま店頭では1,000円以上の価格帯の商品も多く売り出していて、全体のおよそ1割を占めています。
ワイヤレスイヤホンの価格は1,650円です。200万個以上を売り上げるヒット商品に。
3コインズ ブランド長
肥後俊樹さん

この1~2年、非常にチャレンジしてきて、高価格帯の割合は少しずつ増えてきた。売れ方としては非常に好調。
どう商品を開発しているのでしょうか?
3コインズ 商品部
野口光恵さん

価格を落とすことは品質を落とせば簡単にできるが、価格を落とすと全然見栄えが変わってしまう。
こうセットになったときにかわいく見えるような。
戦略のひとつがセット買い。多数のアイテムを組み合わせて買ってもらえるよう配色にこだわってシリーズ展開しています。
さらに商品開発では…
取引先の業者
これがすごくいい出来で枕カバー。

3コインズ 商品部
野口光恵さん

これが一番いいんじゃないですか。
取引先の業者
これは300円だけど、こっちは500円。
500円の価値はある。

詰めの交渉が行われていました。
3コインズ 商品部
野口光恵さん

クオリティー、デザイン面にすごくこだわって、「これがこの値段」と思ってもらえるような物でないと商品化したらいけないと思っている。
来年はどうなっていくのか?
7,000品目以上の値上げを各社が表明していますが、価格転嫁には限界があると専門家は指摘します。
物価動向などに詳しい
第一生命経済研究所
新家義貴さん

コストが上がることによって価格転嫁するというのはなかなか長続きしない傾向がある。
景気があまりよくないので、賃金もあまり増えてない。
そういった中で物価だけがどんどんどんどん上がっていくと、どうしても消費者がいずれついてこられなくなる。