テレ東経済WEEK。モーサテでは変わる世界情勢を受けて新たな道を模索する日本の現場を番組キャスターが取材しています。
今回取り上げるのはUACJです。UACJはなんの企業かというと国内最大手のアルミニウム総合メーカーです。
そのUACJは2013年にアルミ業界トップの古河スカイと2位の住友軽金属工業が統合して誕生しました。
主力製品のアルミ板の生産量ではUACJが国内シェアのおよそ50%を占めています。まさに日本のアルミ業界のリーディングカンパニーです。
生活に欠かせないアルミというのは景気の動向を反映しやすい金属です。そのアルミ価格ですが景気後退懸念が出る中でロンドン金属取引所の価格は今年つけた最高値を大幅に下落してきています。
激変する国際情勢の中、日本企業はどう勝ち抜いていくのでしょうか。UACJの経営トップとアルミの生産現場を取材してきました。
アルミ需要急増 資源確保の問題が…
アルミはどのようなものに使われているのか。
UACJのトップを務める技術畑出身の石原美幸社長。
UACJ
石原美幸社長

ここにあるのがアルミ製品。
アルミが多くの製品に使われているのは理由があります。
相内優香キャスター
ヨーグルトのフタ。

UACJ
石原美幸社長

アルミは空気を通さない、光を遮断する特徴。
さらにスマホにもアルミが。
UACJ
石原美幸社長

アルミは熱をすぐに放してくれる。
アルミは電子機器に多く採用。
多くの特性を持つアルミ。
石原社長が持っていたのは見た目が同じ2本のアルミ棒。
UACJ
石原美幸社長

曲げてみてください。
相内優香キャスター
簡単に曲がりました。

もう1本はというと…
相内優香キャスター
曲がらない。

UACJ
石原美幸社長

最初に曲げたアルミ棒はアルミニウム99%。
曲がらなかった棒は亜鉛とマグネシウムを加えて、航空機など強さのいる部品に使用。
2,000種類以上のアルミ合金。
特にアルミの普及率が増えているのがEV化が進む自動車業界。アルミは鉄の3分の1程度の重さで車体の軽量化には欠かせないのです。
アルミの需要はEVや半導体の拡大で10年前の1.5倍以上に。
UACJはグループ全体で年間130万トン以上のアルミ板を生産。出荷量は世界4位です。
そのアルミ板を作っているのは石原社長も所長を務めた日本最大級の製造所「福井製造所」。
相内優香キャスター
UACJ福井製造所では世界最大級のアルミ板を作っています。
LNG船のタンクに使われているということです。

マイナス162度という超低温でも脆くならないアルミが活躍しています。
そのアルミ板のUACJの海外での売上数量比率は6割を越します。
製造所に積まれていたのは4,000トンにも及ぶ銀色の塊。
相内優香キャスター
これは何ですか?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

アルミの塊(地金)。
これを溶かして薄く圧延し製品にする。
相内優香キャスター
どんな国が作っている?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

日本では作っていなくて100%輸入。
相内優香キャスター
日本ではひとつも作っていない?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

はい。
製品の原材料であるアルミの塊、地金を100%輸入。なぜなのか?
赤道付近で取れるアルミの原料ボーキサイトから鉄などを取り除いたのがアルミナ。これを電気分解すると地金ができます。
その時の電力量が問題。銅の数倍にもなるそうです。
日本でも地金を作っていましたが電力コストの高騰で断念。現在は100%輸入に頼っているのです。
その主な輸入先はオーストラリアやUAE、そしてロシア。高まる地政学リスク、円安傾向。
相内優香キャスター
ロシアからの輸入が全くなくなっても大丈夫?

UACJ
石原美幸社長

2割弱をロシアから輸入している。
新規契約に対しては代替を進める。
ロシアからの利用額を小さくしていく。
相内優香キャスター
円安の影響は?

UACJ
石原美幸社長

円安は大変な影響を受ける。
地金を全て輸入しているリスク。
輸入に頼る中での円安。国内アルミメーカーは新たな資源の確保を進めています。
UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

製缶メーカーから出てくるアルミの端材を回収したもの。
7割が再び缶に戻る。
さらにこんなものまで…
相内優香キャスター
アルミホイルもリサイクル?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

そうです。
全部回収して、もう一度溶かして再生。
アルミは劣化しにくいためリサイクルに適した金属なのです。
この製造所には1日およそ150トンのアルミの端材が運ばれています。
さらにスクラップから作った再生地金を2,000トンも貯蔵。
現在、国内のアルミ産業でリサイクルアルミの資源比率を5割以上に高めているのです。
輸入した地金と再生地金、回収した端材を混ぜて炉で溶かしていきます。
相内優香キャスター
熱が伝わってくる。

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

アルミは750度程で溶解できる。
鉄に比べてはるかに低い温度。
アルミは鉄の半分程度の温度で溶けるため燃料も少なくて済みます。
溶かしたアルミは長さ最大10m、厚さ50cmの塊にします。
相内優香キャスター
どこまで薄くする?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

一番薄いものは0.3mmより薄くなる。
世界トップクラスの技術とは…
重さ25トンの巨大なアルミの塊、それを薄くしていくのが世界最大級の熱間圧延ラインです。
UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

600度に温められた塊。
相内優香キャスター
アルミは600度に熱しても色が変わらない?

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

変わらない。
熱を加えて柔らかくしたアルミを圧延機で薄く伸ばすことを繰り返します。
相内優香キャスター
こんなに厚かったのに短時間で薄くなった。

UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

10mのアルミの塊が200mの板になる。
世界最大級の圧延ラインの大きさとは…ドローンで撮影してみると幅4.3mのこの圧延ライン、全長はなんと400mもあるそうです。
最終的には0.3mmほどの厚さにまでして完成です。
UACJ福井製造所
岡島稔製造部長

缶の胴体になる材料。
脱プラでペットボトルからアルミ缶にかわる流れ。
EVなどでもアルミ製が増え、生産量が増加。
UACJが生産するアルミ板の6割が缶材。最近はEV関連の自動車材の需要が伸びています。
そのため福井製造所では160億円を投資し、自動車用パネル材ラインを増設。
激変の世界情勢 アルミにも…
2021年度の売上高はおよそ8,000億円。売り上げ・営業利益とも過去最高を達成。
追い風になったのは…
UACJ
石原美幸社長

大きな要因はアルミ地金の高騰。
地金価格が上昇基調で大きく売り上げも増えた。
原料の価格転嫁があり大きく増えた。
地金の価格が上がればその分を製品の価格に上乗せするため売上高も増えるのです。
しかし、上昇を続け、過去最高値をつけた地金価格は急落。その影響を受け、2022年度の営業利益は65%近く減益予想に。
一方、数量ベースでは増えているといいます。
UACJ
石原美幸社長

地金価格が下がった分だけ売り上げが下がる。
営業利益も下がる。
相内優香キャスター
アルミ価格が急激に下がった。
何を示唆している?

UACJ
石原美幸社長

国際的なアルミ需要の縮小。
地政学リスク、金融政策の影響も。
様々な世界の需要落ち込みがアルミ分野にも影響。
アルミ価格急落 新たな動きが…
お菓子の包み紙からロケットまで多くの製品の素材となっているアルミは世界情勢の変化の影響を全面的に受けています。
景気後退懸念を背景としたアルミの価格は販売する量は増えていますが業績に大きな影響を与えました。
脱炭素社会やEVの普及、半導体の需要拡大などこういった企業にはチャンスになると思いますが、このチャンスをどう活かして世界のライバルと戦っていくのか。
実はそのアルミ業界で大きな動きがありました。8月31日にUACJはアルミ箔の小会社を日本軽金属ホールディングスの小会社と統合することを発表しました。
来年4月1日に設立する新会社では官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の小会社「JICキャピタル」が出資をします。その出資額は200億円以上。出資比率は80%にも上ります。
競合同士と統合、さらに官民ファンドの出資、その狙いとはなんなのでしょうか。
世界で勝ち残るために…
統合する2社が手掛けるアルミ箔。EVなどに利用されるリチウムイオン電池に欠かせないものです。
UACJ
石原美幸社長

我々がどこで生きていくかと考えた時に、高品質で安定した生産能力を持つ電池箔の世界。
ひとつの会社にして世界に勝っていく。
世界に勝つために競合同士の統合。
そこに立ちはだかるのがアルミ材の生産量で日本の15倍の生産能力を誇る中国。いま中国製アルミ製品が日本に押し寄せてきているのです。
UACJ
石原美幸社長

アルミホイルなどの分野で中国から輸入。
中国製は日本のアルミ使用量の約1割。
日本のものより3割ほど安いため、家庭用アルミ箔などの中国からの輸入が急増しているのです。
相内優香キャスター
中国企業への危機感は?

UACJ
石原美幸社長

中国製アルミは品質も高くなってきた。
日本企業のアルミ箔が大手電池メーカーに供給されている。
この分野をしっかり守っていく。
政府は2035年までに国内で販売する全ての新車をEVなどの電動車にする方針です。
官民ファンドがアルミ産業に出資するのはやはり経済安保が理由なのか。
相内優香キャスター
国策としてアルミ産業全体を盛り上げる?

UACJ
石原美幸社長

しっかりと関わっていきたいとファンドも言っている。
その結果が日本の国家安全につながればうれしい。