熊本国府高等学校
4月11日、熊本市。
スポーツの強豪、熊本国府高校。
放課後、陸上部の部員が集まってきました。
そうしたら履いてみようか。
履いているのは足袋シューズ「きねや無敵」。
無敵で走るのはこれが初めてです。
1周1.5キロメートルのコースを10周するいつものメニュー。
ところが走り終えた部員たちにある異変が・・・。
足が痛い。どんどん疲れてきた。
ふくらはぎが痛い。
2年生のエース、山口星大さんも違和感を訴えました。
体に衝撃がどかっと着くと、足の裏から腰まで衝撃がきて。
陸上部のコーチ、高岡尚司さん(39歳)。駅伝の常連、帝京大学の出身。裸足でフルマラソンを走りきる実力の持ち主です。
実は高岡さん、無敵を履かせた部員たちが体に異変を覚えることを見越していました。
山口さんの走りは着地に問題がありました。かかとから地面に着いています。足の裏の一部で衝撃を受け止めているため体に大きな負担がかかるといいます。
一方、高岡さんは足の裏全体で地面に着いて衝撃を受け止めています。こうすることで衝撃を体全体に分散できるそうです。
これはミッドフット走法と呼ばれる走り方。
高岡さんはこの走り方を部員にマスターさせたいと考えていました。
そこで選んだのが足袋シューズ無敵でした。
無敵はクッションがないから自分で衝撃を吸収しないといけない。足が張っていると思うけど、今までその筋肉をちゃんと使っていない証拠。
ソールが薄い無敵で走ると足の裏の一部だけで着地した時、大きな衝撃が体に響きます。
それを和らげようとすることで自然と走るフォームが改善されるというのです。
果たして高岡さんの狙いは結果に結びつくのか?
きねや足袋株式会社
埼玉県行田市。そこに高岡さんの姿がありました。
きねや足袋を訪ねてきました。
中澤貴之社長が持ってきたのは新作の足袋シューズ「Toe-Bi」。

高岡さん、これを試すためにやってきました。
早速、履いてみます。
どうですか?
いいですね。革の部分もあってかすごくホールド感が出ます。
toe-Biの最大の特徴は靴底と一体になったゴムベルト。ベルトを巻き上げることで靴底がピタッと張り付くためより裸足感覚に近付くといいます。
実は高岡さん、きねやの中澤さんと共同で無敵を開発。Toe-Biの商品化にも携わっています。
Toe-Biでは素材も見直しました。
これが今回採用したセミダルカチオンという生地。
新たに伸縮性のある生地を採用。足首などにフィットし、より裸足で走る感覚に近づいたといいます。
展示販売会
しかし、なぜ足袋のメーカーがシューズを開発できたのか?
着物や足袋などの展示販売会。
足袋を作りたいなと。
中澤さん、お客様の足のサイズを細かく測ります。
こっちの足の方がちょっと大きいですね。24.7センチくらい。大体左右は違うので。
これから履いてもらうのが一番細い「柳型」。
しっくりきてる。すごい。
これまで3,000人以上のお客様に最適な足袋を見繕ってきた中澤さん。あらゆる人の足の形を知り尽くしています。
その経験が裸足感覚のシューズに結びついたのです。
テスト販売
4月30日、東京・青梅市。
ランニング用品の展示即売会が開かれていました。
そこの一画にあのToe-Biも。テスト販売にこぎ着けたのです。
足袋屋が作った裸足感覚の。
すごい気持ちいい。やわらかい。
このイベントで10足ほど販売。
まずまずの滑り出しでしたが、それから約2週間後の5月11日。
まさかのトラブルが・・・。
改善
不良品がお客様から届いて、至急話がしたい。
問題はかかとにありました。伸び縮みする生地の縫い合わせがほつれていたのです。
厚い生地を上に重ねると縫い外れ(ほつれ)の心配がある。
伸びる生地と伸びない生地があるのは相性が良くない。
足首を覆う伸び縮みする素材とその上に使われている伸びない素材。それを重ね合わせて縫った部分が靴を脱いだり、履いたりする時に引っ張られ糸が切れてしまったのです。
問題は性質の異なる生地をどう縫い合わせるか。
中澤さん、改善策を提案します。
コーデュラの上に革とタグが縫い付けられるので、ここも丈夫になると思うけど。できますか?
やってみます。
コーデュラとは靴の下に使われている伸びない素材。それをほつれた部分まで伸ばして上の素材に縫い付けます。
伸びない素材同士を縫い合わせて引っ張りに強くしようというアイデア。
製造の責任者が動き出しました。
縫い代4ミリに対してプラス2ミリ、型を切ってあるから。
進まない。
足袋作りでは使わない素材を縫い合わせるためベテラン職人も手こずります。
半日後、改良品が完成しました。
果たして問題は解消されたのか?
かかとの一番上が改良品ではなぜか小さく仕上がっていました。失敗です。
何で小さくなった?
縫い代の部分とかいろいろな計算がちょっと合わなくて。
初挑戦で不慣れとはいえ単純な計算ミスでした。
Toe-Biを買ってくれたお客様に一刻も早く改良品を届けたい中澤さん、思わず厳しい言葉が飛びます。
作りの問題で難しさが出てくるかもしれないけど、一生改善できませんよ。これが付かなかったら。
私は付くっていう前提で今、話しているつもりですけど。
もう遅れは許されません。社員総出で改良品作りに取り組みます。
私が最後やりましょう。
中澤さんも作業をかって出ます。
マラソンシューズの市場を狙う究極の足袋シューズ。急ピッチで改良を進めます。
山口星大さん
足袋の需要の減少に悩む老舗のきねや足袋。
新たな試乗の開拓へ裸足感覚の薄底、足袋シューズを開発しました。
スポーツの強豪、熊本国府高校陸上部では4月から足袋シューズでの練習をスタート。
このシューズでフォームの改善に取り組む2年生のエース、山口星大さん。
体に衝撃がどかっと着くと、足の裏から腰まで衝撃がきて。
それから約半年後、走る時の衝撃に悩んでいた山口さんのフォームは、
悪くないんじゃないの。これくらいでいいんじゃない。
4月の山口さんはかかとから地面に着地していました。それが11月には足の裏全体で着地しています。
足袋シューズで体に負担をかけない走り方が身に付いてきたのです。
そして山口さんの記録にも変化が。5,000メートルのタイム。4月は16分10秒でしたが、約半年後には15分32秒に。40秒近く短縮していました。
4月からずっと足袋シューズを履いて走り方をいろいろトレーニングしてきたけど、これくらい大きな成長がある。
山口さんは、
「これで本当に変わるのか」と思っていたけど、足袋シューズを履きながら走っていたらフォームが変わってどんどんタイムが上がってきた。すごいでかい存在だったなと。
足袋シューズで高岡さんが目指すのは、
ケガをするのはシューズに依存し過ぎるのが一番大きな原因なので、自分の足をしっかりと磨くこと。ハードなトレーニングをして世界に通用する選手を作っていきたい。
ゼビオグループ
一方、足袋シューズを開発したきねや足袋の中澤さん。
10月20日、老舗の未来を掛けた大勝負に東京を訪れていました。
向かったのはゼビオグループ。売り上げ日本一のスポーツ用品専門店です。
今、市場が急成長するマラソンシューズに力を入れています。
担当者に足袋シューズを直接売り込みます。
取り出したのは改良版Toe-Bi。縫い糸が切れる問題は解決していました。
シューズの仕入れ責任者は、
適切な走り方、ケガが少ない走り方を提案していくことがポイントになる。
1ヶ月後の11月17日。
都内のスーパースポーツゼビオ調布東京スタジアム前店に中澤さんの姿がありました。ゼビオで売ってもらえることになりました。
まずはToe-Biのサンプルを店に並べます。
店内には一流メーカーのシューズがズラリ。
すごいですね。本当に名だたる企業がここに並んでいる。
いらっしゃいませ。足袋屋が作った足袋シューズです。
興味を持ったお客様が足を止めました。
実寸で25センチ弱です。
足袋シューズを履くのはこれが初めてだといいます。
確かに裸足に近いような感じ。
価格はどのくらいですか?
1万円です。
まずまずの反応です。
売り場にはナイキの厚底シューズもあります。
そしてその前に並ぶのが薄底のToe-Bi。
インパクトありますね。対極のシューズがここに。
未来をかけた老舗の挑戦、中澤さんは足袋シューズで一歩踏み出しました。
伝統だけにしがみついていると本当に衰退する一方なので、その技術を使って新しい一手を打つべきだと思う。
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