魚の飯 新橋店
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2016年1月、東京・新橋。
開店前から行列ができる人気のお店「魚の飯 新橋店」。
地方直送の新鮮な魚介類が手頃な価格で食べられると人気です。
この日、ある新食材がお披露目されました。
それが、とあるお重でした。
普通に「うな重」やん。
ウナギ。でも若干違う。
お目当ては
これですね、ナマズ。
ナマズですか…
しかも、このナマズは「うなぎ味」。
味や食感が「ウナギ」に近づくように改良されています。
それを使った「うな重」ならぬ「うなぎ味のなまず重(1,480円)」。
アンケートを書いていただきたい。
お客様にアンケートを取る、この男性は開発者の近畿大学、世界経済研究所の有路昌彦教授(41歳)。
「また食べたい」。食材として供給されることを望んでいる。今日は成功。
Peach Aviation株式会社
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それから3ヶ月後の2016年4月の関西国際空港。
有路昌彦教授がやって来ました。
そこは格安航空会社のピーチ・アビエーション株式会社の本社です。
有路昌彦教授を待っていたのは井上慎一社長。
そこに運ばれてきたのは機内食のサンプルです。
あの「うなぎ味のナマズ」を機内食に使いたいとピーチ・アビエーション株式会社から持ち掛けたのです。
この日は井上慎一社長の最終チェック。
美味しい。世界初、世界の航空会社でこんなものをやっているところはない。「ナマズかよ」という「ワォ感」がある。面白い、ぜひやらせていただきたい。
今後、機内食として販売されることが決まりました。
近畿大学
[blogcard url="http://www.kindai.ac.jp/"]
ウナギ味の「ナマズ」。
開発拠点は近畿大学です。
近畿大学といえば、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功するなど水産分野で様々な開発をしている大学です。
有路昌彦教授はここでナマズの養殖方法を研究しています。
匂いはすごくいいね。いつもよりは仕上がりがはいい。
試食会などを重ね、手応えを感じていた有路昌彦教授。
今年の夏の土用の丑の日を目指し、なんと10万匹の量産体制に入る計画を発表しました。
番組は半年に渡り、ウナギ味のナマズが世に出るまでの舞台裏に密着。
日本の食文化を守る初めての挑戦は予期せぬ出来事の連続でした。
食卓の常識を変える、新たな食材開発、その知られざる戦いを追いました。
鰻屋
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東京。豊島区にある「鰻屋」。
こちらのお店は本田技研工業株式会社の創業者、本田宗一郎を始め数々の著名人が愛したウナギの名店です。
愛知県産のウナギを使った「うな重」。
開業から50年、ウナギ好きの胃袋を満たしてきました。
しかし、
高いですね、ウナギは。無理して食べています。
価格は全体的に10年前の倍、ウナギを丸ごと1匹使う特上に至っては6,000円を超えます。
女将の遠藤早苗さんは
厳しい、これ以上の値上げは考えられない。職業を変えるわけにもいかないので、ウナギをどんどん入れてもらいたい。
国内のウナギの出荷量は15年前の4分の1以下にまで激減。価格が高騰しているといいます。
そんなウナギの危機に動き出したのが近畿大学。
近畿大学
近畿大学で「うなぎ味のナマズ」の開発を手掛ける有路昌彦教授。
ウナギの資源が厳しいことは百も承知。ウナギを守りたいという気持ちはずっとあった。1万円でも2万円でも出して、うな重を食べたい人には残しておくべきだけど、「ワンコインで」「1,000円以内で」と人には別のものでいけるんじゃないか。
ウナギが大量に消費されていることに危機感を抱いた有路昌彦教授。
別の魚で代用できないか、と2009年から研究を始めました。
数十種類の魚を蒲焼にしては試食を繰り返す日々。
5年前に養殖のナマズにたどり着きました。
飼育する水の環境、もう一つは餌、この2つです。
ナマズをウナギの味に変えるポイントは、改良した餌にありました。
23%くらいの脂質が入っている、5分の1は脂。
良質な脂を与え、綺麗な水で育てる。そうするとナマズがウナギに近い味になるといいます。
牧原博文さん
5月、鹿児島。
有路昌彦教授が向かったのは大隅半島。
日本一の出荷量を誇るウナギ養殖の一大拠点です。
鹿児島県は潤沢に湧き出すキレイな地下水に恵まれ、ウナギの稚魚、シラスウナギが遡上する川が県内にいくつもあります。
この地に有路昌彦教授とタッグを組み人がいました。
牧原博文さん(49歳)。
牧原博文さんのいけすにいたのは
これが去年入れた最後のウナギです。
ウナギを作り続けて40年、うなぎ養殖のプロです。
そして別のいけすを覗いてみると
でかい。魚の動きもいいし、水もいい。
そこにいたのはナマズ。
土用の丑の日に向けた「うなぎ味のナマズ」です。
こっちは稚魚。
こちらは来年出荷予定のナマズの稚魚。
量産に向けた準備が進んでいました。
しかし、なぜうなぎのプロがナマズを手掛けるのか?
もとはこの状態ですね。何年も飼育していなかったので、こういう状態になってしまった。
鹿児島ではここ数年、シラスウナギが獲れずウナギ養殖業者が相次いで廃業に追い込まれています。
30年前は約90あった業者が今では3分の1以下になっています。
ウナギの未来に危機感を感じた牧原博文さん。
4年かけて、ようやくナマズにたどり着きました。
マスとか手掛けてみたが、鹿児島では厳しい。スッポンをやったけどダメだった。ウナギの養殖場にナマズを試験的に飼育してみたら、餌食いもいいし成長も早かった。
牧原博文さんという養殖のプロと出会い、「土用の丑の日」に10万匹を届ける有路昌彦教授の計画が一気に加速しました。
ピーチ・アビエーション株式会社
6月1日、関西国際空港。
この日からピーチの機内に新商品が登場しました。
「近大発うなぎ味のナマズごはん(1,350円)」。
早速注文が入りました。
お待たせしました。
一般への販売は初めて、まずは700食限定です。
お客様の反応は
うなぎ味で美味しい。
うなぎとは違うけど、似た感じ。
まずまずの反応。土用の丑の日に向け第一段階クリアです。
ナマズの脂
6月10日。
近畿大学にやって来たのは鹿児島の牧原博文さん。
ある結果が出ることになっていました。
素晴らしい。
狙い通りの脂は残しているようですね。
ついに15%いきましたよ、かなり脂が乗っている。
うなぎ味のナマズ、脂質が15%に達していました。ウナギは約13~18%、それに匹敵する脂です。
狙い通りの結果に有路昌彦教授、嬉しそうです。
牧原博文さん
土王の牛の日まで1ヶ月に迫った6月下旬、鹿児島を記録的な豪雨が襲いました。
するとナマズの養殖場で大変なことが…
ちょっとまずいな。
大雨でいけすの水が濁るとナマズが弱ってしまいます。
水面には死んだナマズが…
実は大事な出荷を1ヶ月後に控えたこの時、ナマズの数が激減していたのです。
稚魚だけでも2万5,000匹入れたが、3,000匹くらいしか残っていない。
すぐさま、水の汚れをチェック。いけすから汲み上げた水に薬品を垂らして水の状態を色で判断します。
汚れてしまうと、どんどん酸性の方に向かう。この辺が近かった時があって殺してしまったのかな。まだ勉強中で、それだけが原因とは言い切れない。
汚れの原因は大雨以外にも餌の食べ残しや水温の変化等、様々です。
水をきれいに保つにはこまめに掃除を繰り返すしかありません。
これ以上、死なせるわけにはいかないのです。
2週間後、ついに出荷の日を迎えました。
牧原博文さんが苦労して育ててきた「うなぎ味のナマズ」が、その時を待ちます。
ホースを使っていけすのナマズを一気に吸い出します。
いけすには約2,000匹のナマズがいます。
しかし、それを全て出荷できるわけではありません。
まず最初の作業は
下ろしてきて仕分けます。ここが製品サイズで、こっちは規格外で大きくなったもの、こっちが池に帰るやつ。
大きなサイズ、出荷できるサイズ、そして小さすぎて池に返すサイズ、この選別機、牧原博文さんのお手製です。
1匹ずつ大きさを見極めながら選別していきます。
出荷できるサイズのナマズ。しばらくすると牧原博文さん、首を傾げました。
選別機に出荷できない小さいナマズがたまっていました。
牧原博文さんの予想以上にいけすにナマズが戻されていきます。
一体、何匹出荷できるのか?
終わり、1,500匹もいない。
結局、この日出荷できたのは600匹ほど。予定を大幅に割り込みました。
数日後、出荷の状況を有路昌彦教授が集計していました。
目標は合計で10万匹ですが、
全体で2万5,000匹。全く足りません。ちょっと作るのはできるけど、大量に作るとなると、まだまだ色々な技術開発をしなくてはいけない魚。
結果は目標の4分の1、土用の丑の日はどうするのか?
イオン株式会社
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土用の丑の日を3週間後に控えた7月初旬の近畿大学。
有路昌彦教授の研究室にある人物が訪れていました。
イオン株式会社のバイヤー、大北芳久さん。
ウナギと並ぶ目玉商品としていち早く「うなぎ味のナマズ」を売り出そうとしていました。
土用の丑の日に向けて約8,000匹を発注。
しかし、
もっと大きな量から市場を作れるようにと頑張ってきましたけど、ちょっとしか作れず。
大北芳久さんの反応は、
計画の半分にいくか、いかないかという状態ですけど、来季に向けてさらに大きなマーケットを作っていくのが我々の使命。
出荷できるのは契約の半分以下の約3,000匹。しかし今回はそれで納得してくれました。
ナマズの加工
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その頃、水揚げしたナマズの加工が急ピッチで進んでいました。
蒲焼サイズにカットされ、焼き上げられていきます。
蒲焼のタレをかければ完成。
あとは冷凍保存され、出荷を待つばかりです。
7月22日、イオン品川シーサイド店。
ウナギの蒲焼の隣に並べられたのは初めてスーパーに御目見した「うなぎ味のナマズ」の蒲焼です。
まだ出荷量が少ないので価格は少し高めの1,598円。
メディアも多数駆け付け、話題性は抜群です。
ナマズというと構えちゃうけど、試食したら美味しかった。
ママ、買って。
子供におねだりされたお買い上げ。お客様の評判は上々です。
魚勝
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そして迎えた土用の丑の日。
こちらは岐阜県にあるウナギを扱う老舗の料亭「魚勝」。
日本で唯一、土用の丑の日にうなぎ味のナマズを売り出します。
週末ともあってお客様の列が出来上がっていました。
厨房も大忙しです。
焼かれているウナギの横に「うなぎ味のナマズ」が焼かれます。
脂の乗りがナマズの方が間違いなく多い。
店で裂かれ、串を打たれたナマズ。
ウナギの職人も認めた脂です。
秘伝のタレをかけながら焼き上げていきます。
近大発なまず丼(1,200円)。
うな丼と比べても見た目では分かりません。
ほとんどの人がうな丼を注文する中、ナマズ丼を頼む人も。
土用の丑の日に食べるナマズ。
美味い。普段はウナギ、ナマズは初めて、食べたくて来た。
こちらの男性も好奇心から。
分からない、うなぎにしか思えない。
土用の丑の日は書き入れ時、通常の3倍のお客様が訪れていました。
うな丼600杯に対してナマズ丼は30杯ほど出ました。
店主の佐藤彰洋さんは
ウナギと食べ比べると、まだウナギのほうが美味しい。限りなく近づいているので有路先生には期待している。
10万匹という構想は崩れましたが、なんとか走り出した新食材。
有路昌彦教授は
次のステップとしてはスーパーに当たり前に置かれる状況を作る。最終的にはワンコインで牛丼屋に丼飯で出るように持っていきたい。
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