青いナポリ
2月のある日、「青いナポリ」を訪ねてみると店内は満席状態。駅から離れた場所にも関わらず、お客様で溢れかえっていました。
本格イタリアンを楽しみながらお客様は思い思いの時間を過ごしていました。
住宅街にポンってあったのがすごく魅力的で。
こういう所にあるのは結構意外。
この店がオープンしたのは9年前。口コミで年を追うごとにお客様が増えているといいます。
株式会社バルニバービ
東京・台東区。株式会社バルニバービの東京本部があります。
ここである会議が開かれていました。
佐藤裕久社長、新たな出店候補地を選んでいます。
でかいね。これちょっとあれだね。ちょっと手に負えない。
株式会社バルニバービに持ち込まれる物件は年間約1,000件。その内、出店にこぎつけるのは1%にも満たないそうです。
佐藤裕久社長、ある物件に目が止まりました。
こちらの物件は倉庫で緑化があって。
緑化ってどれ?
緑道になっています。
駅から離れた人通りの少ない場所。普通なら敬遠される立地条件ですが建物の前の緑道を見た佐藤裕久社長は、
絶対、前に建物が建たない。前に必ず光が入るスペースが絶対取れて、しかもそれが気持ちいい。オープンのオフィスができるとか、晴れた日はここでミーティングみたいな。
佐藤裕久社長
元々アパレル業を営んでいた佐藤裕久社長。仕事で行ったフランスでカフェの魅力に出会いました。
日本にもこうした憩いの場が欲しいと飲食業に乗り出したのです。
1号店はお金がないので、歩いて15分以内で、それでいて人に忘れ去られていて僕らがやれば面白いと思うような、ずっと原点、今やっていることは全く一緒。
1号店は賃料の安い倉庫街の物件を丸ごとカフェに改装。意外な場所に生まれたカフェは瞬く間に評判となり大阪きっての人気店となりました。
その後も飲食店に不向きな場所で個性的な店を次々にオープン。
現在74店舗で売り上げは約85億円に上ります。
新店舗
1月下旬、大阪・豊中市。ここに佐藤裕久社長の姿がありました。
大阪の中心部から15km離れたこの場所に新たな店をオープンさせようとしていました。
交通量が多い道路に面し、一見好立地に見えます。しかし、ここは飲食店には曰く付きの場所でした。
地域の住民は、
また変わっているな、という。
もう何年かに1回、入っては潰れて入っては潰れて。もう4回か5回変わっている。
店の前の道は大阪市と郊外をつなぐ通勤路として使われているといいます。そのため通り過ぎるだけの車が多いのです。
さらに道路の両側に建物が密集しているため、車からの見通しが悪く店があっても気付かれにくいのです。
どの店も集客に苦戦し、店を出すも撤退という状態が繰り返されていました。
そんな飲食店に向かない場所での出店。佐藤裕久社長、ある秘策を考えていました。
目をつけたのは店の近くに広がる住宅街。車の利用者を狙うのではなく、地域の人達を呼び込もうというのです。
そのため店に大胆な仕掛けを施すことに。
入口があって駐車場があった所だけど、ここが店になっていく。
敷地の半分以上を占める駐車場の一部を無くして大規模なガーデンテラスを作ることにしたのです。
「地域の人達がいつでも気軽に足を運べる店にしたい」。佐藤裕久社長、今回はレストランだけでなく自家製のパンを作る工房と売り場を作ることに決めました。
さらにそれだけではありません。飲食店の常識とは逆の発想も取り入れようとしていました。あえて座席数を減らし広々としたくつろぎの空間を作る。回転率を度外視した戦略です。
まさしく、これもバッドロケーション戦略。坪家賃が一般的な中心部からしたら何分の一。坪当たりの効率をそんなに上げなくてもいい。むしろ無駄な空間がゆったり過ごしてもらえる時間に直結する。
店の完成予想図。店名はゆったりとくつろげるという意味の「LOAF」にしました。
地域の人たち
店長の加賀康生さん(31歳)。店の近くの住宅街に来ていました。
地域に根付いていきたいと言っているのに、地域の人たちとコミュニケーションも取らず、顔も合わせず、自分たちの告知だけするというのは違うと思うし。こういうのを大事にしていきたい。
地域の人たちはどんな店や商品を求めているのか聞き込みをします。
そこのローフカフェですけど、パンの販売をするんですけど「こんなパンあったらうれしいな」とかあります?
パン好きなんですよ。毎週土曜日、食パン1斤半買って食べている。
食パンですか。
さらに、
お店の要望ですか?
あればお伺いしたいんですけど。
定番のフランスパンとか食パン系の美味しいパンがあれば間違いなく定期購入します。近いので。
加賀康生さん、何か掴めたのでしょうか?
パン作りの責任者に相談を持ち掛けます。
毎日使ってもらえる店になっていきたい。毎朝食べてもらえるパンがあれば。食パンはもう出来上がっているというか、どう面白くするか。
そこからまた新しいかたちを作りたい。うちにしかないぱ食パンを作れたら。
目指すのは新たな豊中名物となる食パンです。
新しい食パン
早速、試作品作りが始まりました。
飽きの来ない味を出そうと生地にハチミツを混ぜ合わせます。それをミキサーに入れ何度も練り込みます。特製のパン生地が出来上がりました。
伸びてますね。
取り出したのはオレンジ色の粒。パン生地に満遍なく撒いていきます。
一体どんな食パンができるのか?
ガーデンテラス
オープン5日前の2月1日、店に大きな問題が持ち上がっていました。加賀康生さんがしきりに気にしているのはガーデンテラスです。
テラスがまだ仕上がっていない。
駐車場を潰してまで作ることにした店の目玉となるガーデンテラス。その工事が大幅に遅れていたのです。
オープンの日は地域の皆さんにも告知済み。遅らせるわけにはいきません。
加賀康生さん、焦っていました。
The LOAF Cafe
飲食店に不向きな場所への出店で業績を伸ばしてきた株式会社バルニバービの佐藤裕久社長。
店が出ては撤退を繰り返す難しい場所に新たな店が出来上がりました。
住宅街から見ると周囲に溶け込む緑がポイントです。
2階のカフェレストランは奥行きのある広々とした空間が広がっていました。
地域のコミュニティーの場所になって欲しいとあえて座席数を減らし、卓球台を置きました。
1階は焼きたてのパンが食べられるベーカリーコーナー。カウンター席に座ると食事をしながらパン工房が見られる遊び心を取り入れました。
そして工事が遅れていたガーデンテラス。何とか間に合ったようです。
かっこいいな。ギリギリ、昨日の夜までやっていた。
駐車場が緑と日差しが注ぐ場所に生まれ変わりました。
開店時間が迫る工房ではパン作りが急ピッチで進みます。
新たな豊中名物にしようと開発したパン。それはなんと丸い形の食パン。中に入っているのはあのオレンジ色の粒です。
実はこれ焼いても溶けないハチミツのキューブです。生地とは違う食感で上品な甘さが楽しめます。
オープン1時間前には開店を待ちきれないお客様が詰め掛け行列が出来ています。飲食店の撤退が相次いだ場所に大行列が出現しました。
一発気合い入れようか。
午前9時、新たな店がオープン。
店内はすぐに大混雑。トレイ一杯にパンを買う人たち。あの丸い食パンも次々に買われ、開店1時間で売り切れてしましました。
形も美味しそう。
結構ここはいろいろと店舗が変わっていたけど、ここだったら感じがいいので友達を気軽に来られそう。
一方、2階のレストランも開店と同時に満席に。
美味しそう。
テラス席に向かいお客様も相次ぎました。
この日は終日テラスを利用するお客様が絶えませんでした。
せっかくなのでテラスの席で食べてみたいなと思って。いいですね、外も。
開放感のある中で食べられるので楽しく食事ができると思う。
あえて悪い立地に店を出すバッドロケーション戦略。
佐藤裕久社長、これからも積極的に出店を続けていくといいます。
オリジナルの道や、この世にないものを作り上げていく。誰かがやって流行っているからとか、このエリアがいま流行っているとか、そういう世間の基準ではない我々の基準でちゃんと取り組んでいきたい。
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