欠陥エアバッグ問題で経営が悪化していたタカタは6月26日に東京都に民事再生法の適用を申請し受理されました。
負債総額は1兆7,000億円に上るとみられています。
製造業としては戦後最大の経営破綻です。
タカタはエアバッグの他、シートベルトなど自動車の安全に関する製品を手掛け世界的に高いシェアを誇るメーカーです。
しかし、主力のひとつであるエアバッグで異常破裂が発生しました。この製品の欠陥によってアメリカやマレーシアで死亡事故が発生して、これまでに16人が亡くなりました。
リコールは1億個を超える大規模なものになり、業績は悪化していきました。
そして6月26日、タカタは都内で記者会見を開き高田重久会長兼社長が久しぶりに公の場に姿を見せ陳謝しました。
経営破綻を余儀なくされたタカタで一体何が起こっていたのでしょうか?
株式会社東京商工リサーチ
6月26日、午前7時半。企業の信用度を調査する信用調査会社の大手、東京商工リサーチの後藤賢治さん。
向かった先はタカタの本社。
今朝、経営破綻するという情報を掴み、倒産速報をいち早く出すため直接調べに訪れました。
しかし対応した社員は「弁護士が答える」の一点張り。情報を得ることはできませんでした。
詳細はつかめない状態。
同じ頃、東京商工リサーチの本社では、
何か本社から聞いていることや取引先に通知を出すことはあるか?
まだ本社からの通知はないか?
タカタの下請け工場や取引先の企業に本社から経営破綻の情報が届いていないか調べていました。
すると1時間後の午前9時、
タカタのリリースが出た。タカタの申請が受理されている。
タカタのウェブページでの発表からタカタ経営破綻の速報を出すことができました。
今回の最大のポイントは負債総額です。タカタの発表では約3,800億円でしたが、
1.3兆か1.5兆。リコール費用は・・・1.3兆円にタカタ発表の3,800億円を足す。
東京商工リサーチが算出した額はその4倍以上の1兆7,000億円。タカタの発表にはトヨタ自動車やホンダなど各自動車メーカーが負担したリコール費用が含まれていなかったといいます。
東京商工リサーチの原田三寛部長は、
エアバッグで約2割の世界シェア。グローバルに工場を展開しているので相当大きな金額になった。製造業では戦後最大の大型倒産。
タカタ株式会社
午前11時半。タカタが会見を開きました。
高田重久会長兼社長、公の場に姿を現したのは2015年11月以来、約1年半ぶりです。
これまで支援と協力していただいた関係者、債権者に迷惑をかけることになり、タカタ株式会社を代表して心より深くおわび申し上げます。
経営破綻を謝罪。そして、
事業譲渡までの適切な時期に私は経営責任を取って辞任し、次期経営陣に引き継ぐ。
「今後、創業家は経営・株主としても新生タカタと関わりを持たない?」
ちゃんと事業が継承されると分かった時点で辞任する予定。
今回の公的整理ではアメリカの自動車部品大手、KSS(キー・セイフティー・システムズ)の支援を受けながら経営再建を目指します。
新会社を設立し、リコール費用の支払いなど債務は旧会社に残す計画です。
しかし会見中、気になったのはこの言葉です。
事故は開発時には予見不可能だった。なぜ起きたのか非常に不可解。いまだに苦慮している。
経営破綻に関しては謝罪しても、エアバッグが引き起こした事故に対して謝罪の言葉を口にすることはありませんでした。
またエアバッグ問題が発覚して10年余り、高田会長兼社長が公の場に姿を現したのはほんの数回。
「公の場で説明責任を果たしてこなかった。消費者軽視も甚だしい。」
「再建プロセスに直接コメントしたり私見を述べるのは適切ではない」と、余計なノイズを出すなという話もあった。
タカタのこうした企業体質はどこから生まれたのか?
自動車業界の内情に詳しい専門家、ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は、
自分たちだけなぜ責任を問われるのかと少し被害妄想に陥り保身に走った。早く対処していれば解決できない巨大な構造をつくることはなかった。もう少し自主的に問題解決に向けた姿勢を示すべきだった。
さらに会見でタカタは東京商工リサーチが1兆7,000億円を超えるとした負債総額を明確にしませんでした。
巨額とみられる負債に素早く反応したのが政府です。世耕経済産業大臣は、
タカタと一定の直接取引関係を有する事業者に対して別枠での100%保証を行うセーフティーネット補償1号の発動などの対策を早急に講ずるよう指示した。
タカタの負債
総額1兆7,000億円。製造業としては戦後最大の負債総額となったワケですが、その内訳を見てみるとタカタの国内外のグループ15社が抱える借入金や社債などの総額が約3,800億円。
残りの1兆円あまりの負債は欠陥エアバッグのリコールにかかった費用です。トヨタ自動車、ホンダが6,000億円に迫る金額となっています。
実はこうした費用、タカタではなくて各自動車メーカーが肩代わりをしていてタカタに支払いを請求していました。
ところがタカタの経営破綻を受けて各メーカーはこの費用の回収は困難であると発表をしました。
さらにタカタ本体の負債でも大きな問題が残っています。約3,800億円の内、下請け企業に支払われていない代金などが約1,000億円あるといわれています。
この状況を下請け企業はどう見ているのか、現場を取材しました。
社会福祉法人八身福祉会
2017年2月、東京商工リサーチがタカタの下請け企業51社に対してアンケートを実施。
その中で一番の要望が売掛金等の債権の全額弁済。
そして、その次に多かった要望が、
「調達先の変更を回避してほしい」や「サプライチェーンの確実な保全による滞りのない納品」は2番・3番の回答。
受注を確保できることを望む声が相次ぎました。
そんなタカタの下請け会社が滋賀県東近江市にありました。
八身福祉会では約25年間、タカタから部品の組み立てを受注してきました。
小島滋之施設長は、
今、タカタから仕事をもらっているシートベルトの運転席の肩部分の部品。2万5,000個くらい1日平均作っている。
ここで作っているのはシートベルトを引っ掛けるリング状の部品。
35人の障害者が作業にあたっています。
タカタ部品の年間の売り上げは6割以上を占めいていて障害者の雇用を維持する上で欠かせないといいます。
会社の方針で労働力の安い海外へ製造を移管するとなれば受注が減ってくるので不安もある。
不安を口にした小島施設長。午後になるとある場所に向かいました。
「どこに向かっている?」
タカタの彦根工場に。民事再生法を申請されたのでタカタが「説明会を開催する」と。
下請企業向けの説明会を開くと今朝9時頃にタカタから連絡があったといいます。
タカタ創業の地、滋賀県にとってタカタはどのような存在なのか?
製品をしっかり納めていれば障害者がいる事業所でも一般企業と別け隔てなく仕事をもらえる。影響の大きい会社。
タカタの彦根製造所に入っていく小島施設長。説明会には15社ほどの下請け企業が参加したといいます。
下請け企業「外資企業に経営が変わっても取引は継続するのか?」
タカタ側「今の時点では何もわからない。経営再建計画が具体化してからまたお知らせする。」
下請け企業に対して約20分の説明を行ったというタカタ。
話を聞いてきた小島施設長は、
現時点では取引継続ということ。とにかく粛々と日々生産していく。
KSS(キー・セイフティー・システムズ)
アメリカ自動車部品、KSSのジェイソン・ルオCEO。
これは「トヨタ経営大全」。トヨタの本は他にも何冊も持っている。
本棚に並んだ日本の経営者や日本語の本を手に歴史や文化を重視していることを繰り返し強調しました。
そのルオCEO、タカタが日本国内で培ってきた技術力を生かすため、当面は生産拠点と雇用を守ると明言しました。
現時点では日本の生産拠点のリストラの予定はない。日本の雇用を守るのは重要なことだ。
タカタのモノ、人を引き継ぐことで日本での事業拡大を狙うKSS。タカタの再生で注目する部門を尋ねると、
タカタはKSSより非常に優れたシートベルトを作る。新たな投資では電気部門と将来性の高い安全システム向上のソフトウェア開発を考えている。
タカタが先行するシートベルトや安全技術に関する開発部門が再建の柱になることを示唆しました。
一方、KSSは2016年に中国の自動車部品メーカーの小会社となっており今後の運営に及ぼす親会社の影響や技術の流出に対して懸念の声もあります。
確かに親会社(寧波均勝電子)はKSSに取締役を派遣している。だがKSSはグローバル企業だ。日々の経営は独立している。
売上規模は親会社と合わせてもタカタの半分以下というKSS。競合メーカーだからこそタカタをさらに強い企業にできると強調しました。
「小が大を呑む」ように見えるかもしれないが商品も顧客も重なるから両方にとって良い判断ができる。より強く成長できる企業に育てられる。
株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ
製造業では戦後最大となったタカタの経営破綻。しかし自動車アナリストの中西さんはリコール問題の責任はタカタだけでなく自動車業界全体にあると指摘します、
自動車メーカー側は自分たちが責任の中心にはいきたくないと、それくらい問題の構造が大きかった。非常に恐れていたと思う。深刻化するまで業界通じて問題解決していくタッグが組めなかった。
「今回の問題で自動車業界が学んだことは?」
作られた車を販売して、その車は10年も15年も続く。中古車ユーザーも含めて長いライフサイクルで製造の責任を負っているのは自動車メーカー。最終的には自動車メーカーに返ってくる問題。何かあった時に対処できるバックアッププランを含めてメーカーが真剣に取り組んでいかなければいけない。
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