南国市
高知県南国市。名産品は全国の約1割を占めるというシシトウ。農業の町です。
南国市には他にも意外な名産品が、原料は白い山肌。
その加工を手掛ける工場を覗いてみると山肌の白い岩が小さく砕かれ高温で焼かれていました。
出来上がったのは石灰です。塗り壁のさ材料になる石灰。こんにゃくを固める凝固剤など食用としても使われます。他に工業用や医療向けにも。
そんな石灰を武器に新たな名産品作りが動き出していました。
それがワイン。
今まで何でもなかったようなものが名産品に化ける。
井上石灰工業株式会社
高知県南国市。この町で石灰の製造を手掛ける井上石灰工業株式会社。130年以上の歴史を誇る老舗です。
会社を率いるのが社長の井上孝志さん(49歳)。
これは、どこにも負けない日本一、世界一の石灰。
焼かれた後の黒ずんだ石を砕くと中は真っ白。純度が高い証拠です。
戦後間もない頃、昭和20年代の南国市の写真には山肌に石灰工場が立ち並んでいます。
当時は日本有数の「石灰の街」として活気づいていました。
ところが、今は、
小さな穴が空いていますけれど、あれが「土中炉」。
最近は石灰の需要が減り、この20年で半数の工場が閉鎖。南国市の石灰産業は苦境にあえいでいました。
そこで井上孝志社長が打って出たのは、自社の強みを生かした新たな名産品作りでした。
まだ若いのでザラザラした感じ。
この色が良い。すごく濃い。
井上孝志社長が挑むのは地元のブドウで作るワイン。4年前、高知で初めてワイン用のブドウ作りをスタートさせました。
それにしても、なぜ高知でワインなのか?
これが石灰の山。ここは石灰の埋まった大地。フランスのブルゴーニュ、あの辺りも石灰の台地がある。うちの近くも石灰山。同じ台地でブドウを作ると面白いものができる。
石灰のプロ、井上孝志社長。ワインの名産地、フランスのブルゴーニュと同じ石灰質の土壌に目を付けました。
ブドウ栽培を担当しているのが大畑宏史さん(38歳)。
日射量とか、味の決め手はその辺。注意して管理していく。
ICボルドー
2016年6月上旬、井上石灰工業株式会社のブドウ作りが始まっていました。
大畑宏史さん、倉庫からある物を取り出しました。
「ICボルドー」という殺菌剤です。地元で取れた石灰を使って自社で開発しました。
ブドウについた病気などの菌をこれで殺菌します。
高知はすごく雨が多い。そういった中でICボルドーは武器になる。
大畑宏史さん、かつては農業法人で働いていました。その経験を買われて4年前、井上石灰工業株式会社に招かれブドウ作りを担当することに。
その大畑宏史さんが最も気にかけているのが「雨」。
ブドウは菌が増えやすく、雨に弱いのです。
そこで欠かせないのがICボルドー。天然由来の殺菌剤でブドウを守るといいます。
ところが6月、高知に大雨が。
あんまり良くない。
果たしてブドウは持ちこたえられるのか?
病気
ワインを高知の新たな名産品にしようと南国市でブドウ栽培に挑む井上石灰工業株式会社の大畑宏史さん。
カビなどの菌が増えやすいブドウ、そこで石灰から作った自社の殺菌剤、ICボルドーを撒いています。
しかし、雨が多いと畑に菌があ発生する可能性が高いといいます。
病気が出る。あんまり良くない。
数日後、ようやく雨が上がった畑に大畑宏史さんの姿が。
大丈夫。
なんとかブドウは雨に持ちこたえたようですが、大畑宏史さん、突然ブドウの葉を切り始めました。風通しを良くし菌の発生を抑える作戦です。
ICボルドーとの合わせ技でブドウを作る地道な作業です。
収穫
8月23日、収穫の日を迎えました。
果たして、ブドウの出来は?
量は少ないと思う。環境の問題もある。
雨が降って量は減りましたが、ワイン1,000本分を収穫できました。
志村葡萄研究所
翌日、山梨県笛吹市。そこに大畑宏史さんと井上孝志社長の姿が。
向かったのはワインの醸造所「スズラン酒造 葡萄酒醸造場」。
志村葡萄研究所の志村富男所長(70歳)はブドウ栽培からワインの醸造まで国内外で指導するワイン造りの達人です。
高知にはま、まだワインの醸造所がないため収穫したブドウを今年は志村富男さんに醸造してもらうことにしていました。
志村富男さん、早速、味を確認。果たして、その評価は?
糖と酸のバランスも非常に味が濃くできているから、いい状態。
ほっとしました。
続けて手にしたのは糖度計。糖度が20度を超えると良質なワインができるそうです。
22~23度ですから非常にいい状態。
糖度計の数値は約23度。上々の出来です。
大畑宏史さんは、
栽培でもっと上手く出来たのでは、と思う部分も多かったので、ほっとしている。
そして醸造を志村富男さんに託します。
高知のブドウから、どんなワインが生まれるのか?
10月21日、高知市内のホテル。
井上石灰工業株式会社が作ったワインのお披露目です。
名前は「TOSA」といいます。
井上孝志社長、高知産のワインをアピールするため「TOSA」と名付けました。
招待客は飲食店関係者など約200人。味に厳しいプロたちが果たしてどんな評価を下すのか?
東京都内でレストランを手掛ける女性。
高知は雨も多いし、水っぽくなることも多いでしょうが、熟成させると面白くなっていくと思う。
イタリアンの店の経営者は、
やっぱり若い。まだまだだけど可能性をすごく感じるワイン。
井上孝志社長、自分たちのブドウ作りに手応えを感じたようです。
2017年1月、会議室に井上石灰工業株式会社の幹部が集まっていました。
高知のワインをどう広めていくのか、その戦略会議です。
高知のことを外に発信していこう。買ってくれた人が広告塔になって動いてくれるような。
井上孝志社長のアイデアはファンクラブ、「TOSAワイン同盟」を作ること。ワインを買って宣伝をしてくれる人を増やそうというのです。
今年の目標は収穫を倍にすること。そして近い将来、ワインの醸造所も地元に作る計画です。
私たちが130年、営んできた強みをもとに新たしいものを作っていくことが大事。地方が、若い人たちが元気になれるようにやっている。
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