ふるさと納税は好きな自治体を選んで寄付をすると、その自治体からお礼の品が貰えるというものです。
このお礼の品は地方の特産物だけでなく、高価な家電製品や商品券などを返礼品として提供する自治体もあり、ふるさと納税の納税額は急増しています。
しかし4月に総務省が自治体にある通知を出したことが波紋を呼んでいます。
通知の内容は商品券や電化製品など換金性の高いもの、高額なもの、さらに寄付の額に対して返礼品の価格が高い、いわゆ還元率が高いものは送付しないようにという通知です。
しかし、総務省のこの通知には自治体によって対応が分かれているため、返礼品を提供する地元企業にも動揺が広がっています。
焼津市
静岡県焼津市。ふるさと納税の寄付額で全国2位を誇ります。
数ある返礼品の中でも人気なのは海の幸「本まぐろと南まぐろの食べ比べセット(2万円の寄付(1万円相当品))」。それぞれ中トロと赤身が入っていてシャリまでついています。
この返礼品を作っている水産加工会社「マルイリフードサプライ」を訪ねると寺岡弘泰社長は、
これはメカジキ。300キロ以上ある。粕漬けにしても味噌漬けにしてもおいしい人気商品。
ふるさと納税の返礼品の加工作業に追われていました。この会社では52品目の返礼品を作っていました。
ふるさと納税の梱包をしている。駆け込みと言われているが人数を増やして対応している。
ここ2ヶ月は前年の3倍の受注があるといいます。
駆け込みと言われる理由は焼津市が7月を目処に還元率を引き下げることにしたためです。1,400を数える焼津市の返礼品の還元率は約5割。1万円を寄付すれば5,000円が返ってくる計算です。
ところが、焼津市の中野弘道市長は、
3割という指示・指導なので。3割は3割。
4月に総務省が出した制度見直しの通知により還元率を5割から3割に引き下げる予定です。
また換金性の高いカメラや腕時計は廃止することになりました。
「総務省の通達をどう考える?」
基本的に制度が一定になる指針だと思う。産業振興、雇用の創出も含めて焼津市のPRになることは変わりない。
しかし、返礼品を手掛ける水産加工業者は不安の色を隠せません。
返礼品の好調な受注を受けて、新たに従業員を雇用し、設備投資もしてしまったからです。
当然、返礼品の数が少なくなるのでお客様は少なくなる。返礼品が多くなることにあわせて雇用してきたので、その辺は不安。
草津町
群馬県草津町。日本有数の温泉街として知られるこの町の返礼品が「くさつ温泉感謝券」です。草津町の旅館や飲食店など300店舗以上で使えます。
3万円の寄付で1万5,000円文が貰えるため還元率は5割。しかも換金性が高い金券です。
総務省の意向に反したこの返礼品。草津町役場にも通知が届いたといいます。
しかし黒岩信忠町長は、
還元率3割については時期を見て判断したいが、「感謝券をやめなさい」というものは従うつもりはない。
実は草津町は知名度にも関わらず、人口約6,500人と小さな町です。今年度の町の税収は約48億円。そんな中、年々増加するふるさと納税の額は約13億円になる見込みです。
ふるさと納税がなければ、観光への役立て、福祉・教育の充実は図れない。本当に小さな町だから。
さらに「くさつ温泉感謝券」は町の活性化にも一役買っています。
1599年創業の旅館「草津温泉 望雲」は源泉かけ流しが魅力のひとつ。
フロントで見せてくれたのは、500枚以上の感謝券です。黒岩裕喜男社長は、
これでだいたい10日分。利用する人が年々増えている。
この感謝券をきっかけに草津町に来るという人も数多くいるといいます。
さらに黒岩裕喜男社長は、
1万円の感謝券を持ってくる人は、その2倍、3倍と使っている。地域の経済にとってはありがたいもの。
しかし高市大臣は総務省の意向に従わない自治体に名指しで改善を支持したこともあります。草津町はそれでもこの感謝券を続けるのでしょうか?
黒岩信忠町長は、
総務省がもし出てきなさい、というのなら喜んで私が行きます。そのぐらい、わが町のふるさと納税を自負している。
各自治体の対応
この他の自治体でも対応が分かれています。
長野県飯田市は90万円以上の寄付をした人に返礼品として送っていた30万円相当の高級腕時計を廃止。
宮崎県都城市は返礼品の還元率を5割から3割に引き下げることにしています。
一方、北海道当別町は10万円の寄付に対して提供している5万円相当の航空券を廃止しない方針です。当別町は人口減少対策や移住促進のためだとしています。
ふるさとチョイス
お得な返礼品がなくなるのでは、という懸念からふるさと納税の情報サイト「ふるさとチョイス」にも影響が。
ふるさとチョイスを運営するトラストバンクの須永珠代社長は、
今まで還元率が高かった自治体の還元率が下がるのではないかという報道を見て、駆け込み寄付する人が増えた。
総務省が返礼品見直しの通知を検討していると伝えられた3月下旬、サイトを訪れた人は去年の1.8倍に増えたといいます。
佐賀県上峰町のウナギの蒲焼きや、宮崎県都城市豚肉など、還元率が高いと思われる自治体が人気でした。
ふるさと納税を利用している人は、
一律3割がいいのかかは分からない。各自治体のためになっているなら、数値に縛られず自治体が判断してもいいのかなと。
欲しいものがもらえなくなると悲しい。ふるさと納税を利用する人が少なくなりそう。
自治体の間にも懸念が広まっているようです。
須永珠代社長は、
寄付金が減るのではないかと懸念している自治体は多い。3割を実施する時期は横にらみの状態。明確な基準がないので順次対応していくのかなと。
杉並区
一方、東京都杉並区ではふるさと納税が始まってから住民税の流出が年々増加しています。今年度は11億円の税収減が予想されています。
田中良区長は、
保育園でいえば流出した11億円で3つくらいつくれる。経営者としては危機感を持つ。
これまでふるさと納税について反対の姿勢を示してきた田中良区長ですが、一転、ついに返礼品の導入を決めました。
ふるさと納税をつぶすにはどうしたらいいか、自分たちが税収を取り戻せば、国として「こんなことをやっても意味がないのでは」となるに決まっている。
杉並区の返礼品、福祉施設で作ったもので約3,000円分が1万円の寄付で貰えます。
「税収の流出は止まるか?」
なかなか止まらないのではないか。肉もないし何もないから。大事にしたいのは、このふるさと納税は何のためにやっているのか。何のために呼びかけているのか。
あえてふるさと納税を導入することで、この制度の仕組みに一石を投じたいと考えています。
官製通販みたいなもの。それを税金でやっている。そういう構造を地方にばらまいていくことは本当に地方創生につながっているのか。
高市総務大臣
こうした各自治体の対応にふるさと納税の見直しを通知した総務省の高市総務大臣は、
今の時点でまだ対応が分かれているとか、正式に方針を決めきれていないということについては、まだ仕方ない。想定内だと考えている。
コメント