企業の財務責任者に成長戦略を聞く「CFO参上」。
今回は医薬品メーカーのエーザイです。
エーザイの去年の株価からご覧頂きます。去年の6月に急上昇しています。これは注目されていたアルツハイマー治療薬がアメリカで承認されたことを受けて投資家の買いがグンと膨らみました。ただその後、この新薬の治験で期待していた結果が得られなかったと伝わると株価は逆に下落してしまいます。さらに12月にはEUと日本でも承認が見送られて株価は高騰する前の水準に戻ってしまったという状況です。
医薬品メーカーはこうした新薬の動向に株価が大きく左右されがちですが、財務諸表には現れないある価値を引き上げることで投資家の評価を得られるといいます。
そのある価値とは何か、CFOに話を聞きました。
新薬開発に左右されない経営へ!中長期で企業価値向上
東京・文京区に本社を置く製薬メーカーのエーザイ。
家庭用医薬ではビタミン剤や胃腸薬、ハンドクリームなどを手掛けていますが、売り上げの大部分を医療用医薬品が占めていています。
財務戦略を担うのが柳良平CFO。
新卒で銀行に就職した柳さんは銀行員時代の出向先だったエーザイに入社するも外資系証券会社に転職。そして2009年に再びエーザイに戻り、2015年にCFOに就任しました。
柳さんは理論派のCFOとして知られていて海外機関投資家やアナリストが選ぶ日本のベストCFOにヘルスケア部門で通算4回選ばれたほか、財務に関する書籍も多く出版しています。
まずは話題となった新薬について聞いてみました。
「アデュヘルムはアメリカで承認されましたが、ヨーロッパでは難しいという報道がされました。」
申請・承認・発売のニュースフローで株価が乱高下するのは避けて通れない。
CFOの「受託者責任」は何か。
中長期的ビジョンの財務戦略・非財務戦略が重要。
市場の評価は「見えない価値」!理論派CFOの財務戦略
その財務戦略・非財務戦略とは一体何か。
まず決算資料に示されている数字を元にした財務戦略について聞きました。
総資産が1兆円強の会社。そして負債勘定が3,000億円くらい、残りが7,000億円くらい。会社の価値は大体7,000億円とひと目で分かる。
自己資本比率に直すと60%以上。非常に健全なレベル。
こちらがエーザイの2021年3月期通期の決算資料です。
企業の財務状態を示すバランスシートを見てみると自己資本と負債の合計で占める自己資本の割合、自己資本比率は60%以上。一般的な50%あれば非常に健全とされる水準を上回ります。
つまり返済する必要がない自己資本の割合が大きほど経営が安定していると見なされるのです。
では非財務戦略とは何を指すのでしょうか。
時価総額2兆円、「見える価値」は7,000億円。その差は1兆3,000億円。⇒「見えない価値」
純資産は見える価値、株価純資産倍率(PBR)では1倍と評価されるのに対し、1倍を超える部分こそ見えない価値としての株式市場からの評価だといいます。
PBRの赤い部分が市場付加価値。「見えない価値」。
非財務資本の価値、知的資本・人的資本の価値、EGSの価値。
株価純資産倍率は会計上の簿価純資産の何倍の時価総額かを示す指標。
PBRは10年平均で3倍。1兆円以上の「見えない価値」を市場は評価。
では投資家は何を根拠に評価しているのか、柳さんが行き着いたのはESG。研究の結果、ESG投資と企業価値の関係を数値化することができました。
エーザイを例に取ると人件費を1割増やすと5年後のPBRは13.8%上昇。女性管理職比率を1割上げると7年後のPBRが2.4%上昇することが分かりました。
「柳モデル」と呼ばれている定量化データ。
柳モデルの説明をすることで信任され投資家の評価が一変した。
海外のESGファンドからオーバーウェイトの傾向が強まった。
そして去年、その柳モデルをさらに発展させ、従業員の給与を一定の調整をした上で利益に加算するという会計モデル「従業員インパクト会計」を発表しました。
人が一番大事なアセットで人が価値を生み出す。
人件費はサンクコスト(埋没費用)として営業利益から引かれてしまう。
人件費は費用じゃなくて投資。営業利益に足し戻して考えるべき。