企業の不正問題が続発していますが、今回取り上げるのは不正融資です。その額は200億円にのぼります。
「チャレンジ」「プライド値」「営業店計画」。これらはどれも高い営業目標を示す言葉で、従業員にプレッシャーを与え不正を助長した、いわば魔の言葉です。
東芝の場合は「チャレンジ」の名の下で、「プライド値」を掲げた富士ゼロックスは海外の子会社が利益を水増ししていました。
そして商工組合中央金庫、商工中金が使っていたのが「営業店計画」という言葉です。
各支店に割り当てられた営業店計画達成のために有志の基準を満たさない中小企業の業績を勝手に改ざんするなどして不正融資を繰り返していました。
さらに商工中金、東芝や富士ゼロックスと決定的に違うのは、仮に融資が焦げついた場合、その補填には税金が使われるという点です。
その商工中金が6月22日、株主総会を開きました。
株式会社商工組合中央金庫
[blogcard url="http://www.shokochukin.co.jp/"]
6月23日の朝、都内のオフィスビルに中小企業の経営者が続々と入っていきます。向かった先は商工組合中央金庫の株主総会。
中小企業向けの政府系金融機関で株主は約46%が国、残りが中小企業の業界団体です。
今回の総会、注目はやはり…
「どのような説明を期待?」
いま起こっている事態を(不正融資)をすみやかに収拾し、「中小企業支援に支障をきたさない」と力強い言葉を期待。
危機対応融資と
2016年に発覚したのがリーマンショック後にできた危機対応融資という制度を利用した不正融資問題。
この制度では災害や金融危機などで業績が悪化した企業に低い金利で融資を行います。
融資先が破綻した場合、国が8割を保証するのが大きな特徴。つまり税金が投入されるのです。
商工中金の本部は融資を増やそうと営業店計画という目標を設定しました。圧力をかけられた現場は取引先の企業の売り上げが増えているのにもかかわらず、減っているように書き換え制度を不正に利用しました。
99人の職員が関わり、少なくとも198億円が不正に融資されました。
2017年5月、金融庁などは事務取扱が不適切だったとして商工中金法に基いて立入検査を開始しました。検査は現在も続いています。
株主総会
不正発覚後、初となった今回の株主総会では冒頭、安達健祐社長が、
不正行為について、株主やお客様に迷惑と心配をかけたことを重く受け止め、深くおわび申し上げる。
社長のお詫びからスタート。問題解決に取り組む姿勢を強調しました。
しかし株主は、
お客様の資料を改ざんするなどの不正行為は大変遺憾。
対外的な信用の構築が急務だ。
株主から飛び交う厳しい意見。
視点の営業マン全員が不正!?商工中金内部の「圧力」とは!
なぜ、このような問題が起こったのか?
営業マン全員が不正行為をしていたという池袋支店を直撃してみました。
「不正融資問題について」
広報部に問い合わせていただけますか。
「営業ノルマが厳しかったか?」
広報部に問い合わせていただけますか。
皆、一様に固く閉ざし答えようとしません。
営業店計画
営業店計画はどのように現場では捉えられていたのか?
第三者委員会の報告書によるとある職員は上司にこう言われたといいます。
損担(損害担保)案件にあてはまらないということは「ありえない」。
無理やりでもあてはめろ。
結局、自ら書き換えを提案して不正に手を染めました。
また、あるケースでは、「無能」「他の会社に行けば」と目の前で課長が罵声を浴びせられたのを見た部下は課長を守るために自ら不正行為を行いました。
このように現場は営業店計画を必達ノルマと認識い、日常的にプレッシャーにさらされていたといいます。
第三者委員会の委員長を勤めた国広総合法律事務所の國廣正弁護士は、こうした不正に至るまでの背景についてWBSのインタビューにこう答えました。
とにかく無理をしている。不正は必ず無理から発生しています。無理・プレッシャーが現場の不正を生んだ。東芝は会計不正を生んだが大きな構造は同じ。
現在、不正があったか確認ができているのは全口座のうち、まだ12%に過ぎないという不正融資問題。
商工中金は現在、行われている自主調査を9月末にも完了させ全容を明らかにする方針です。
商工中金が「無理」をしたワケ
業績の良い企業を悪いと偽ってまで低い金利で融資するというのは民業圧迫という批判が当然あります。
なぜ商工中金はこの不正融資を繰り返してしまったのか?
実は歴史を紐解くとある事実が見えてきます。
商工中金の危機対応融資はリーマンショックが起こった2008年から始まり、2011年3月の東日本大震災、2016年4月の熊本地震。こういった災害でも融資が使用されていました。
災害だけでなく2010年2月から2014年2月までは円高対策、さらに2014年2月からは原材料・エネルギーコスト高対策、デフレ対策なども融資の対象となっていました。
商工中金にとっては民間の金融機関ではやりにくい危機対応の融資を行うことが公的金融機関としての存在意義だったといえます。
さらに角度を変えてみると違う違う事実も見えてきます。
2008年の小泉政権のときに公的金融機関の改革の一環として商工中金の民営化を決定しました。
実際に2008年に株式会社化して民営化の一歩を踏み出しています。
ただ、その後は2度の法改正で完全民営化が先延ばしされています。さらに3度目の法改正では先延ばしどころか完全民営化の期限も撤回されています。
今回の不正融資の背景には公的金融機関としての存在意義をアピールすることで、この完全民営化を回避したいという思惑が商工中金の内部にあったのではないかという声もあります。
さらに第三者委員会の國廣弁護士は商工中金だけでなく日本の政治の体質にも原因があると指摘しています。
國廣正弁護士
問題は選挙民が中小企業ということろにある。中小企業を守らなければいけないという金科玉条があり、政治家にしてみると「中小企業のために予算を使い切らないのは何事か」と今度は国にプレッシャーをかける。
またこうした体質を根本から見直しなければ不正は繰り返されると警鐘を鳴らします。
これは日本の政治構造そのものの問題が商工中金の問題に現れたということ。商工中金だけで分離して考えるのではなく制度融資をもう一回、深く考え直す必要がある。