小松精練株式会社
石川県能美市。
1968年に建築された染色大手の小松精練株式会社の旧本社です。
建物を覆っているのは耐震補強構造。雪国で樹の枝が折れないように縄で支える「雪吊り」のような仕組み。
この建物のリニューアルをデザインしたのは2020年、東京オリンピックの新国立競技場の設計を手掛けた隅研吾さんです。
隅研吾さん
建築の進化は素材の革命があるときに変わる。
耐震改修によって強度を増しながら普通のビルがエレガントな表情になる。
新素材
ある新素材が開発されたことでデザイン性と耐震補強を両立させることができたのです。
小松精練株式会社の池田哲夫社長は
炭素繊維の複合素材。これで49年前の建屋を耐震補強してリフォームした。
建物を引っ張って強度を高めているロープのようなもの。小松精練株式会社が開発した炭素繊維を使った新素材「カボコーマ」です。
小松精練株式会社
1943年設立の小松精練株式会社は繊維産業が盛んな石川県で70年以上に渡り染色を手掛けてきた会社です。
その技術を活かした「カボコーマ」は今後の建築物に革命をもたらす新素材として期待されています。
繊維産業は中間財、最終製品まで日本が最も強かったビジネス。日本の先端材料の炭素繊維を海外にも派生するチャンスの一翼を担いたい。
カボコーマの強度
カボコーマを強い力で上下に引っ張って見ると
8トンを超えましたね。
カボコーマは直径わずか9mm。さらに力を加えると切れました。
8.5トンくらいでしたね。
引っ張り強度はは8.5トン。小型自動車なら8台を持ち上げられます。同じ重量を鉄製のワイヤーで支えようとすると
ずっしりしますね。
鉄製のワイヤーが9.0kgあるのに対して、カボコーマははわずか1.4kg。片手どころか指一本でも持ち上げられる重量です。
炭素繊維
炭素繊維といえば日本が開発し、ボーイング787の機体にも使用される素材です。
その炭素繊維を使ったカボコーマは加熱すると柔らかくなり加工しやすくなる特徴があります。
炭素繊維をこれだけ丸められるのは?
まずない。
どうやって、この柔軟性を実現したのでしょうか?
炭素繊維1本の太さは直径5ミクロン。横からの力に弱く折れやすい材料です。そこで
炭素繊維の組みひも。ほんの少しに見えますが2万4,000本あります。炭素繊維の周りをガラス繊維が組みひも状に覆っている。
炭素繊維を組みひも状に編みこんだガラス繊維で守ることで曲げても折れない靭やかさを実現したのです。そこには石川県の地場産業「組みひもの技術」が生かされていました。
しかし、そこに問題が・・・
小松精練株式会社の奥谷晃宏取締役は
細い繊維と粘り気を持った樹脂材を密着させるのが難しいことは嫌というほど経験してきた。
炭素繊維の強度を増すために使われていたのは粘り気の強い樹脂。組みひも状の構造ではこの樹脂が染み込まないのです。
そこで思いついたのは水のようにさらさらの樹脂を作れば炭素繊維に染み込ますことが出来るという考えです。そして出来上がったのが新開発のさらさらの樹脂です。
さらさらの樹脂の入ったプールを通ると組みひも状に覆われた炭素繊維の1本1本まで浸透していきます。
繊維にどんな樹脂材をどう付着すれば中まで浸透し、強さを発揮できるのか、本業の繊維で何十年とやって来たこと。それを応用してできる。
株式会社中東
地元企業とカボコーマを使った新たな製品開発も進んでいます。
こちらが集成材です。
木材を接着剤で張り合わせたものが集成材。太い柱なら一般的な木材より安く作ることができます。
株式会社中東の北野正博さんはいいます。
うちの工場も柱、大梁が集成材でできている。
集成材は一般的な木材よりも強度が高く、大型の建築物にも使われるなど市場が拡大しています。
その集成材にカボコーマを挟んでさらに強度を高めようというのです。
小坂勇治社長は
木材の強度の弱いところを炭素繊維で補うことができれば、木材の利用価値が広がる。
カボコーマの未来
新素材、カボコーマの今後の可能性は?
池田哲夫社長は
身近な生活関連商品に派生できるチャンスを炭素繊維は持っている。
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