中国の先端テクノロジーにフォーカスする中国Tech。
9回目の今回はAI(人工知能)です。AI開発で世界をリードするのはアメリカですが、中国がここ数年特許や論文の数などいくつかの分野で猛スピードで追いつき始めています。そのパワーの裏側には中国最大の課題、貧困問題の存在が…
その意外な関係とは。
作業幇
人工知能を使ったサービスが今や生活の一部となった中国。家で宿題をする小学生もこんなアプリを使いこなしていました。
小学5年の李韫沢さん、
宿題の答えを教えてくれるアプリだよ。
これは宿題支援アプリ「作業幇」。中国で1億7,000万人が使っています。
問題を撮影すると人工知能がその画像を分析して内容を把握、過去問のデータベースと照らし合わせて答えを自動で導き出します。
とても助かる。友達みんなが使っています。
さらにAIは中国のこんな身近な場所にも。
上海支局の谷口康輔記者、
いま中国で増えている最新式の信号。常時歩行者を監視しているだけでなく、AIを使って信号無視した人の顔を発見し、晒すという監視システムになっています。
各地で走行テストが進む自動運転では道路状況を認識できるAIを搭載。
AIが自動操縦するドローン配送もすでに実用化され、中国のAI関連企業の数はアメリカに次いで世界2位に。
なぜ中国のAIは急成長したのでしょうか?
あの宿題支援アプリの開発企業を取材するとその理由が見えてきました。
創業7年のITベンチャー「作業幇」。企業価値20億円にも上るいわゆるユニコーンです。先月、ソフトバンクからの出資を発表するなど日本の投資家からも注目の企業。
その急成長を支えた秘密がこのパソコンの中にあるそうです。
作業幇のAI開発担当者、
これは過去問データベースです。データ作り専門の部署もあります。
画面に出ていたのは過去問のデータベース。人工知能は多くのデータを学習するほど賢くなります。
作業幇はデータ作り専門の部署まで立ち上げ3億件に上る過去問と解答のデータベースを作り上げていました。
その結果、宿題の答えを導き出すあの機能のほか、生徒の苦手分析などもAIがこなせるようになったそうです。
6~7年間、ヒト・モノ・カネをデータ作りに投入した結果です。
今後もデータ量が増え続けるでしょう。
データ作りの重要性に目をつけた新たなビジネスも広がっています。
上海から内陸へ1,200km離れた清澗県。
主な産業は農業。住民の平均月収はおよそ2万円と中国最貧地区のひとつです。
一見AIとはまるで関係ない様相ですがこちらの会社を訪ねると…
Ai豆科技の魚濤社長、
「アノテーション」という人工知能をより賢くする仕事です。
アノテーションとはパソコン上でAIに物事を教える教師のような仕事。
例えば学習前のAIはこの画像を見ても猫と判断できません。
そこで猫の顔の特徴を人の手で入力。
ネコの顔や目に印をつけます。鼻の穴、上下の部分などです。
これを何万匹と繰り返していくとAIは次第に画像をネコだと判断できるようになります。
これは犬の種類を見分ける訓練。
そしてこちらは1枚の写真から路上の自転車を見つけ出す方法。教える内容は様々です。
日本ではあまり知られていない仕事ですが世界のアノテーション関連の市場規模は2027年までの8年で7倍に拡大するとの予測も。
この会社はその需要を見込んで去年設立されたアノテーションの専門業者なのです。
"訓練"の発注は次々来ています。延々途切れることがない忙しさです。
しかしなぜこの貧困地区に会社を作ったのでしょうか?
その理由が会社の一室へと伸びるこの長い行列に。
「アノテーション」を知っていますか?
行われていたのはスタッフの採用面接。実はこの仕事、10人の募集に100人が詰めかけるほど人気です。
私の農村では求人を出す会社はほとんどありません。
生活のためこの仕事が必要なんです。
これが貧困地区に会社を作った理由。スタッフの雇用に困らないほか、都市部の半分程度の給料に抑えられます。
さらに習政権の掲げた貧困ゼロ政策も追い風に。
地元政府やアリババグループから家賃免除や技術サポートを受けられたのです。
AIと貧困地区の意外な関係。今後拠点を増やす計画です。
人工知能の発展には「アノテーション」の仕事は欠かせない存在です。
中国AI産業の発展とともに会社も成長していくでしょう。