沖縄と本土との格差について見ていきます。本土復帰直後は44万円だった1人当たりの県民所得は2018年には239万円にまで増加しました。ただ全国では再開で全国平均の320万円と比べると7割ほどにとどまっています。これは沖縄の産業構造が影響しています。製造業の割合は4.3%で全国の平均の21%の5分の1と低く、一方で製造業と比べると賃金が低い傾向にある観光業などのサービス業が8割を超えています。
こうした所得問題など沖縄にはまだまだ課題が残されています。沖縄の発展のためにいま何が必要なのか、県内の一部で待望論がある新プロジェクトを追いました。
観光・物流に大問題が…
5月の大型連休。沖縄は多くの観光客で賑わっていました。
観光客が直面したのは…
静岡からの観光客
1時間のところが2時間とか今回はすごく混んでいてびっくりした。
東京からの観光客
渋滞で時間がかかるとなるとやっぱり近場でいいかなと。
交通渋滞です。沖縄本島を南北に縦断する国道58号、県民からはゴッパチと呼ばれ交通の大動脈なのですが…
山口博之記者
かなり渋滞がひどいですね。全く進みません。
例えば那覇空港から観光スポットの美ら海水族館に行くには国道58号などを通るのが一般的なルートです。通常なら2時間弱で着きますが渋滞に一度つかまると3時間以上かかる場合があるといいます。
さらに渋滞は物流にも影響が…
沖縄で誕生したオリオンビール。多い時で1日2万ケースを出荷し、トラックで運んでいますが…
オリオンビールのドライバー
予想以上の渋滞にはまってしまうと遅れる。
謝りの電話を入れて理解してもらう。効率的ではない。
オリオンビール
物流を担当するSCM部
山本憲一部長
渋滞がなくなって出荷計画が予定通りにできればトータル的なコストとしては数十パーセント下げられる可能性はある。
深刻化する沖縄の交通渋滞。解決につなげようとあるプロジェクトが始まっていました。
那覇市から名護市を1時間で結ぶ総延長70キロメートルの鉄道構想。8つの市町村を通る案を中心に検討されています。
新鉄道構想は希望の星か…
政府は今週、今後10年間の沖縄振興策の基本方針を決定しました。
その中で自立的発展のために強い沖縄経済の実現を打ち出しています。
その上で慢性的な交通渋滞が物流や観光にも影響を及ぼしているとして新たな鉄道の整備を検討することが盛り込まれたのです。
沖縄に鉄道を、こうした声が挙がるのには沖縄ならではの交通の歴史があります。
山口博之記者
戦前、沖縄には線路を走る電車が存在していました。当時使われていた線路が今も残っています。
かつて鉄道は県民の足だったのです。総延長はおよそ50キロメートルで那覇や嘉手納などを結んでいました。30年以上にわたり利用されてきましたが沖縄戦で破壊。
戦後、鉄道の敷設計画があったものの朝鮮戦争による鉄不足が理由に整備されなかったといいます。
そして車社会が到来。アメリカ統治下では本土とは違って車は右側通行でした。
最後の復帰処理といわれていた交通方法の変更が7月30日を期して行われることになりました。
左側に停車していた車が一斉に動き出し、沖縄の「人は右、車は左」の交通方法はスタートしました。
復帰から6年、車は左側通行に切り替わりました。
アメリカ統治下、そして本土復帰後、警察官として交通や警備を担当していた久髙弘さん(88歳)。あるものを見せてくれました。
沖縄県警で交通部長など歴任
久髙弘さん
沖縄県ではこの1枚しか残っていない。
道路標識にかぶせてあったカバー。
これをアメリカ方式の右側通行の標識にかぶせていた。
長らく鉄道がない県だった沖縄に鉄道が復活するのは2003年。本土復帰から30年以上経っていました。
開業したゆいレールの総延長は12.9キロメートル。交通渋滞の抜本的な解消には至っていません。
山口博之記者
市街地の中に広がっているのがアメリカ軍の普天間飛行場です。
住宅や学校に囲まれているため世界で最も危険な飛行場といわれて久しくなりました。
国土面積の0.6%に全国のおよそ70%のアメリカ軍の専用施設が集中する沖縄。アメリカ軍基地の存在が交通網の整備に影響してきましたが…
山口博之記者
フェンスの向こう側がアメリカ海兵隊の軍用地です。
その軍用地の一部が今回返還されました。
この跡地利用の一環として幹線道路が広がりました。
今年3月、朝夕の通勤ラッシュの激しい国道58号の2.9キロメートルの区間が8車線に拡幅されました。
しかし、沖縄県警で交通部門のトップを務めた久髙さんはこう話します。
沖縄県警で交通部長など歴任
久髙弘さん
基地がなければ道路の拡幅、広げることは可能なところがいくらでもある。
基地を返還してもらい、道路を広げて、鉄軌道を糸満から名護以北まで敷設することが必要。
また県の担当者は本格的な鉄道の整備について国の支援が必要だと強調します。
沖縄県 公共交通推進部
比嘉学室長
本土では旧国鉄の在来線の整備が国の主導で進められてきた。
沖縄は復帰前に実現できなかった。
現在では市街地が過密化していて新たに鉄軌道を通すとなると多額の費用を要する。
2019年、ゆいレールはおよそ4キロメートル延伸されました。
市民の交通手段として期待される一方、今後沖縄県が本格的な鉄道の整備を進めていく上で新たな課題も浮き彫りになっています。
那覇空港からもっと遠い「てだこ浦西駅」に行ってみると広大な空き地が広がっていました。
沖縄都市モノレール
喜納久企画調整官
東京近郊の街づくりでは駅から街が発展しているが、沖縄モノレール(ゆいレール)は後発でにぎわいと外れた所に駅ができている。
まずショッピングセンターが建つ。
スマートシティを目指して、エネルギー関連を供給する建物を建てる。
観光への貢献や渋滞の解消だけでなく、沖縄に住み、暮らす人たちのための街づくりという長期的な視点も欠かせない鉄道の整備。新たな鉄道は沖縄の将来をどう導いていくのでしょうか。