日本の伝統工芸品の生産額の推移は1983年の5,400億円をピークに2012年は1,040億円と5分の1ほどに減少しています。
石川県の真島塗りや京都の西陣織など有名どころでも生産が減ってきていて大手の産地が生き残るための方法を模索しています。
そうした中、佐賀県は400年の歴史を持つある伝統工芸の再生を一人の女性に託しました。そこにしかない魅力をアピールするための手法とは?
肥前吉田焼
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佐賀県嬉野市、有田や伊万里と同じく400年の歴史を持つ焼き物「肥前吉田焼」の産地です。
最盛期の1960年代には30軒あった窯元の数は現在では8軒んまで減りました。
残っている窯元の一つ有限会社副久製陶所。社長の副島久洋さんは3代目。
受け継いできた技術が自分の代で途絶えてしまうという危機感を感じていました。
産地として今後残っていくのかなという危機感はある。生活もできないようなギリギリのところできている。子供に跡を継いでくれともいえない状態。
南雲朋美さん
吉田焼の再生のために佐賀県庁が招いたのは地域ビジネスプロデューサーの南雲朋美さん。
かつて株式会社星野リゾートで働き「星野リゾート界 箱根」という旅館のブランディングに携わった南雲朋美さん。
地域の埋もれた魅力を語るうえで樹木本来の色合いを生かした寄せ木細工に目を向けました。「多種多様の木材があるから寄せ木細工が生まれた」というストーリーが箱根の魅力を表すと考えました。
「星野リゾート界 箱根」ではルームキーも寄せ木細工、料理も寄せ木細工を全面に打ち出したブランディングを実施しました。
すると旅館が開業した2012年から寄せ木細工の生産額は回復を始めました。
地元の人は自分たちの魅力に気付かないところがあるので言ってあげる。
南雲朋美さんはよそ者のほうがその地域の魅力に気づきやすい面もあるといいます。
トレジャーハンティング
ここがヤマダイ。
145年前の明治元年に創業した老舗卸問屋ヤマダイ。
めちゃくちゃテンションあがるわ!
南雲朋美さんがよそ者目線で発見した宝物がある倉庫。地元で生産された磁器、数万点が所狭しと置かれています。
南雲朋美さんは宝探しのようにお気に入りの磁器を探してもらうトレジャーハンティングという企画を考えました。
すると全国各地からお客様が来るようになりました。懐中電灯を片手に運命の出会いに期待します。この時が楽しいといいます。
鹿児島から来たお客様は、
湯飲みを集めるのが好き。いいのがあったらいいなと思っていた時に偶然見つけた。
大渡義直社長、いまでは慣れない接客に大忙しです。
いまちょっとブレイクしていますよね。
南雲朋美さんは、
黒板を見たら毎日予約が入っている。
JTBからツアー商品化したいという話も出ている。
吉田焼の特徴
続いて南雲朋美さん、いよいよ吉田焼だけが持つストーリーを探し始めました。
訪れたのは廃業の危機に直面していた有限会社副久製陶所。
南雲朋美さんは3代目の副島久洋社長に吉田焼の特徴を聞きますが、
こういうものが好まれると言えばそっちに移ったり、こっちが良かったらこっちという感じ。
有田焼が料亭や美術品として作られてきたのに対し、吉田焼は身近な生活雑器。お椀も作れば湯飲みも、形は様々で「これぞ吉田焼!」というような説明が難しかった。
南雲朋美さん、この吉田焼にどんなストーリーを見出すことができるのか?
肥前吉田焼デザインコンペティション
3月16日、東京・南青山。
作品名「Hamon」。デザイナーの足立眞緒さんです。
南雲朋美さんが仕掛けたのは吉田焼のデザインコンペでした。
家具デザイナーの考えた「コーヒーロースター」。雑貨のデザイナーが考えたのは「しょうゆ差し」。
異業種のデザイナーと組み、10点の新しい作品を作り上げました。
吉田焼を知らなかったお客様の反応は、
日常的にも使えるし、おもてななしの席にもすごく映えると思った。
制作を担当した窯元は斬新なデザインの磁器を作るために高い技術力が求められたといいます。
有限会社江口製陶所の江口直人さんは、
乾燥の仕方とか、型から離すタイミングとか、普通の磁器をつくるのとは全然違うので技術や経験がいる。
需要の変化に柔軟に対応し様々な形の器を作ることができる造形技術。それこそ吉田焼が持つストーリーだと南雲朋美さんは考えたのです。
「吉田焼はデザイン性のある磁器だね」と言われるようなきっかけとして、ここから発信できればいい。デザインのストーリーは築けるのではないかと思っている。
南雲朋美さん、再び吉田焼の産地へ。
今度は嬉野という地域の魅力にも目を向けました。
嬉野のもうひとつの特産品がお茶。茶畑に行くとある発見が、
これ磁石ですよ。昔、茶農家は農閑期の冬とかにこういう磁石を掘り出して磁器をつくったという話を想像する。そういうことを伝えたくなる。お茶は吉田焼と実はすごく密接な関係があるよって。
お茶と吉田焼をひとつのストーリーで売り込めばさらなる効果があると考えました。
さらにもうひとつ、嬉野が誇る宝が温泉。
日本三大美肌の湯といわれる所以は磁石に含まれる成分が関係していると見ています。
町一番の温泉旅館「和多屋別荘」。そこでは温泉とお茶と吉田焼を組み合わせたイベントが始まっていました。
名物の嬉野茶を楽しむイベントです。
茶農家、うれしの茶生産農家、副島仁さん自らがお茶を入れます。
使用する茶器は吉田焼。
スイーツは嬉野産の抹茶を使ったティラミスを用意。
それらを載せるプレートは南雲朋美さんが仕掛けたデザインコンペの受賞作です。実はこのプレートをつくったのは廃業の危機に瀕する有限会社副久製陶所でした。
私のつくった商品がこれ。カップをはめられる。
語るべきストーリーを手に入れて吉田焼は再び元気を取り戻すことができるでしょうか?