安倍政権の看板政策である「人づくり革命」の実現に向けた2兆円規模の政策案が12月5日に明らかになりました。
安倍晋三総理大臣は衆議院選挙で公約に掲げた幼児教育・保育の無償化などが柱となっています。
しかし保育の現場では無償化よりも優先してほしい課題があります。
さくらがおか幼保園
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東京・多摩市にある東京都の認証保育園「さくらがおか幼保園」。
現在は0歳から5歳までの子ども48人を受け入れています。
この保育園、実はいま保育士を募集してもなかなか集まらないという課題を抱えています。
原因のひとつが保育士の待遇です。
厚生労働省の調査によると全産業の平均月収は30万4,000円でした。これに対して保育士は21万5,800円と平均と9万円近い差がありました。
全産業の平均月収 | 30万4,000円 |
---|---|
保育士 | 21万5,800円 |
こうしたことから、こちらの保育園では2年前から新しい取り組みをはじめました。
新しい取り組み
読み聞かせをしている平野里菜さん(23歳)。
この保育園の正社員ですが保育士ではありません。
資格のない平野さんはベテラン保育士のもとで働いています。
実は平野さんは働きながら実践を積み重ねて保育士の資格取得を目指しているのです。
ここでは資格のない人でも採用し働きながら保育士の資格を取ってもらおうというのです。
週に1~2回の程度で学校に行っていました。勉強をしに。この保育園なら仕事をしながら勉強して資格を取れる。自分にとっていいと思ったので。
保育園が全額補助し、資格取得のための学校にも通っています。学校に行っている時間も勤務時間とみなされます。
これまで、この取り組みを活用して3人が保育士の資格を取りました。
勉強もしっかりできて、それなりに仕事もできるようになってきた。自分は未熟だが頑張っていきたい。
幼児教育・保育の無償化に向けて本格的に動き出そうとしています。
株式会社ウィズチャイルド
保育の現場では保育士の人手不足が喫緊の課題だと話します。
保育園を運営するウィズチャイルドの田中鉄太郎社長は、
保育士不足を解消するのと待機児童を解消するのが今の問題。3~5歳の無償化を今なぜやろうとしているか分からない。
人づくり革命
柱となる幼児教育・保育の無償化には約8,000億円を投じる見通しです。
これにより0~2歳児の保育料が住民税非課税の低所得世帯で無償になります。
そして3~5歳児の幼稚園・保育園所が全て無償になります。ただし認可外は今後検討していくということです。
幼児教育・保育の無償化 | 約8,000億円 |
---|---|
0~2歳の住民税非課税世帯 | |
3~5歳の幼稚園・保育所(認可外は今後検討) |
一方、待機児童対策では保育士の給与月3,000円を引き上げたり、32万人分の受け皿として新たな保育園の整備に約3,000億円を配分する見通しです。
待機児童対策 | 約3,000億円 |
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保育士の給与月3,000円引き上げ | |
32万人分の受け皿の整備(20年度末まで) |
こうして見ると待機児童対策よりも無償化対策のほうが圧倒的に多いです。
待機児童対策について実は野村総研が32万人分ではなく88万人分の受け皿が必要と試算していたり、保育士の給与もそもそも全産業の平均と比較すると月9万円も低いのに今回はわずか3,000円だけ。本当に効果があるか疑問です。
無償化の恩恵をうけるはずの親からでさえ無償化よりも待機児童の解消を優先して欲しいという声が上がっています。
無償化よりも待機児童解消を!
午後6時、都内に住む中井いずみさん。仕事を終え4歳の次男を保育園に迎えに来ました。
テントウムシ探した。
どこにいたの?
テントウムシ砂の中にいた。
現在通っているのは認可外の小規模保育園。
条件の整っている認可保育園への転園を希望し、保育園探しのいわゆる保活をしていますがどこも定員がいっぱいで入れません。
毎年毎年、保活をしなくてはいけなくて申込みはするけど落ちちゃったというのがずっと続いて、保育園に入れなければ綱渡りなので仕事を辞めなければいけないかもしれない現実が突然、目の前に襲ってくるような。
待機児童は全国で2万6,081人。その親達は働くことを諦めざるを得ない現実があります。
それなのになぜ無償化なのでしょうか?
11月17日、衆院本会議で安倍総理は、
3歳から5歳まで、すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。
安倍政権は子育て世代の負担軽減を図ろうと衆議院選挙の公約で幼児教育・保育の無償化を打ち出しました。
中井さんは政策が実行されれば無償化の恩恵を受けることになりそうです。
しかし保育園が足りない現状の中、待機児童対策よりも保育無償化を優先する安倍政権の政策に疑問を投げかけます。
今は保育園に入れない人がいる中で入れている人に無償化を施すのは順番が違うかなと思う。
無償化の恩恵を受けることができるのは当然、保育園に通わせている人たちだけ。まずは保育園の数を増やして待機児童の解消策に取り組んで欲しいといいます。
共同通信が行った世論調査でも女性の73%が待機児童の解消を優先すべきと答えました。
無償化 | 18.9% |
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待機児童解消 | 73.0% |
無回答 | 8.1% |
保育料が無料になるより働き続けられる方が生涯の世帯収入が高い。その方がもう1人産もうかなとなる。選挙公約で決めてしまったとはいえ誤っているのであれば軌道修正してほしい。
保育料
保育の無償化にはもうひとつ落とし穴があります。
認可保育園の保育料は所得に応じて月数千円から月10万円程度まで段階的になっています。
そのため無償化されると高所得世帯ほど恩恵が大きくなるという指摘もあります。
課題が多い無償化対策ですが政府は今週中にも正式決定する方針です。