現在、国内で開発中の新型コロナワクチンのサンプル。ファイザーやモデルナ製のワクチンに続く第二世代と呼ばれています。
そして、このワクチンの最大の特徴がわずか127g、コップ半分くらいの量で日本の人口およそ1億2,000人分の接種を賄える可能性があるといます。
果たして世界で勝負できる国産ワクチンの誕生となるのでしょうか。その開発の舞台裏を取材しました。
VLP Therapeutics Japan合同会社
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6月1日、東京・羽田空港。
来日した一人の男性、赤畑渉さんです。
アメリカでワクチンメーカーを立ち上げ、社長を務めています。
赤畑さんは京都大大学院を卒業、2002年に渡米。
アメリカ国立衛生研究所でワクチン研究に従事し、2013年に「VLPセラピューティクス」を設立。がんやマラリアなどのワクチンを開発してきた科学者です。
ワクチンは病気を治すのではなく予防。
縁の下の力持ち。
赤畑さんは去年、新型コロナ拡大を機に日本でワクチンを開発することを決意。独自の技術で全く新しいワクチンの開発に着手しました。
一番の強みは少量接種で素早く多くの人に供給できる。
少量だとワクチン製造が非常に楽になる。
接種時の副反応が非常に軽減される可能性が高い。
赤畑さんが開発中の新型ワクチンはレプリコンワクチン。自己増殖を意味するワクチンです。ファイザーやモデルナのワクチンの改良型だといいます。
仕組みはこうです、コロナウイルスの突起した部分「スパイクタンパク質」、これに人の細胞が触れると感染します。このスパイクタンパク質の設計図と呼ばれるのがメッセンジャーRNA。ファイザーやモデルナのワクチンはこれを活用します。
メッセンジャーRNAを体内に注射すると感染力のないスパイクタンパク質が作られ、体内でスパイクタンパク質ができれば、それに対する抗体ができ、免疫が生まれます。
こうしてコロナウイルスの侵入や付着を防ぐのです。
一方、赤畑さんが開発するレプリコンワクチンのケースは、体内に入ったメッセンジャーRNAが特別な技術でどんどん増殖する機能を持っています。
そのため少量の接種でも大量の抗体が作られます。これにより効率的で高い免疫効果を発揮するというのです。
赤畑さんによれば既存のワクチンの10分の1から100分の1の量の接種で効果が期待できるといい、わずか127グラムで日本の人口1億2,000万人分の接種を賄えるといいます。
2022年に承認申請したい。
「来年にも承認申請終われば接種できるか?」
はい。
富山県富山市。かつて薬売りが街の経済を支えたことで知られています。
そこに6月21日、赤畑さんの姿が…
向かった先はワクチンの製造を委託する富士フイルム富山科学です。
富士フイルムは去年10月から最新の設備で赤畑さんのワクチンの生産を進めています。
この日出てきたのは…
こちらが試作品。
出来たばかりの赤畑さんのレプリコンワクチンのサンプルです。
手に持つと実感する。前に進んでいる。
1日でも早くワクチンとして世の中に出したい。
富士フイルムは将来の市販化に向けて国産ワクチン専用の生産ラインの新設を検討しています。
富士フイルムの岡田淳二取締役、
VLPT社のワクチンは一段進んだワクチン。
日本人全体あるいはアジアまで供給できるような生産設備体制が必要。
来年の市場投入に向けて準備が進む新型国産ワクチン。
その最大の関門は国の承認です。
赤畑さんは3ヵ月に1度来日し、厚生労働省に開発状況を報告しています。
今月中にも治験開始届を出す予定ですが、厚労省との間では安全性をめぐって詰めの協議が続いています。
「承認の課題は?」
開発者と承認側との"せめぎ合い"は絶対ある。
コミュニケーションをとっていくしかない。
承認をめぐって激しいせめぎ合いがあるといいます。
安全で早く開発するのは矛盾がある。
安全でいくのには時間がかかる。早くというとリスクが出る。
リスクとベネフィット(便益)のバランスは国や国民性によって違うんじゃないか。
「日本はどちらに比重があるか?」
日本は安全性を重視する立場は他国に比べてある。
私も絶対に安全なものを作りたい思いはある。
1日でも早くワクチンを世に出したい。一方で安全性は譲れない。国産ワクチンをめぐる葛藤は続きます。