東洋ライス株式会社
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和歌山市。
ここに本社を構えるのが東洋ライス株式会社。
1961年に精米機のメーカーとして創業。
以来、日本の米業界を技術面から支え続けてきた会社です。
1990年代以降は米の加工事業にも進出。
米を研ぐ手間を省く無洗米の技術も東洋ライス株式会社の発明です。
そうした技術開発を一手に担ってきたのが雜賀慶二社長。
その雜賀慶二社長、またもや画期的な米の加工技術を独自に開発していました。
それが大きな白い箱。特許を申請中のため中は一切見ることはできません。
その機械でできた米が、普通の白米に比べいくぶん黄色く見えますが、
「ロウカット玄米」。この技術はなかなか難しい。
ロウカット玄米
普通の玄米は栄養価の高い糠の層と独特の硬さの原因となっているロウの層に包まれています。
これまでの精米では2つの層を一度に取り除いて白米を作っていました。
しかし東洋ライス株式会社では厚さわずか1,000分の4ミリのロウの層だけを取り除く技術を開発。
栄養価の高い糠の層は残すことに成功したのです。
これがロウカット玄米。
炊き上がりが一見、普通の玄米と同じように見えますが、
ごはん粒が伸びている。ロウカット玄米は白いごはんに近い感覚で食べられる。
炊き上がりを比べてみるとロウカット玄米は普通の玄米よりも粒がしっかりと膨らんでいます。
白米と比べても遜色はありません。
この膨らみ具合が食べやすさにつながります。
ロウカット玄米は玄米の栄養価と白米と同じ食べやすさを両立させた、まさにいいトコ取りのお米です。
雜賀慶二社長、この画期的なロウカット玄米の販売戦略を阪本哲生副社長に託しました。
東洋ライス株式会社銀座本社
6月、東洋ライス株式会社の銀座本社。
この日、仕入れや営業を担当する社員が一同に集まっていました。
阪本哲生副社長は、
我々と一緒に取り組んでもらえる産地を絞っていきたい。
ロウカット玄米を本格的に普及させるため、手を組む産地を選んでいたのです。
島根県ですね。島根県の中でも安来市。非常に品質が良くてロウカット玄米にしてみたら面白いと思う。
候補に上がったのは島根県安来市。
ここに注目したのは、ある地域がすぐ隣にあったからです。
よく「東の魚沼、西の仁多米」というくらい。
仁多米
仁多はは標高300メートルから500メートルの中山間地。
寒暖差のある気候と豊かな水資源を生かして稲作が行われてきました。
ここで作られる米は「仁多米」と名付けられ高級米として評価されています。
東洋ライス株式会社はその仁多の隣りにある気候条件の近い無名の安来に着目したのです。
安来市
安来市の西谷地区。
標高300メートルに開けた農村地域です。
7月12日、東洋ライス株式会社の阪本哲生副社長が交渉にやってきました。
早速、田んぼへと向かいます。
ここで米を育てるのが北川正幸さん(60歳)。
稲の株張りがしっかり広がっている。植えている間隔も通常より広くとっている。太陽の光も十分中まで入る。
どの株も茎が太く、しっかりと根付いているのが分かります。
この稲を育てる水源の川では国の特別天然記念物「オオサンショウウオ」の姿もあります。
ここは数少ない繁殖地。オオサンショウウオはキレイで冷たい水のあるところを好むといわれています。
驚きですよね、オオサンショウウオがいるなんて。いかに奥の山がすごい水をためている所かが分かる。
産地の魅力を実感した阪本哲生副社長。
早速、提案を行います。
皆さんは仁多米をどのように評価されている?
全国的に有名すぎて、隣にいながら呆然と。
新しい商品の「ロウカット」。玄米の栄養分を残したお米、食べやすくておいしいお米。
今までにない画期的な技術であることをアピール。
他の産地にも負けないくらいの商品というか、これからは健康志向。そこに地域のカラーというか、特性を入れる必要もある。
阪本哲生副社長、健康という付加価値を付けて安来の米をブランドに育てようと訴えました。
北川正幸さん
提案を受けた北川正幸さん。
自宅である書類を見せてくれました。
農協の米の買取価格表です。
価格は米の品質と品種によって細かく分けられていました。
北川正幸さんが作る2種類の米の価格は30kgで約6,000円です。
コストを考えたら9,000円くらいあったらいいと思う。安いですよ。コメの生産では農業は成り立たない。
東洋ライス株式会社と組むことで現状を変えたいと思い始めていました。
寒暖差
8月上旬、稲に花が咲いていました。
わずか2時間ほどの短い命。花が閉じると一気に実が大きくなっていきます。
この日、和歌山からやってきた阪本哲生副社長が北川正幸さんたちに田んぼの水温を測るように頼んでいました。
実るタイミングはお米の成長で非常に重要な部分。水温管理、水管理が我々は一番重要じゃないかと考えている。
阪本哲生副社長の指導を受けて北川正幸さんが温度の測定を始めます。
水温33度、すごく上がっている。例年より温度が高いような気がする。
通常、米は昼と夜の温度差が大きいほど美味しく育つと言われています。
標高の高い、この地域は昼と夜の水温差を生かし美味しい米を作ってきました。
しかし実際に測ってみると夕方28度の水温が、翌朝24.5度とその差はたった3.5度。思っていたよりも寒暖差が生じていなかったのです。
今までは、ある程度放ったらかしでもうまい米が作れると自信を持っていたけど、案外そうでもないんだなって。
なんとかしたいと北川正幸さんが動き始めました。
何やらビニールのようなものを水路から引いてきます。
すると水路の冷たい水が田んぼの中に入っていきます。
さらに北川正幸さん、田んぼの反対側に回るとせき止めていた板を外しました。
田んぼの外へ水が勢い良く出ていきます。
かけ流しの状態、温度が高いので、ためないで水を入れっ放しにして。
一晩中、水路の冷たい水を田んぼに流し続けることで水温を下げる作戦に出たのです。
数日後、北川正幸さんの水温の記録を見てみると、夕方に30度まで上がっていた田んぼの水温は、水路の水を流し続けることで翌朝21.5度に。8.5度も下がっています。
いよいよ収穫。
粒がでかい。穂がいっぱいついている。
綿密な水温管理もあって稲穂は丸々と太っています。
東洋ライス株式会社と一緒に進めてきた取り組みがようやく形になろうとしていました。
10月21日、和歌山市の東洋ライス株式会社の本社。
北川正幸さんから送られてきた米を阪本哲生副社長がチェックしています。
結構、粒張りもいい。
この日行なうのは食味検査。米を専門の機械で分析して美味しさを表す「味度」を点数化していきます。
全国の農業試験場や研究所でも行なわれる指標となる検査です。
目標はまずは80点以上。
結果は86.8点。
誰が食べても美味しいと感じる80点を大幅に上回ったのです。
我々は数百検体を測るが、85点を超えるコメはなかなかない。今年1、2を争うくらいの数字。
安来産ロウカット玄米
早速、生産が始まりました。
北川正幸さんたちが作った米が加工されていきます。
いよいよ安来産のロウカット玄米の誕生です。
島根のスーパーマーケット。
完成したロウカット玄米が地元の売り場に並びました。
早速、お客様に試食してもらいます。
普通のごはんよりも香ばしい。買って帰ろう。
売れました。
試食したお客様の多くが買っていきます。
東洋ライス株式会社が安来の農家と手を組んだこの取り組みは来年以降も続くことが決まりました。
シンガポール
10月下旬、シンガポール。
東洋ライス株式会社の阪本哲生副社長がシンガポール伊勢丹でもう一つの仕掛けを始めようとしていました。
玄米ですね。発芽玄米とか黒玄米。玄米も少しずつ増えてきていると感じる。
日本から輸入された雑穀米にタイ産のオーガニックライス。
お客様は、
味じゃないわ、健康にいいから選ぶの。
実は今、シンガポールでは健康志向の米が人気を集めていたのです。
理由はある新聞記事。
白米は甘い飲み物よりも糖尿病に悪い。
糖尿病患者が増える中、シンガポール政府は玄米などの健康食を推進していたのです。
シンガポールの中心にある国際会議場。
阪本哲生副社長、ここで大勝負に打って出ます。
開かれていたのは「Food Japan」。
Food Japan
年に一度、1万人ものバイヤーが集まる東南アジア最大の日本食の見本市です。
今回、東洋ライス株式会社も初めて出展。
健康志向の高まるシンガポールを始めアジアの国々にあの安来のロウカット玄米を売り込む作戦です。
早速、バイヤーが試食にやって来ました。
その2人はカフェレストランチェーンを運営する会社の社員です。
やわらかい。こんなにやわらかくて食べやすい玄米は初めてです。
次の女性は学校給食で使う米のバイヤー。
サンプルを持ち帰り検討してくれることになりました。
子どもたちのために使いたいわ。保護者は健康に気を遣いますからね。
3日間のイベントの結果、21社と本格的な交渉に進むことになりました。大きな成果です。
独自の技術が産んだ全く新しい米の力。
日本だけでなく海外での大きな可能性も見えてきました。
ロウカット玄米の海外の市場は絶対にある。海外市場を構築していくことは農家が再生産していくために必須。我々のできることを農家と一緒になってやっていきたい。
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