小島家
桜も散り始めた4月9日。
埼玉県戸田市の小島さんのお宅は特別な1日を迎えました。
3世代が同居する一家は朝からお祝いムードでいっぱい。
この日の主役は長女の15歳の小島弥子さん。部屋には新しい制服が飾ってありました。
今日は高校の入学式当日。
かわいい。
お気に入りはスカート。
ピンクが入っていたりグレーでもすごくかわいい柄。今まで見た中で一番可愛くて、学校まで遠いけど頑張って行って楽しみたいと高校を選んだ。
着替えてまずは家族にお披露目。家族全員が幸せそうな顔になります。
うらやましい。こんなかわいいのを着られて。私たちの頃は、こういう感じはなかった。
制服には他にも替えスカートがあります。
制服の柄は3色あって、その日の気分で種類を選べるのですごくいい。
小島弥子さんが入学するのは埼玉県深谷市にある正智深谷高等高校。スポーツの強豪校としても有名です。
正智深谷高等高校
ただいまより正智深谷高等高校の入学式を挙行致します。
今年の新入生は去年より多い456人。少子化が進み生徒集めが大変な学校が多い中、ここは年々増えています。
実は人気の一端を担っているのが制服です。現在のデザインに変えてから女子の入学希望者が急増したといいます。
この学校を選んだ理由は?
制服がかわいいから。小さい頃から、この制服に憧れていた。
年頃の高校生にとって制服は特別なものです。それは今に始まったことではありません。青春時代に着た制服にはみんな思いでを持っています。
街の声
試しに街で聞いてみました。あなたの時代の学生服は?
30代女性
短いスカートにルーズソックスにローファー。
20代女性
スカートのベルトを巻いて短くする。身だしなみ検査の時は伸ばして終わったら巻く。
40代女性
私たちの時はスカートが長かった。不良ドラマがはやっていて「不良少女とよばれて」とか、そういうドラマの影響。
50代男性
上着の裏に刺繍を入れていた。唐獅子、狛犬。先生にちょこちょこ言われるけど負けない。
今回はそんな学生服の最前線。
株式会社トンボ
[blogcard url="http://www.tombow.gr.jp/"]
岡山で創業140年、学生服の老舗「株式会社トンボ」。
創業140周年記念式典
創業140周年記念式典を覗いてみると、学生服のド派手なファッションショーが開かれていました。
モデルは社員。新作制服を披露していきます。
小島弥子さんが入学した正智深谷高等高校の制服も株式会社トンボが手掛けました。
こうしたデザイン力を武器に学校が制服を変える際の採用校数で株式会社トンボはトップを走っています。
工場
その製造現場は岡山県ののどかな場所にあります。
主力工場は岡山県玉野市の玉野本社工場です。
制服を作る工場の要が縫製場です。
取材したのは4月中旬ですが、約300人が制服作りに追われていました。
入学式が終わったばかりなのに、すでに製造が始まっています。
生産課長の森本康督さんは
合格発表があってから学校分を作ると絶対に間に合わない。来年の4月に向けて少しずつ備蓄をしていく。
4月の入学式に間に合わすため、1年中作り続けているのです。
だから倉庫にはとんでもない量の生地が置かれています。
現在、株式会社トンボが取引をしている学校は全国合わせて約1万校。その分だけ生地の在庫も必要になります。
生地だけでなく、ボタンも1万校分、ボタンも1校1校、全部違います。
その中には佐世保北高校という学校もあります。村上龍さんの母校です。
こうして1年中、制服を作り続ける工場が国内8ヶ所あります。
中国などで作る、他のアパレルメーカーと違い、全て国内生産。
入学式のある4月に1万校分、約150万着が一斉にやってくるため、それに間に合わせるためには、このやり方しかありません。
細やかなこだわり
国内で手作りする制服には細やかなこだわりもあります。
2つの高校の制服は
どちらもMサイズ。
しかし、肩幅のサイズを測ってみると44cmと47cm、同じMサイズでも3cm違います。
左は進学校。右はスポーツの強い高校。
つまり進学校には細身の生徒が多い。スポーツ強豪校にはがっちり系の生徒が多い。その特徴にあわせて、同じMサイズでも作りを変えています。
企画提案課の竹内文絵さんは
甲子園に初めて出場した学校があったら、翌年には「がっちり系」の生徒が多く入る。そういう情報も加味して各サイズ規格を設定している。
3年間着ることを考えぬき機能性も持たせています。
例えば袖口は内側の縫い目に工夫があります。縫い目を切ると袖を簡単に伸ばすことができます。そのままで縫う必要もないです。2段階、最大6cmも伸びる成長設計になっていて背が伸びても、これで対応できます。
ネクタイに持たせた機能性は汚れがついても水で流すだけで汚れが落ちる機能です。食べ盛りの高校生にはいい機能です。
近藤知之社長
様々なノウハウがびっしり詰まった工場に身長184cmの大きな男性が現れました。この男性が叩き上げの株式会社トンボのトップ、近藤知之社長です。
近藤知之社長曰く、一般的なアパレルメーカーと学生服メーカーには大きな違いがあるといいます。
私どもは「多品種・少量生産」。それを入学式までに間に合わせないといけない。効率的かと言ったら非効率。
同じものを大量に作ったほうが利益は出やすいが、なにしろ株式会社トンボの取引先は1万校。夏服などを合わせると作るアイテムは2万5,000種類にもなります。
それを生地だけでなく、ボタンや糸も変えて生徒の数だけ作らなければいけない。学生服づくりは多品種・少量生産の超非効率のビジネスです。
非効率の中でも利益が生まれる。赤字にならない工場運営の仕組みを長年、積み上げてきて現在がある。
非効率でも利益を生む仕組み
工場をよく見てみると従業員はみんな立ったままミシンを掛けています。
その理由は他のミシンにすぐに移れるから。制服作りには縫う部分によってミシンを使い分ける、ここでは1人が次々にミシンを渡り歩くことで少ない人数で仕上げられる。結果、作業時間も短くなり、生産性もアップする。
次の行程に渡す時も阿吽の呼吸で渡せ、時間の無駄がほとんどありません。
効率を上げるための人材教育も行われています。従業員に厳しい目を向ける男性。手にしているのはストップウォッチ。
生産課の藤田正樹さんは
ひと行程の作業時間を計っている。
作業の効率化を死守する、いわば番人。工程ごとに掛かった時間を計り、平均タイムより遅れていないかチェックしています。
2~3秒でも日生産に換算するとかなり大きな時間になってくる。ムダをなくすこと、とにかく「ムダ取り」から始める。
この日、藤田正樹さんが作業の遅さに目を留め、チェックしたのが入社2年目の中村果奈さん。
スピードが遅いので、まだまだ先輩を見習わないといけない。
その後、中村果奈さんは会議室に呼ばれました。そこで食い入るように見ていたのはミシンがけの映像です。
モニターの左側が中村果奈さん、右側が先輩社員。同じ作業をしています。同時に映像を流し、どこが違うのかを確認させようとしているのです。
この時も違う。先輩はここが広いから一気に縫える。でも中村さんはちょっとずつ。
先輩に比べ、中村果奈さんは針に近い所で作業をしています。これだと何度も手を持ち替えなければならず時間がかかってしまいます。
こうした取り組みで社員を回り道させることなく、成長させるのだ。
手の動きとか自分では無意識にやっているので、見返すことでダメな部分が気付けて良かった。
すべての人に制服を
独自の取り組みで少子化で逆風が吹く中、売上は好調。年商255億円。経常利益14億円を叩き出します。
しかし株式会社トンボが追い求めるのは利益だけではありません。
こちらでは立ったままではなく、じっくりと座ってミシンを掛けています。ファスナーを付けたのは背中部分。
体が不自由な方の制服です。
ファスナーを付けることで上半身が楽なまま、制服を着たり脱いだりできるようにしました。
効率化を図る一方で。こうした手間も惜しみません。
スカートには端にマジックテープが付いています。これなら車椅子の人でも簡単に脱いだり着たりできます。
お祝いの品で一生に1回のことだから、それを供給しているということは商売を抜きにして、きちんとどんな人にもまんべんなく着られる制服を納めることは使命。
近藤知之社長
制服のボタンのデザインは?
私どもの販売企画がやります。女性のデザイナーがいるので。
学校と打ち合わせをして、その中で決める。
学校が存続する限り、ボタンも常に準備しておかないといけない。生徒が1人しか入らない学校でもボタンは必ず準備しておく。
ボタンの備蓄量は?
だいたい2割増しくらい。100人入ると120人分の商品と材料を準備しておく。
なぜ学生服は手作業?
学生服の場合は多品種・少量生産だから1回で作る枚数が少ない。その度にオートメーション化していくと機械を開発するだけでコストが高く付く。
なぜ学生服は国内生産?
入学式というハードルがあるから。4月1日から10日の間に日本のほとんどの学校の入学式は収まっている。データに基づいて備蓄はしていくが、今年は女の子がたくさん入ったとか、既製のサイズに入らない生徒の分は特別に1着で作る。海外でオペレーションをしていたのでは間に合わない。
制服ミュージアム
株式会社トンボの社内に面白い部屋があると近藤知之社長が案内をしてくれました。
そこは日本最大級の制服ミュージアム。
制服の誕生から現在に至るまで時代ごとに現れた制服を復元して展示しています。
制服の文化を残していこうと思えば語るだけでなく現物を見てもらって理解を深めてもらうのが大事。
学生服の歴史
日本の学生服のルーツは明治時代、軍人や警察官が着ていた詰め襟の制服だと言われています。
学校の制服のスタートは学習院。日本で最初の制服。
1879年、学習院が日本で初めて詰め襟学生服を採用。
ちょうどその頃、1876年に株式会社トンボの歴史も始まります。
当時は岡山の名産品だった足袋を作っていましたが、1930年に見切りをつけ、学生服の製造を始めました。その後は足袋製造で培った確かな技術で株式会社トンボは学生服メーカーとして順調に成長していきます。
ところが1980年ごろ、思いもしなかったブームが…
それが「ツッパリ」や「スケ番」などの若者たち。「ツッパリ」や「スケ番」などのスタイルがブームとなり日本中に妙な変形学生服を着た若者が溢れ、社会問題になりました。
そこで学生服メーカーは手を組み「標準型学生服」の規格を決め、変形学生服を抑えにかかります。結果、どの学校も同じような制服になりました。
すると株式会社トンボは、
制服は「校風」や「教育方針」によって、それぞれ違うのが自然の流れ。制服の「個性」を打ち出した。
業界に先駆けて始めた「学校の個性が出る制服作り」。これが株式会社トンボが掲げた「スクールアイデンティティ」です。
その代表作が1984年に嘉悦女子高等学校で採用されたタータン・チェック柄のスカートとブレザーの制服。今では定番となったこの組み合わせは、株式会社トンボが初めて作りました。
学校の数だけ制服がある百花繚乱の世界は、もともと株式会社トンボによって生まれたものでした。
歴史的学生服
株式会社トンボが所有する各年代の学生服をスタジオに持ってきて頂きました。その変遷には時代が色濃く反映されています。
現在のセーラー服の原型。上下がセパレート型になった制服は福岡女学院が最初に採用。
もともとは水兵さんの制服。
裏地に般若の刺繍がある変形学生服について。
1970年から80年代にはやった。
同時に流行ったのがスケ番ルック。この頃は、こういった服が欲しいために学生の窃盗事件もあって社会問題になった。
それで「標準型学生服」を制定してツッパリ制服を売らないようにしようと、そうすると今度は学校の制服も画一化して面白くない。学校別に違う制服を作ろうと
学校の個性を出すべく作られたのが嘉悦女子高等学校の制服。スクールアイデンティティの代表作です。
2002年、コムサデモードとの共同開発の制服。
細身のシルエットの制服。襟が小さくなっている。「カラーインカラー」といって襟が中に縫い込まれている。やわらかい襟。
カギを握るのは「街歩き」
学校が制服を変える際、最も多く採用されている株式会社トンボ。
新規の契約はどのように取っているのか。それを任されているのが販売部。株式会社トンボの営業部隊です。
特別に見せてくれたのは独自に調べた学校のデータ。創立年の欄を見てみると、創立何十年という節目の学校だけ赤く塗られています。
5年、10年の節目の時に制服を変更する学校が多い。
ここには全国の販売部員の最古参がいます。62歳の和田裕人さんです。学生服の営業一筋38年。
和田裕人さんが作っていたのは何かの地図。
新制服を提案する学校周辺の制服デザインが分かっていないと、いいものを提案しても他の学校とかぶったらまずい。
販売部員は新たな制服を提案する際、窓口にもなります。だから周辺情報を抑えておく必要があります。
この時、和田裕人さんが話を進めていた学校は小金井市立南中学校。
小金井市の南中学校は今年創立40周年。創立以来一度も変えたことがないという制服は平凡な制服。
生徒たちは
ちょっと色が地味。
どこにでもありそうな制服。
やだ、ダサイ!黒か青かはっきりしない。
和田裕人さんが小金井市を訪れました。しかし行き先は学校ではないと言います。
街の匂いや雰囲気、人の表情とか、住んでいる人たちのことを理解しないと、ふさわしい提案ができない。
新たな制服を提案する時は、まず自分の足でその街を徹底的に歩きまわる。
お仕事中すいません。
そして住民に聞き込み。
小金井の街で自慢できることや最初に浮かぶものは何ですか?
桜の名所でお花見の時はすごい。
野川沿いに桜がある。あそこは最高。
しかし、こうした情報が制服と関係があるのでしょうか?
制服に地元の意味を込めたものを付けて、それに誇りを持ってもらえば長く着てくれると思う。
和田裕人さんは住民がこぞって自慢した野川という小川を見てみることにしました。
のんびりしますね。東京とは思えない。
印象的な景色と、その自然に溶け込む子供たち。そして川沿いには
ほとんど桜。
花の季節を終えた桜並木が延々と続きます。都内でも有数の名所で、春になれば川は美しいピンク色に染まります。
肌で感じられる。街のことが。本だけでなく近くに来ると感じる。
自分の足で歩き、肌で感じた街のイメージを新しい制服に反映させることができれば…
デザイン
デザイナーとの打ち合わせ。和田裕人さんの感じたことがデザインのヒントになります。
街の樹木の地図。
広げたのは小金井市内にどんな樹木が生えているかを記した地図。
学校のイメージとして「桜」は外せないと思う。
学校にサンプルを提案する日が迫っています。和田裕人さんの主張を受けてどんな制服が出来上がるのか。
ドキドキの決定の瞬間
そして迎えたサンプル提案の当日。
和田裕人さんは出来上がった制服を抱え、小金井市立南中学校に乗り込みました。
この日、お披露目する相手は小金井市立南中学校の制服検討委員会。
セッティングを終えると制服検討委員会のメンバーが集合します。PTAの保護者や冨士道正尋校長を含む教師など総勢20名。
そして和田裕人さん、勝負の時です。
サンプルを披露すると教室がどよめきます。
今回は2種類のサンプルを用意していました。このどちらかで決めてもらえれば、という提案です。
ジャケットはシャープなデザイン、そして最も目を引くのが街のシンボル「桜」のピンクが入ったチェック柄のスカート。これは2種類共に入っています。
よく見るとジャケットのステッチにもピンクが使用されています。このデザインは周辺の学校とも被っていません。
かわいい。
あと30年も若かったらね。
着ちゃいますか?
ピンクを取り入れたところが、今までの制服とガラッと変わって、落ち着いた感じがとてもいい。
その後、2種類のサンプルは体育館に飾られ生徒たちにもお披露目させました。
ピンクいいな。
触ってもいいんだって。
生徒だけは、ただ見るだけでなく、どっちが良いか投票をします。この意見が最終決定に大きく左右します。
このやり方も株式会社トンボの提案です。和田裕人さんもノリノリです。
スカートのピンク色が良かったです。
ボタンとかかわいくなっている。私たちとは全然違う。
こっちがかっこいい。
小金井市立南中学校の新しい制服のデザインが決まりました。来年の春は可愛い制服に身を包んだ新入生が胸を含まらせて小金井市立南中学校にやって来ます。
近藤知之社長
学生服の新規獲得がトップ?
新規採用数はここ10年でほとんどトップ。2位が1回だけ。
今年はモデルチェンジがあった学校の4割近くを獲得した。
選定基準は?
メーカーとしての信用力、商品力、提案企画力、あとは熱意。
あそこまで調べ上げて先生にアピールしたら断れる学校はないと思う。
競争相手もそこまでのことをやってくる。なぜトンボに決まったのか研究してくる。なぜ負けたか学校に聞きにくる。
世界で日本の学生服の評価は?
制服の先進国はイギリス。それに勝るとも劣らないだけの高品質、高機能。デザイン的にも非常に優れている。最近はイギリスの高校生の制服もスカートの丈が短くなってきた。日本の制服に影響を受けている。オールプリーツのスカートはヨーロッパであまりない。それが非常にかわいらしいと。
日本の制服は世界に発信できるファッションだと思う。これは絶やしてはならない文化。この文化を未来永劫に渡って次世代に引き継いでいくことが大切。
長野市
信州・長野市は株式会社トンボが注目する特別な制服エリア。
学校帰りの高校生は
私服。制服自由。
制服ない。
私服高校、面倒くさい。制服のほうが絶対に楽。
長野は全国で最も制服のない学校が多い県です。公立高校でも半分は制服がなく、多くの生徒が私服で通学しています。
制服を着ている学生かと思いきや
自分で買った。かわいいし、今しか着れないものだから。
制服風の服をわざわざ買っていました。実はこうした女子が株式会社トンボの次なるターゲットです。
こうしたニーズを受けて株式会社トンボも動き出していました。
「アンビー」という商品で制服のない学校向けに新しく開発。
2014年から販売を始めた新ブランド「アンビー」。ターゲットは学校ではなく、制服を着たがっている生徒一人一人です。
少子化で制服のない学校に対して指をくわえて見ているのではなくて、要望があるところについては制服メーカーとして放っておく手はない。
そのアンビーの担当デザイナーの山口梓さんが制服空白区、長野に乗り込んできました。
ながの東急ライフのサクラヤショップにアンビーの新作スカートを売り込みにきました。
サクラヤショップは学生服のお店ですが、半分近くは制服風のジャケットやスカート。私服で通う生徒を狙った商品です。
新しいスカート柄になります。
早速、新作を売り込みます。
差し色の黄色がコントラストになっていていい。細か目よりも大まかに入れている方が売れると思う。
お店も気に入ってくれて、店頭に飾らせてもらえました。
すると、
欲しい、かわいい。
通りかかった女子高生がすぐさま反応。
何でも合いそう。かわいい、本当に欲しい。
手応えあり。少子化時代を生き残る、これも進化する制服ビジネスの一つです。
編集後記
実は昔、制服は苦手だった。画一的だと思ったからだ。だがいまだに、就活学生のリクルートスーツに見られるように「個性」という概念が社会に定着していない気がする。トンボは。学生服メーカーでありながら「スクールアイデンティ」に象徴されるように「個性」の定義を探っているように思える。個性は、「正統性」が啓蒙されなければ確立されようがない。1876年に創業し、信頼を軸に誠実なビジネスを続けてきたトンボは、逆説的だが、ファッションにおける個性というものを。もっともよく理解しているアパレル企業かもしれない。