沖縄県の与那国島からわずか110キロの位置にある台湾をめぐって情勢が一気に緊迫してきました。きっかけはアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問です。
台湾側はペロシ氏の訪問を歓迎する一方、中国側は猛反発。8月4日から7日まで台湾をぐるっと取り囲むように軍事演習を行うと発表しました。
バイデン大統領は台湾に有事があれば軍事介入すると明言しているだけに緊張の高まりは世界、そして日本の経済活動にも大きな影響を与えそうです。
アメリカ 対中強硬派ペロシ議長が訪台!「台湾の民主主義を断固守る」
青空が広がる台湾の空港「台北松山空港」。見送りに来た大勢の人に手を振りながら飛行機に乗り込むのはアメリカのペロシ下院議長。大統領権限の継承順位では副大統領に次ぐ事実上のNo.3です。
25年ぶりとなる現職下院議長の台湾訪問。滞在先のホテルの前には若者を中心に大勢の人が詰めかけました。
台湾の市民
台湾にとってより有利な合意をしてほしい。
台湾の市民
25年ぶりに下院議長がまた来たのは米台関係が修復しつつあるということだ。
ペロシ議長は8月4日に台湾の蔡英文総統と会談。
アメリカ
ペロシ下院議長
世界は今、民主主義と専制主義、どちらかの選択を迫られている。
台湾と世界の民主主義を守るというアメリカの決意は断固たるものだ。
実はペロシ議長、31年前には北京の天安門広場で天安門事件への抗議を示したことも。筋金入りの対中強硬派であるペロシ議長の訪問を台湾は歓迎。蔡総統から勲章が授けられました。
台湾
蔡英文総統
この重要な時期に台湾への強固な支持を示す具体的な行動を起こしたことに感謝する。
アメリカ
ペロシ下院議長
これまで以上にアメリカと台湾の連帯が大事だ。それが今日、私たちが伝えたいメッセージだ。
互いの連帯を世界にアピールしました。
ペロシ議長はさらに台湾の民主活動家らとも会談。台湾での滞在時間は25年前に当時の下院議長が訪問した時よりはるかに長い19時間となりました。
これに猛反発しているのが中国です。
中国
王毅外相
ペロシ氏の訪台は全くの茶番だ。民主主義を口実にアメリカは中国の主権を侵害している。
中国本土と台湾の統一という歴史的な流れを覆すことはできない。
火遊びする者はろくなことにならないし、中国を怒らせた者は必ず罰せられる。
中国軍は8月4日から7日まで台湾を囲うように空や海で実弾射撃を伴う軍事演習を実施すると発表。演習エリアには台湾の領海も含まれています。さらに日本の与那国島なども近く、日本のEEZ(排他的経済水域)とも重なっています。
これに対し、日本政府は…
松野官房長官
台湾海峡の平和と安定はわが国の安全保障はもとより国際社会の安定にとっても重要だ。
中国側が発表した一連の軍事活動についてはわが国から中国側に対して懸念を表明をした。
台湾海峡に"巡視艇"!中国政府 揺さぶりを強める
ここからは中国、そしてアメリカと中継を結びます。まずは台湾海峡を挟んだ中国・福建省に杉原啓佑記者がいます。
中国は8月4日から実弾を伴う軍事演習を行うということで現地はどのような様子でしょうか。
北京支局
杉原啓佑記者
私がいるのは台湾の対岸にあたる福建省・アモイです。ここからわずか5キロほどの場所に台湾が実効支配している金門島があり、さらにその向こうには台湾本島があります。
アモイの沿岸では8月3日の朝から中国海警局の船舶が往来する姿が確認されました。中国当局は中国の安全を維持するため数日間にわたり巡回を続けるとしています。
海岸沿いの飲食店
従業員
あの船はきょう初めて見た。さっきは飛行機も飛んでいた。
米中のような2大大国による戦争が起きたら恐ろしいこと。
もしこの周辺で用事がないなら田舎に帰った方がいい。
中国軍は8月4日から台湾を囲うように実弾を伴う軍事演習を行うとしていますが、中国国営テレビはこれに先立ち8月3日午前に台湾周辺海域で爆撃機などを使い行ったとされる軍事演習の様子を伝えました。
また台湾国防部は8月4日に中国軍機21機が2日に台湾の防空識別圏に侵入したと発表していて中国からの軍事的圧力が日に日に強まっていることが分かります。
一方、経済面でも中国政府は台湾の柑橘類や魚介類の一部について輸入を停止すると発表しました。新型コロナ対策だと理由を発表していますが、台湾側へ揺さぶりをかける狙いだとみられます。
中国軍が8月4日から始めるとしている本格的な軍事演習で台湾海峡の緊張がさらに高まるのは必死です。
ペロシ氏台湾訪問 アメリカ政府は?「深刻な軍事的気」への懸念は
ワシントン支局
中村寛人記者
アメリカ政府は中国の軍事演習について事前に予想していた行動で驚きはないとする一方、この事態が危機や紛争に飛び火するのは見たくないと米中間で緊張感が高まっていることを認め、危機感を募らています。
実はペロシ氏を乗せた専用機が8月2日にマレーシアから台湾に移動する際、中国がほぼ全域で領有権を主張する南シナ海を大きく迂回しました。これは中国軍との不慮の衝突を避けるためで情勢の深刻さを物語っています。
ホワイトハウスはペロシ氏の台湾訪問について「下院議長としての訪問は前例のないことではない」と繰り返し、バイデン大統領もペロシ氏について言及を避け続けるなど政権の意向ではないという姿勢を強調してきました。
しかし、この論理は中国側からすれば開き直りの姿勢にも映り、台湾を巡る状況をより不安定化にさせる要因の一つになっています。
米中の外交に詳しい専門家は台湾問題に端を発する米中関係の悪化は改善の糸口が見えない状況だと指摘します。
米中関係のに詳しい
ジャーマン・マーシャル・ファンド
ボニー・グレイザー氏
現時点で台湾問題を解決することはできないと考えている。
アメリカと中国は台湾をめぐる相違があっても関係悪化を防ごうとするだろう。
ただ米中関係の悪化はまだ底を打っていないし、非常に危険な状態にある。
さらに現在、米中双方が台湾海峡周辺で軍の展開を強化していることがリスクにつながるといいます。
米中関係のに詳しい
ジャーマン・マーシャル・ファンド
ボニー・グレイザー氏
予期せぬ衝突や事故が起こる可能性はある。このようなことが起これば直ちに政治的危機につながり、より深刻な軍事的危機に発展する可能性がある。
バイデン政権としては不安定感が増す中国との関係をどう再構築するのか、明確なビジョンが描けていません。
ペロシ氏訪台余波どこまで!米中緊張どう解消?
台湾訪問…なぜ?
佐々木明子キャスター
台湾訪問、狙いは?
早稲田大学
中林美恵子教授
もし行かなかったら大変なことになる。中国の圧力に屈したというころで。
ペロシ下院議長、中間選挙を戦う議員たちにとっても非常に大きなマイナス。
一方、ペロシ議長は台湾訪問中、半導体の受託生産で世界最大手のTSMC創業者と会食したことも明らかに。そこにはどんな狙いがあったのでしょうか。
佐々木明子キャスター
何か「これをやってきて」というのがあった?
早稲田大学
中林美恵子教授
アメリカでは半導体に7兆円規模の補助金を出す法案を通している。
半導体の技術や生産をリードしているところを押さえておくのは下院議長として当然頭にあった。
緊迫する米中関係…どう解決?
早稲田大学
中林美恵子教授
落としどころが見つからない。米中関係はますます悪化するのは目に見えている。
佐々木明子キャスター
さらに緊張が高まる?
早稲田大学
中林美恵子教授
台湾の中に"不協和音"を作り出すことが短期的な方策で中国は動いていくのでは。
例えば「中国寄りの台湾の人の声が弾圧されている」ことを口実にいろいろな介入をしていくことは、ロシアのウクライナに対する例を見れば明らか。
軍事的な行動を起こす口実を今のうちに準備してネタを仕込んでいるような、したたかな側面が。
米中が直接会話できる、しかもトップが腹を割って話ができる状況は絶対に残さなければいけない。
ペロシ氏訪台余波どこまで!日本経済にも意外な影響?
日本経済への影響は?
経済の専門家はすでに日本経済にも影響が出ていると指摘します。
第一生命経済研究所
主席エコノミスト
永濱利廣さん
中国が台湾周辺で軍事演習のアナウンスをしたことで海運の経路の修正を余儀なくされている。
日本の天然ガスの輸入が遅れるといった影響はすでに出始めている。
万が一、軍事衝突が発生するなど事態がエスカレートした場合には…
第一生命経済研究所
主席エコノミスト
永濱利廣さん
計り知れないような深刻な影響が出かねない。
日本企業の設備投資計画の下方修正や金融市場の混乱を通じた影響、さらにエスカレートすればインバウンドの減少、日本の対中国の取引関係にも甚大な影響が及んでくる。
もし日本から中国への輸出がなくなった場合、日本の経済規模はおよそ25兆円縮小するとの試算も。
第一生命経済研究所
主席エコノミスト
永濱利廣さん
日本からも中国に企業がたくさん進出しているので「企業・事業・試算が接収」という状況も最悪のケースではありえなくないかなと。