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[ガイアの夜明け] 追跡!「絶望職場」の担い手たち(2)

2017年8月1日

追跡!「絶望職場」の担い手たち

菅谷いちご園

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茨城県かすみがうら市。菅谷いちご園。

朝5時からイチゴを収穫する女性の姿がありました。

ベトナムから来ました。ハノイの近く。

22歳のブィ・ティ・ガーさんをはじめ、この農園には5人のベトナム人と1人の中国人が外国人技能実習生として働いています。

経営者の菅谷利男さん(67歳)は、

人手がいないから必要。いなくなったらやっていけない。日本人もうちにはいるが忙しい時に来てくれない。

いまや外国人実習生なしでは経営は成り立たないといいます。

一方、実習生は、

ベトナムの仕事はお金が安い。日本はお金が高い。

ベトナムの仕事は1ヶ月、日本円で2万円。今、給料は少し良い。

ここでの給料は手取りで12万円以上。

ベトナムの平均月収約2万7,000円
実習生の給料12万円(手取り)~

わずか1ヶ月でベトナムの4ヶ月分を稼ぎます。

実習制度

実習制度ではまず日本で人材を必要とする所が仲介組織に相談。すると仲介組織が海外で希望者を募ります。

採用された外国人は研修費や渡航費を仲介組織に支払い日本へ。

しかし職場を選ぶことは出来ず、基本3年間、帰国も許されません。

快適な住まいを用意するなど手厚い待遇で実習生を受け入れている菅谷さん。

彼女たちも日本での生活を楽しんでいるようです。

性格優しい。

ところが菅谷さんのような受け入れ先ばかりではありません。

周りで逃げた実習生もいる。仕事が嫌になって逃げた人もいる。

岐阜一般労働組合

岐阜県羽島市、2017年2月。

市内にある、ある建物の看板には「外国人相談センター」とあります。

中に入るとソファーに座っていたのはアジアから来た若者たち。皆、技能実習生です。

なんだか深刻な表情。

私はジャンナーです。

ジャンナーさんはカンボジアから来ました。建設会社で働いていたそうです。

班長にやられました。痛い。

日本人の班長にハンダゴテを押し付けられたといいます。

班長は朝から午後までずっと怒ります。「あなたは仕事が遅い」。私怖い。

右手に包帯を巻いていたのは中国からの実習生。

機械に挟まれて。

段ボール工場の機械に指を挟まれて2本切断してしまったのです。日本で治療を続けたいと願っていたのですが、

会社に「中国帰れ帰れ」と言われて、とても怖くてどうすればいいのか分からない。

ここは日本の働き先で様々なトラブルを抱えた実習生たちの避難所。

年間100人もの人が全国から逃げ込んでくるといいます。

責任者は中国人の甄凱さん(58歳)。岐阜の労働組合の支部長です。

外国人からの相談は甄凱さんが担当しています。

解雇されて行く先がない。賃金の未払い問題。困っている人たちがこちらに来ている。

中国人実習生

6月29日、岐阜県大垣市。

この日、甄凱さんが向かったのは古い平屋のアパート。人目を避けるように裏に回りました。

入っていい?

部屋に住んでいたのは中国人の実習生たち5人。

実は甄凱さん、彼女たちから助けて欲しいと連絡を受けて訪ねてきたのです。

彼女たちの職場は大垣市内の縫製工場。15人の中国人実習生と働いていました。

自分でつけ続けていたという勤務表。労働時間は毎日朝7時から深夜の24時まで。

1年間、ほぼ休み無しで働かされていました。

日曜日以外は毎日15時間半働いていました。休みは7ヶ月でたった1日だったんです。

会社が書かせたという勤務表。労働時間は8時30分から19時まで、土日は休んだことになっています。

会社が労働基準監督署や税務署に出すための為の資料を作っている。

中国人実習生は、

明け方4時に帰ってきて2時間しか眠れないことがあるんです。

本物の給与明細はすぐに会社に取り上げられてしまうため隠し撮りしていました。残業はなんと197時間、しかも時給は最低賃金を大きく下回る400円。手取りは月14万円ほどにしかなりません。

さらに、

給料や残業代は何ヶ月支払われていないの?

給料は3ヶ月もらっていません。

残業代は2月から4ヶ月支払われていないんです。

そこで彼女たち5人は会社に未払い賃金の支払いを求めて甄凱さんの組合に加入したのです。

これまでの2年半の労働時間を計算してみると未払いの賃金は1人あたり620万円以上に上ります。

ところが、

社長は「払う金がない」って言ったんです。会社が雇った弁護士は「会社には支払能力がないから倒産するしかない」って。

彼女たちが働いていた会社は賃金を支払わないまま倒産したというのです。

縫製工場

その職場に向かいます。

ここ、この建物です。

建物の2階で働いていたそうです。

あの2階の左奥が事務所で、その隣が作業場になっているんです。

裏手に回ってみるとプレハブ小屋がありました。ここも作業場だといいます。

甄凱さんと5人の実習生は倒産した会社の様子を見に行くことにしました。

裏手のプレハブ小屋へ。

中を覗くと何故か働く人の姿が…。

実習生が中に入ると、

ワタシ入ったらあかんがね。

社長夫人です。

ワタシ入ったら不法侵入やで。

ワタシらはここからは違う。人間が違います。

倒産したはずなのに業務は続いていました。

甄凱さん、2階の事務所へ。

どうなっているんですか?

縫製会社の社長です。

5名の最後の3ヶ月分の給料をいつ払う?

それは弁護士にお話している。うち、もう終わっちゃったから、

弁護士の先生にお話していますから。そういうことです。

社長は弁護士と話せと一点張り。取り付く島もありませんでした。

5人のうちの1人、江蘇省出身の印文秀さん(30歳)。3年前、生後6ヶ月の子供を残して日本にやってきました。

家族が冬にこの写真を送ってきてくれたの。早く子供に会いたい、でも今は写真を見ることしかできない。このことを早く片付けて家に帰りたい。

引っ越し

社長に会って4日後の7月3日。

会社に何やら異変が…。

ミシンが運び出されていきます。

一方、実習生たちのアパートにも動きがあります。

引っ越しの作業をしているわ。食器とかベッドとか荷物を全部出している。

印さんたち以外の実習生15人をここから移動させるというのです。

そこに縫製会社の社長がやって来ました。

アパートはどうなるんですか?

会社は潰れちゃったから、6月末で。

もう電気も切れますからね。明日から住めない。

5人を誰が面倒をみるのか?

他の実習生をどこに連れて行く?

分からない、あなたに関係ない。

5人をなぜ一緒に連れて行かないの?

社長は行き先を告げず走り去ってしまいました。

未払いの賃金は支払われないまま…。

残された実習生は明日から住む家さえありません。

印さんたち5人には会社の弁護士から離職票が渡されていました。

実は甄凱さん、会社の弁護士からある制度の手続きをするようにと言われていました。

未払い賃金の立替払い制度

それは会社が倒産し、未払いの賃金があった労働者に国が立て替えて支払うという制度。

財源は企業が払っている労災保険です。

しかし、この制度で受け取れるのは直近6ヶ月の賃金だけ。しかも、その8割と決められています。

会社が作った明細書によると6ヶ月間の未払い賃金は1人140万円あまり。受け取れるのはその8割です。

彼女たちが求める620万円のごく一部に過ぎません。

全然納得できない。こんな少ない額ではとても帰国なんかできないわ。

甄凱さん、この会社のやり方に疑問を持っていました。

5人なら未払い賃金が3,000万円くらいあるはず。会社が支払いたくないので倒産手続きを申請しようという考え。

倒産することで未払い賃金を国の制度に肩代わりさせる。それが狙いではないかというのです。

縫製会社の社長

2週間後の7月22日。

5人が勤めていた会社を再び訪ねました。

近くに社長の車が止まっています。

あの社長です。事務所に上がっていきます。

そこで直接話を聞いてみることにしました。

「会社は倒産した?」

そうです。もう全部整理して、あの子たちの補償も全部やって、そこら辺は弁護士と打ち合わせして。

「倒産してしまうくらい赤字だった?」

赤字というか、そういう部分は…。

「だから賃金を払えなかった?」

賃金が払えなかったのではなくて、そういう話をし出すと1時間、2時間の話じゃない。

「未払賃金620万円払わずにこれで済ます?」

それは法的な処置で。

弁護士が付いた方がいい。

社長からは明確な答えは聞けませんでした。

後日、会社の顧問弁護士から回答書が…。

最低賃金については、一部に違反があったことは認めますが、刑事罰もあり得ることなので違反があったことのみ回答し、その理由についてはお答えできません

と回答しました。

その上で、

法的責任、道義的責任を全うするために破産をして、責任をとる

と今回の倒産について説明しています。

また、

長時間労働させていたという事実については認めます

として一方、

残業は自主的、任意に基づくものであり決して強制ではない

と書かれていました。

指宿昭一弁護士

なぜこうした状況が長年放置されたのか?

技能実習制度の問題に取り組む弁護士の指宿昭一さんは制度に大きな欠陥があると指摘します。

よその会社に移ることができない。違法行為があれば移れるという建前にはなっている。実際、違法行為があっても声を上げて会社を移れるケースはまれ。実習生が移る先を見つけようがない。誰も見つけてくれないし、協力してくれない。

実はほとんどの実習生は研修費や渡航費など60万円から100万円の借金をして日本にやってきます。

職場を選べない実習生は低賃金や長時間労働でも我慢して働き続けるしかないのです。

唯一、そこから逃れる手段は逃げること。辞めることも。よそに移ることもできなくてやむにやまれず逃げて違法な状態だけど、よそで働かざるを得ない、それが失踪のケースの多くだと思う。

最近、アメリカ国務省が発表した人身取引に関する文書。

そこには、「日本の技能実習制度で働くアジアの人々が強制労働に近い状態に置かれている」と記されています。

家も仕事も失い多額の未払い賃金だけが残った5人の実習生。甄凱さん、彼女たちをどうやって救うのか?

そんな時、また助けを求める人達が…。

北海道の縫製工場

6月下旬、北海道。実習生のトラブル解決に奔走する甄凱さんの姿がありました。

この日訪ねたのは婦人服を作る縫製工場。

ここで働くカンボジア人が助けを求めてきたのです。

仕事は朝8時30分から午前0時まで。休みは週に1日。

ここでお未払いが起きていました。

全員の分を合わせると2,500万円に上ります。

まず2,000万円。

札束を取り出したのはこの会社の会長。

これ全部で2,500万円。

交渉の末、会社が非を認め未払い賃金を支払うことになったのです。

その現金は実習生たちに配られます。

甄凱さんは取り戻した賃金の20%をカンパとして受け取り、組合の活動費に充てます。

なぜ実習生たちを違法な低賃金で働かせたのか?

景気が悪くなって1着を仕上げる加工賃が1,200円に下がっている。それでもやるところがあるから困る。2,000円くらいもらわないと。

競争があるんですね。

消費者の節約志向もあって国内のアパレル各社は苦しい戦いが続いています。

そこで商品価値を高める切り札が「メイド・イン・ジャパン」というブランド。

しかしそれは時として下請けの工場で働く実習生の犠牲に成り立っていたのです。

メイド・イン・ジャパン

岐阜県羽島市。

甄凱さんが集めたのは未払い賃金を取り戻そうと戦っているあの実習生たち。

アパート追い出され、甄凱さんの避難所に身を寄せていました。

このブランドを作ったことはある?

見せたのは、あるアパレルメーカーのホームページ。

これ作ったことある。このワンピースたくさん作ったわ。

作った服の8割はこのブランドよ。品質にはとても厳しかった。

納期がとても短いの。5日で500枚以上作ったこともあるわ。

商品には「MADE IN JAPAN」のタグ。品質の高さをアピールしています。

私たちは「メイド・イン・ジャパン」を作っているから日本の基準で給料を払ってほしいです。

この会社に「下請けがこういう現場ですよ」というのを分かってもらいたい。

甄凱さん、メイド・イン・ジャパンを謳う有名ブランドにこの事実を知ってほしいといいます。

そんな中、2017年11月から技能実習制度が変わります。期間は3年から最長5年に。雇うことができる人数も2倍に拡大されるのです。

いろいろな人権侵害のケースがどんどん増えてくる。技能実習生たちの権利を守るため頑張ろうと思う。

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