北海道の知床半島沖で起きた遊覧船の事故。乗員・乗客26人のうち11人の方の死亡が確認され、現在も15人の行方が分かっていません。この事故で安全対策についていくつかの問題点が浮上しているほか、背景にコロナ禍での観光業者の厳しい経営状況があることが見えていきました。
北海道の斜里町には轟拓人記者が行っています。
知床沖11人死亡 15人不明!国交省が緊急安全点検開始
轟拓人記者

多くの報道陣が待機しているこちらは海上保安庁などが乗客の家族に対し捜索状況などを説明する会場です。
今も中には乗客の家族が待機しているとみられています。
捜索について海上保安庁が夜通しで残り15人の行方不明者の捜索にあたるということです。
国土交通省は4月25日夕方の対策本部会議で事故が発生した原因を解明するよう改めて指示しました。
斉藤国交大臣

運送会社への対応として特別監査を実施しているが、引き続き徹底した調査をお願いする。
また国交省は4月25日に観覧船の事故を受け、全国の旅客船事業者に対し、海上運送法に基づく安全管理規程を守っているかなどを調べる緊急安全点検を始めたことを明らかにしました。
こうした中、乗客の家族からは「指摘されてから謝るようなずさんな説明ばかりだ」などと観覧船の運行会社の対応について不満の声が聞かれています。
轟拓人記者

今回の事故について地元の同業者に話を聞く機会がありましたが、事故を起こした知床遊覧船は新型コロナによって経営が悪化していて、強引にツアーを開催したのではないかと指摘する声も上がっています。
遊覧船 なぜ出航?乗客家族からは不満の声…
事故が発生してから3日。4月25日早朝から事故があった知床沖では捜索を続ける多くの漁船の姿がありました。
今回事故を起こしたKAZU1(カズワン)は23日の午前10時ごろ斜里町ウトロ漁港を出航。知床半島西側のオホーツク海を航行し、午後1時過ぎに寄港する予定でした。
異変が起きたのは午後1時13分ごろ。
KAZU1(カズワン)からの救助要請

浸水している。
救助を要請する連絡があったのは港からおよそ27キロ離れたカシュニの滝付近。
その後、午後2時ごろに「30度ほど傾いている」という音信があったのを最後に連絡が取れていません。
波が高いのになぜ出航?
事故当日、斜里町は朝から強風が吹き、波も高い状況でした。
救助を要請した時点で波の高さはすでに3メートルを超えていました。
こうした状況の中、この日ツアーを始めたのはウトロ港を利用する運行会社5社のうち知床遊覧船1社だけです。
息子が救助されていない父親

知床遊覧船の社長が「申し訳ない」と謝ってきたが、なぜこの悪天候で船を出したんだと、「私は大丈夫だと」と言っていた。
同業他社からは…
同業他社

船長に安全が確認できないから船を出すのをやめたほうがいいと話した。
波が高かったため知床沖には漁船の姿もなく、近くに救助に向かえる船はいませんでした。
なぜ救助が遅れた?
海上保安本部のヘリコプターが現場に到着したのは救助要請から3時間後の午後4時半。
釧路航空基地から現場までは本来1時間半の距離。
ですが、捜索にあたったヘリは別の場所で活動していたため潜水士の搭乗や給油で一度基地に戻っていました。
磯崎官房副長官

まずは海上保安庁が捜索をし、調整をし、自衛隊の派遣要請を行った。
しっかり連携をとれた中で行動した。
乗船者はライフジャケットを着ていたとされますが、専門家は知床沖の環境の厳しさを指摘します。
海難事故に詳しい
明治国際医療大学
木村隆彦教授

今回の事故で一番問題なのは水温。救命胴衣は浮くためのもの。
2度、3度という水にさらされれば当然低体温になる。
知床遊覧船事故 11人死亡!背景には…コロナ禍?
背景にはコロナ禍?
知床はヒグマやイルカなどの野生動物や高さ30メートルのカシュニの滝が見られる人気の観光スポットです。
おととし、知床遊覧船のツアーに参加した人は…
過去に知床遊覧船を利用した人

やっぱり知床と言ったら遊覧船で見て回るのが一つの観光。
それ(遊覧船)が目的の人も多い。
しかし、コロナ禍で観光客は激減。
運航事業者で結成される知床小型観光船協議会によると観光船各社は銀行からの借り入れやクラウドファンディングなどでなんとか経営を維持しているといいます。
また知床遊覧船は数年前にベテラン操縦士ら複数人を解雇。
去年、船を座礁させるなど2回事故を起こしています。
同業他社からは…
同業他社

コロナで経営が厳しく船を出航させたい気持ちが強かったのでは。
うちも船を出せるなら出したい。
国土交通省は事故対策本部を立ち上げ、事故原因を調べています。
運輸安全委員会の調査官

船体等が見つかったときの対応も含めて進めていく。
知床遊覧船も社長が会見を開き、状況の説明をする意向を示しているということですが、事故原因に関する本格的な検証はこれからとなります。