パナソニックが100周年を迎えます。
創業者の松下幸之助氏は世界的な家電メーカーを育てた「経営の神様」と呼ばれています。
しかし現状を見てみると日本のメーカーはあまり元気がありません。アップルやサムスンなどの海外勢に押されて苦境が続いている状況です。
ですから今、100年前の創業のときの思いや活気を取り戻そうとして1つの実験場を作っています。
その場所がアメリカのシリコンバレーです。
パナソニック株式会社
[blogcard url="https://panasonic.jp/"]
イノベーションの発信地、シリコンバレー。
そこにひときわ目立つリング状の建物があります。2017年に完成したアップルの新本社です。
そのアップルの新本社から道を隔てて反対側にパナソニックのオフィスがあります。
そのパナソニックの中にイノベーションを生み出すための新しい秘密基地が誕生しているといいます。
テレビカメラが入るのはこれが初めてです。
Panasonic β
パナソニックβは2017年に作られた新開発拠点。これまでの家電開発のやり方ではなく、今までにない発想でイノベーションを起こす仕組みを作ろうというのです。
スタッフはパナソニックの各部署やカンパニーから選ばれた若手の精鋭約30人です。
テレビの先行開発。ディスプレーの開発をする部署から。
ソフトエンジニアです。
パナソニックβが目指す開発の大テーマが「人々の生活や行動と家電をどう連動させるか」。
普段の生活と同じ空間で発想するためオフィスにはキッチンや道具が揃い、実際に料理をすることもできます。
人工芝が張られたくつろげるリビング。こうした雰囲気の中でアイデアを考えるのです。
日々、そこかしこで自然発生的にミーティングが始まります。
長靴をIoT(モノのインターネット)化したら?
どんなアイデアでもOK。と、そこに現れた1人の男性、パナソニックβのトップ、馬場渉社長です。
何の話?
今は靴の話。靴を作りたいと思って。カメラを仕込んだら面白い。
歩いている映像?
GoPro(カメラメーカー)のパクリ。さすが「マネシタ」と。
馬場渉社長
馬場さんは2017年にパナソニックに移籍。それまではヨーロッパの大手IT企業「SAP」でイノベーションを生む方法を実践してきました。
その手腕を買われたのです。
そんな馬場さんが大事にしているのが、創業者、松下幸之助氏の言葉。
「松下電器は人を作る会社です。あわせて電気製品を作っています。」
この言葉を聞いて入社を決めた。印象的な言葉。
パナソニックβが作るのはイノベーション人材。様々な部署や職種の人を横断的に集めているのがポイント。
キーワードは横のパナソニック「横パナ」です。
クロスイノベーション(事業の枠を超えた革新)を実現するキーワード。全体の既存のやり方をガラッと変えるまで非常に長いステップになると思うがそこまでやる。
アイデア
人と家電をどう連動させるか議論していた若手スタッフたち。アイデアがまとまったようです。
すぐいけるでしょ。
ここではアイデアを出しっぱなしにせず、その場で形にするのが流儀です。
既存のスマホに簡単なプログラムを書き込んでいました。
30分後、すぐにアイデアが形になりました。センサー機能をプログラミングしたスマホを靴の中に入れて、その靴を脱ぐとビールの音が…
これは人が帰宅するシーンを想定、靴を脱ぐとセンサーが反応、家のスピーカーからビールの音が流れて思わず冷蔵庫を開けたくなる。確かに人の生活や行動と連動しています。
さらにスタッフが見せてくれたのは、むしゃくしゃした時に手裏剣を投げるアクションで電気のオン・オフが出来る機能です。
これはどのくらいで実装できた?
実質1時間くらいで。
部屋のセットも1日で作りました。完璧でなくてもいいからいち早く形にして検討することが何より大事だといいます。
一番安く、早く・単純な方法でまずモノを作る。
「最初考え出したものはある程度不完全という前提?」
可能性を発見するためのプロトタイプ(試作品)。品質は最終製品に近い必要は全くない。「いいね」となったら品質を上げる、その繰り返し。
ユーザーの潜在的なニーズを汲み取り、素早くカタチにして不完全でもいいから世に出す。そして、その反応を見ながらモノやサービスをブラッシュアップしていきます。
これはデザイン思考という考え方。シリコンバレーの多くの企業が実践しています。
従来の家電メーカーが完璧を目指して新製品を出すまで何年もかけるのとは対照的です。
スタッフは、
毎日、刺激的。
日本と違うのが意思決定のプロセス。日本だと関係部署と初めに調整してから作る流れになりやすい。ここはスピードも速い。
b8ta
[blogcard url="https://b8ta.com/"]
シリコンバレーの街で象徴的な店を見つけました。
世界中のベンチャー企業が作った新製品を集めた店「b8ta」です。
その名前の由来となった「β」とは、そもそもソフトウェアの世界で正式版を出す前のテスト版のこと。
大量生産の製品ではなく、少量でもいいからまずは世に出して反応を見ようというものがほとんどです。
天井にある複数のカメラでお客様が見ている様子をモニターし、その情報をベンチャー企業に提供する。彼らはそれをもとに製品を改善していくんだ。
Design Tech High School
[blogcard url="http://www.designtechhighschool.org/"]
一方、シリコンバレーに2018年に開校した公立の高校「デザインテック・ハイスクール」。
ここでは高校生向けに「デザイン思考」を本格的に教えるカリキュラムを組んでいます。
ユーザーのニーズを分析し、何を作るべきかの議論に始まり、アイデアがまとまれば3Dプリンタなどで即座にカタチにします。
アイスクリーム型のクッキーカッター。ここが鋭くなっていて、こうカットするの。
「この学校は楽しい?」
はい。
「卒業後は何になりたいですか?」
機械かコンピューターのエンジニアになりたい。
「デザイン思考」には世界を変える力がある。将来は教える立場になりたいです。
Oracle Corporation
[blogcard url="https://www.oracle.com/index.html"]
この高校を支援するのがシリコンバレーに本社を置くオラクル。
校舎を建設したほか、学校運営にも協力しています。
シリコンバレーでは企業だけでなく、教育の現場にもデザイン思考が浸透していました。
Panasonic β
そんなデザイン思考でイノベーションを生もうというパナソニックβ。
「シリコンバレーは無秩序ではなく、イノベーションを生む「型」がある?」
馬場社長は、
イノベーションを生み出すための「型」、それをつくってモデル工場として世界中に展開する。
最初の成果が「HomeX ZERO」。
カラフルなセンサーと白いハブがポイントです。
例えばセンサーを冷蔵庫に入れると、人が扉の開け閉めをしたり、モノを出したという情報を検知します。
ゆくゆくはセンサーで人の行動と家電の状態を把握し、ハブを通じてデータベースで分析、家電が状況にあった機能やサービスを提供するということを想定しています。
シリコンバレーでこうした技術的なことをやっていると、人間のリアルな生活とかけ離れたテクノロジーと思われる。どうやったら住空間を人間性のある空間に取り戻せるか、デジタルが貢献できることが確かにあるはず。
パナソニックにとって今は特别なタイミングです。
松下幸之助氏が創業して2018年で100周年。
「松下幸之助氏の時代の否定なのか回帰なのか?」
回帰ですね。現在風のアレンジをした回帰。「昔はこんな感じだった」と。目指すのはそこ。