日本経済の停滞が叫ばれて久しい状態です。世界で占めるGDPの比率は低下を続けています。日本経済は再び輝きを取り戻すことができるのでしょうか?
モーニングサテライトは今の日本企業に何が必要なのか、そして反転攻勢へと動き出すためのマネーの力に焦点を当て、5日間に渡って特別企画をお送りします。
経済WEEKはご覧のようなラインナップでお伝えします。
月曜日 | 生き残りをかけた巨額買収 |
火曜日 | 社内ベンチャーは救世主か!? |
水曜日 | 稼ぎ先を転換させる新モデル |
木曜日 | 整ったかベンチャー支援スキーム |
金曜日 | 復活の立役者が語る真実 |
初回の今回は日本企業を象徴する企業であるパナソニックを取り上げます。
パナソニックは今年、およそ8,000億円という巨額なマネーを投じてアメリカ企業の買収に踏み切りました。この買収でパナソニックは巨大組織をどのように変えようとしているのでしょうか。
パナソニックの反転攻勢
製品なきショールーム
パナソニックの専務執行役員でグループ会社「コネクテッドソリューションズ社」社長の樋口泰行さんです。
案内されたのは…
従来のパナソニックのショールームだといろいろな製品が並んでいて、それぞれの仕様の説明があるが一切そういう説明はない。
中に入って目についたのがスーパー用の食品棚。
そして段ボールを積んだ倉庫用のカート。
このショールームの目的とは一体?
小売りや倉庫などの現場をできるだけここで再現して、物を作って運んで売るという一連のサプライチェーンの現場を支える。
パナソニックが消費者向けの「BtoC」から企業向けの「BtoB」へとビジネスモデルを変換するためのショールームだったのです。
「戦う場所を変えた?」
変えようとしている。
そしてパナソニックが戦う場所と戦い方を変えるため大きなマネーの動きがありました。
BtoBへの大転換 その裏には
パナソニックの楠見雄規社長。
BlueYonder(ブルーヨンダー)の100%子会社化という極めて重要な経営判断をした。
パナソニックにとって大きな意味を持つこの買収をなんとしても成功させる。
全社を挙げて取り組んでいく。
71億ドル、およそ8,000億円という巨額を投じたブルーヨンダーの買収です。
サプライチェーン専門のアメリカのソフトウエア会社でDHLやコカ・コーラ、スターバックスなどの欧米の大手企業3,000社を顧客に持ちます。
まさに企業向けビジネスを得意中の得意とする企業なのです。
このブルーヨンダーの買収で新たな成長モデルの構築を目指すパナソニック。
ビジネスモデルを変えなければならない転換点は10年前にありました。
パナソニックの津賀一宏社長(当時)。
残念ながら当社はこの領域で負け組になっていると言わざるを得ない。
2012年、決算会見の席上でトップの口から飛び出したデジタル家電での「負け組」宣言。
主力事業に据えていたプラズマテレビの失敗が原因でした。
2005年~2009年にかけて3つの専用工場を次々と稼働させフル生産体制に。しかし市場では韓国などアジア勢の低価格モデルの攻勢に負けてしまったのです。
以来、パナソニックはテレビの次に来るビジネスモデルを模索していたのです。
今までは強いパナソニックだったが、激しい競争にさらされたときにどういうふうに戦う場所や戦い方を変えるかがカギになってくる。
戦い方をチェンジ
モノづくりを離れて戦い方をどのように変えるのか?
パナソニックの戦略を実際に見ることができる現場を訪ねました。
大阪にあるパナソニックの物流拠点に来ています。ここが今、パナソニックがこれから始めようとしているビジネスの研究拠点になっています。
パナソニックが製造するパソコンや家電製品などの修理部品を集積するパーツセンター。8万アイテム、1,000万個の部品が保管され、常時世界中の消費地に向け出荷されています。
「うまく管理して最適に届けることをやらなければいけない?」
パナソニックのサービスパーツ部、木村雅典部長。
そのためにわれわれはあらゆるものをデータから情報に変えて、それを管理できるシステムを構築している。
自社の倉庫をモデルにして新ビジネスを構築するためのシステム開発を行っているのです。
今日の注文の状況から出荷の状況を画面で確認することができる。
472件の注文が入っている。今現在190件が完了している。
倉庫内の作業状況をデータで可視化したこのシステム。
こちらは1週間分の生産性を表したグラフ。
1件あたりの処理にかかる時間が12月2日と4日は基準時間を上回ってしまったことがひと目で分かります。
生産性が低下する理由を明らかにするための仕組みが現場にあるということで早速見せてもらいました。
天井を見てください。
カメラが40個ほど庫内に設置されている。
天井に加えて台車やフォークリフトにも付けられた数々のセンサーとカメラ。
例えば台車の場合、頭上のカメラでは作業者の動きを記録します。
前方のセンサーでは進行方向を撮影しながら棚に貼られた目印を読み取り、倉庫内の作業者の位置を特定します。
こうして記録された映像を解析すると生産性が落ちた理由が分かります。
これは実際に解析された後のデータ画像です。
こちらの作業員は台車を使ってピッキングをしながら途中で空になった段ボールを回収しようとします。
ところが空き箱が作業の邪魔になり、片付けのために現場を離れてしまいました。これにより本来のピッキング作業が4分間中断していたことが分かりました。
通常こういうことは想定していない。
これが分かれば空箱の処分はだれかが一日の最後にまとめてやれば解決できる。
こうしたことが現場で発生していること自体が把握しづらい。
こちらの自動倉庫エリアではカメラを使って人の骨格の動きを分析する映像システムを導入しています。作業員の体の動きを撮影して梱包の違いによる作業時間のばらつきをAIで分析するのが目的です。
まずは自社の倉庫で生産性を高めるデジタル技術を開発。
それを製造、物流、それに小売りなどのサプライチェーンにシステムとして販売していこうというのがパナソニックの新しい戦い方なのです。
作って、運んで、売るサプライチェーンの現場。
生産性が上がったり品質が良くなったり、ロスが削減される限りは顧客は対価を払う。
競合他社が入りにくい世界を形成できる。
そして、パナソニックのサプライチェーン向け新ビジネスをさらにスケールの大きいものにするための秘策がブルーヨンダーの買収だったのです。
パナソニック 樋口氏
巨額買収 真の狙いは
パナソニックが反転攻勢に出るため巨額を投じても手に入れたかったブルーヨンダー。
その買収の真の狙いを聞きました。
われわれはずっとハードウエアの単品を売ってビジネスをやってきたけれども、あらゆるハードウエアはコモディティ化する宿命にある。
したがって収益の持続性がそれほど長くない。
それに比べてソフトウエアでの「パッケージ」と「リカーリング(継続課金)」。
電気・ガス・水道のように月額課金ができる。
このモデルは非常に経営に安定性をもたらす。
一つ目の狙いはパナソニックが開発した現場向けのデジタル技術をサプライチェーン全体に広げるためにブルーヨンダーのソフトウエアのノウハウを生かすこと。
そして2つ目の狙いがソフトウエアの利用料を継続的に課金するリカーリングというビジネスモデルを手に入れることでした。
12月初旬、樋口氏とブルーヨンダーのギリッシュ・リッシCEOが年末商戦に向けたクライアント企業への動向などについて確認をしていました。
クリスマスは大きなショッピングシーズンだから準備をしないと。
クリスマスに向けて小売業や製造業で私たちのソフトウエアへの関心が高まっている。
パナソニックとブルーヨンダーの力を合わせて可能性を広げましょう。
われわれも顧客ん現場のプロセスを改善して貢献しようというDNAがある。
100年のものづくりのDNAもある。
世界最大のソフトウエアのパッケージのソリューション。
このふたつの点と点が結び付くといろいろなポテンシャルがある。
チェンジ パナソニック
社内改革の芽生え
パナソニックとブルーヨンダー、2社の融合による相乗効果がすでに現場でも現れ始めていました。
倉庫責任者。
これの3分の1くらいまで小さくならないか。
センサー技術者。
3分の1ですか?
システム開発責任者。
お客様がいるところに設置すると邪魔になる。
技術的に検証してみます。
物流部門と研究開発部門の担当者が一緒に改善に向けた打ち合わせをしています。
組織の壁を超えての取り組みが始まっています。
「これまで技術者とシステム開発者が倉庫に来て議論することはあった?」
パナソニックの現場コンサルティング部、一力知一武町。
世の中の物流にどう貢献するかという事業を行う中で組織をこえて技術開発や強みの技術を活用するという流れが生まれてきた。
「ものづくりだけの企業ではないと意識変革はできる?」
これまで変わろうとしてきたけれどなかなか変われなかった。
今回は何が違うのかここまで変わることができた。
これを元に戻してはいけないという思いがひしひしと伝わってきた。
100年続いた会社をさらに100年続かせるためには何が必要かというブレない気持ちが大事。