アメリカとは対象的に大規模な金融緩和を継続しているのが日銀です。黒田総裁は21日の記者会見でも「金利を上げるつもりは全くない」と断言しました。その理由の一つが賃上げを伴う物価上昇を実現するためということです。
逆に金融緩和政策では賃上げは起きないという見方もあります。その理由がゾンビ企業といわれる会社の増加です。一体何が起きているのか追跡取材しました。
奮闘する町工場 支えるのは…
横浜市内にある大髙製作所。創業38年の金型メーカーです。
社長の大髙晃洋さん、17年前に父の会社を引き継ぎました。従業員は2人、自動車や電子機器などの部品を量産するための金型を製造しています。
角谷暁子キャスター
社長になられてからの業績?

大髙製作所
大髙晃洋社長

ものづくりが海外に移転し近所の工場もなくなっていた。
コロナに入って月の売り上げが完全にゼロもあった。
その時は将来は厳しいかなと頭をよぎった。
赤字と黒字を繰り返す一進一退の経営状況。それでも受注獲得のため2,000万円近い機械を購入するなど奮闘してきました。
その支えとなったあるものを大髙さんが見せてくれました。
大髙製作所
大髙晃洋社長

いま借りている支払いの明細書。
借金の明細です。
大髙製作所
大髙晃洋社長

平成24年(2012年)1月から1,900万円。年利1.8%。
さらにコロナ禍で1,500万円を借り入れた際の金利は0.5%以下でした。日銀が長年続けてきた低金利政策が小さな町工場を支えてきたのです。
金融緩和で増加…ゾンビ企業
その一方で金融緩和の弊害ともいえる事態が…
ゾンビ企業と呼ばれる企業が16万社以上にも膨れ上がっているという驚きのデータが7月27日に公表されたのです。
調査を行ったのは帝国データバンク。いま何が起きているのか聞きました。
角谷暁子キャスター
ゾンビ企業とは?

帝国データバンク
情報統括部
上西伴浩部長

借入金を返すのがきつくなるというのを数字で表すもの。
ゾンビ企業とは借入金の利子だけで儲けがなくなってしまう企業のこと。その数は10社に1社の割合になるといいます。
帝国データバンク
情報統括部
上西伴浩部長

リーマンショックの後に一時的にゾンビ企業が増え、それから金融緩和策があって、なんとかぎりぎり回していたところに今度はコロナ。
もともと借りている企業に「また助けますよ」と金(融資)が出たので一応生き残っている。
日銀の低金利政策に加え、政府のコロナ対策が企業の延命措置になっているのです。
先程の町工場、大髙社長も複雑な思いを明かしました。
角谷暁子キャスター
「ゾンビ企業」の影響?

大髙製作所
大髙晃洋社長

安い金額で受ける会社(ゾンビ企業)が出てくる。
金額でしかみない企業もあって相見積もりで安い方(ゾンビ企業)に流れる。
品質を全くみない。良い物であっても売れない。
製造業のものづくりの地盤が沈んでいくことになりかねない。
ゾンビ企業への懸念が高まる中、大髙さんは新たな挑戦を始めました。これまでの下請け仕事だけでなく消費者向けの自社製品の開発に乗り出したのです。
角谷暁子キャスター
新事業を始めるのは覚悟がいる?

大髙製作所
大髙晃洋社長

金銭的にはかなり苦しい。動かないことには沈んでしまう。
こうした中小企業のチャレンジを支える一方、ゾンビ企業への延命措置とも指摘される日銀の低金利政策。
専門家は賃上げの実現のためには金融緩和はむしろ終わらすべきだと指摘します。
東短リサーチ
加藤出社長

アメリカはずっと低金利を続けたのではなく、ゾンビ企業が増えそうになると金融引き締めが行われ整理されるサイクルがあった。
競争力がある企業が残る、結果的に賃上げが伸びていく構図。
黒田総裁が言う超緩和策を粘り強く続けても痛み止め政策として社会が変わらないように維持する政策ではいつまでたっても賃金は上がらない。