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[モーニングサテライト]【Marketリアル】4,000億円運用 奥野氏に聞く![農林中金バリューインベストメンツ株式会社]

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農林中金バリューインベストメンツ株式会社

[blogcard url="https://www.nvic.co.jp/"]

農協や漁協などが出資する金融機関「農林中央金庫」。

農家などの貯金を預かるJAバンクの一員として資金を運用する役目を担っています。

JAバンクの貯金総額およそ100兆円。

国内の個人の預貯金のシェアおよそ10%にあたります。

その農林中金が持つ資産運用小会社の一つが農林中金バリューインベストメンツ。

立ち上げは2014年、運用する投資家のマネーは当初1,400億円規模でしたが、今ではおよそ4,000億円に。

最高投資責任者を務めるのが奥野一成氏です。

いちばん聞きたいのは事業の優先順位。この会社の場合。

いろいろなことをやろうとしているので。

投資にあたり奥野氏が重視しているのが対話です。

投資先との「対話」重視

投資先企業の事業内容を詳しく調べ業績向上のシナリオを示すいわば提案型投資家のパイオニア。

「投資家向けの資料を会社側が作って投資家に送るのが一般的だが?」

仮説を持って、これは正しいのか、どこがどう違うのか。

実質は何なのかを聞かないと分からない。

投資先の企業といかに対話し、どのようにして投資成果につなげているのか。

農林中金バリューインベストメンツの最高投資責任者、奥野一成氏に独自の投資戦略やその哲学について聞きます。

Marketリアル、今回はゲストをお招きしています。農林中金バリューインベストメンツの最高投資責任者、奥野一成さんです。

まずは奥野さんのプロフィールを見ていきます。

1992年、日本長期信用銀行に入行。その後、外資系証券を経て2003年に農林中央金庫に入り、2014年から農林中金バリューインベストメンツの投資運用責任者を務めています。

「この農林中金バリューインベストメンツは奥野さんが立ち上げた社内ベンチャーとうことですが?」

売らなくてもいい会社しか買わないとか、東京証券取引所が5年間閉まっても大丈夫、そういった会社をずっと持ち続けることをやりたいと農林中金の中で提案し、懐の広い銀行なのでこういうことができた。非常に感謝している。

「最初は100億円から始まって、今は4,000億円を運用している?」

本当の意味での長期投資、年金基金や農林中金以外のほかの機関投資家に理解して頂ける人に理解していただいて、そういう方々からお金を預かる形で大きくなっています。

「具体的にファンドはどういったものを構成している?」

戦略でいうと日本株に向かっているものと米を中心としたグローバルに向かっているものを6:4で。でも長期の投資しかやらないという会社です。投資家で申し上げると全員がプロの投資家。この3年くらい前から個人投資家にもプロと全く一緒の投資のやり方をリリースするようになっています。

長期厳選投資ファンド、具体的な中身について見ていきます。

奥野さんの実績がどうかということですが、こちらは奥野さんが運用している日本株の長期厳選ファンドのパフォーマンスです。リターンは2009年を100として見た場合、およそ6倍にまで上昇していてTOPIXのパフォーマンスを大きく上回っています。

そして同じくアメリカ株の長期厳選ファンドはこちらのリターンはS&P500を上回っています。

「この水準をどう自己評価しますか?」

僕たちの投資のやり方は下るときにそんなに下がらずに、上がるときにそこそこついていきます。下方体制を持ちながら上にもついていく。統計的にいうと100下がるときに55ぐらい下がって、100上がるときに90ぐらいついていく。僕たちが持っているポートフォリオ企業の株価特性。

「奥野さんはご自身のお金もファンド入れている?」

自分が投資をしている株のほとんどが自分自身が運用しているファンド。自分が分析をして、自分がそこの企業に行って対話をして、これが一番だと思っているものをなんで自分が投資できない。

「自分が買える株でないとお客様には勧められない?」

当たり前です。

「長期厳選投資」選定戦略と哲学

今回のテーマは「長期厳選投資」選定戦略と哲学。

ポイントは「3つの視点」で対話、事業に「優先順位」、「BtoBデータ支配」がカギということです。

「3つの視点」で対話

まずは1つ目の「3つの視点」で対話。

「投資対象となる企業と投資家の対話というのは重要といわれているが、その銘柄の選び方にどういうふうにつながっている?」

投資家と企業が対話をしましょうというのはこの数年間ずっといわれている話。投資家によっては配当を増やしましょうとか企業価値のパイの切り分けの話をする人が多いが、僕たちがやっている対話は要求とかではなく、パイそのものをどうしたら大きくできるか、企業の経済性について経営者と議論をして、その経済性を深く理解するために対話をするのがわれわれの特徴。

「奥野さんが企業と対話する時には前提となる3つの視点がある。「付加価値」があるか、「参入障壁」を持つか、「長期的な潮流」、この3つの視点は具体的にはどういう意味?」

1つ目の「付加価値」があるかはそれって必要なんですかってこと。例えば投資をしているディズニーでいえば、ディズニーランドがなければデートもできない。絶対に必要ってことです。

2つ目の「参入障壁」、ミッキーマウスの向こうを張って新しく犬のキャラクターを開発して世界中に流布するなんて事実上不可能。3つの中でいちばん重要なのはこれなんです。

3つ目の「長期的な潮流」。これから新興国も含めてミッキーマウスはどんどん流布していくし、Disney+のような配信サービスもまたたく間に1億人の会員数を超えている。人口動態に支えられながら大きな潮流として進んでいくというふうに思っています。

「ディズニー以外に注目している投資先は?」

動物医薬のゾエティス。

ファイザーから2013年にスピンアウトして上場した会社。これからはペット言うと怒られる。家族の一員、どんどんペットの地位が上がっている。実家で飼っていた猫が亡くなりすごく悲しかった。でも隣の家の人から見ると猫。このギャップ、人によってものすごく重要な、いくらでも払ってもいいというものに対し、一般的にはそんなにお金を払わない人もいる。人のお医者さんよりも恐らく獣医の方が効率的に儲かるような構造になっている。これは薬の世界も一緒。人の薬は開発するのに10年以上かかる。動物の薬は5~7年くらいで開発できる。

企業との対話、そして企業への提案を通じて投資成果をあげてきた奥野さんですが、実際の対話はどのようなものなのでしょうか。その現場を取材しました。

今まさに投資先の企業のトップと直接対話が行われています。

経営トップに質問をしているのは最高投資責任者の奥野さんです。

この日、およそ100億円を投資している医療機器メーカー「シスメックス」の経営トップ、家次恒社長とリモート会議が行われていました。

神戸を拠点とするシスメックス、世界中の医療機関に血液や尿などの検体検査の製品やサービスを提供する企業です。

世界シェア50%以上の「ヘマトロジー(血球計数検査)」という強さ。

ヘマトロジーとは赤血球や白血球の数や種類などを検査する検査のこと。シスメックスは世界トップシェアです。

成長加速のためには何が必要なのか。

奥野氏が注目したのはシスメックスがアメリカ企業と組んで展開してきたペット医療の事業です。

人の医療よりもペット医療のほうが拡大余地が大きいのではないか。

どう考えているのか。

アイデックスラボラトリーズと2007年に契約。

OEM(相手先ブランドによる生産)の形でヘマトロジーの機械を納入している。

自社で中国におけるペット用のヘマトロジー事業をやることはないのか。

別の企業を組みとか。

アイデックスとは契約があるから…

情報を収集して報告するので、この分野についてまた議論したい。

さらに手術支援ロボットの分野について質問します。

ずばり業界トップのアメリカメーカー「インテュイティサージカル」と勝負できるのか。

インテュイティサージカルに完全にのされている。

攻めていく場合にどこが死角になっていると考えているか。

川崎重工と組んで去年「ヒノトリ」という手術支援ロボットを市場導入した。

日本は産業用ロボットが強い。世界的に強く、技術の集積がすごくある。

そういう意味では手術支援ロボット、データ事業、ペット、そういう順番になっている。

奥野氏との緊張感ある議論を終えた家次社長の反応は…

「経営トップとして手強い投資家なのか?」

いろいろな情報をもらうことができる。

情報源であるかもしれないし、時には違う切り口でものを言うのでなかなか面白い。

「シスメックスの家次社長、かなり押され気味の印象でしたが、いつもあんなふうに踏み込んで質問を?」

投資先の企業と話しをする時は僕たち独自の見立て、先程の3つの視点に対する見立てを全部持っていってペーパーにして。日本企業でもアメリカ企業でも一緒。同じようにディスカッションしています。

事業に「優先順位」

先程の議論では事業の優先順位を確認していましたが、その点を踏まえて2つ目のポイントです。

「対話の延長線上で事業の見極め、ときには見直しもある?」

ROIC、企業がどえれだけ稼いでいるかという話。ハードルとなる資本コストをちゃんと超えているかというよな話を事業ごとに算出していて議論するようにしている。具体的に議論をしないと参入障壁を持った事業なのか分からない。具体的に議論をするから社長も事業について話してくれる。僕たちは金融屋としてモノが言える。

会社1つとっても4つくらい違うビジネスをやっている。4つ違うビジネスをやっているから4つ資本コストがある。ファイナンスの理論では会社1つで1つの資本コストという考え方が一般的。ここをより深堀りするためにこういうことをやっている。

「ROICを見ながら、優先順位の付け方で国内企業でうまくいっている企業は?」

取捨選択の中でこの事業から撤退するといっているオリンパス、ブリヂストン、資生堂、日立。株価的には評価されるような状態になっている。ちゃんと捨てることができるのかというのはこれから検討が必要。

「M&Aだけでなく、事業売却がちゃんとできるか?」

そうです。経営資源は有限なので、どこに自分の経営資源、人、モノ、金を投入するのか。経営はキャピタルアロケーション。経営者は投資家であるべきというのが私の持論。

「アメリカの企業も聞いていきます。テキサスインスツルメンツ、この会社に注目した理由は?」

世界シェアの18~19%を持っているアナログデバイス。タブレットやスマホに必ずアナログデバイス、アナログチップが入っている。光や音などのアナログ情報をデジタルに転換して、そうするとタブレットなどで0・1で演算される。0・1で演算されたものがもう一回アナログ情報になって返ってくる。それをやっている会社。

それに加えてTI.comという、いわばBtoBにおけるアマゾンのようなツールを使いながらシェアを増やしている会社。

「BtoBデータ支配」がカギ

「『BtoBデータ支配』がポイント。これはどういうこと?」

データをちゃんと集めることのできる優越的な地位を持っていることがデータを上手く使って、それを企業価値に変えることができる。

テキサスインスツルメンツはデータを本当にうまく吸い上げることができる仕組みを持っている。

「企業の買物情報が集まっている?」

そういう状態。

「BtoCの情報を集めるGAFAのような企業は?」

我々はコーシャスに構えている。個人情報は無料ではないという議論が世界中に巻き起こっていて、全部を支配するのはけしからんという話になっている。これはリスク。

「GAFAは買わない?」

買わなくて失敗した。ここから入っていく話ではない。

「長期厳選投資という意味で長期でずっと持つ銘柄を決めるのはどのくらいの時間をかけて選ぶ?」

最低でも2~3年。

「2~3年待つと買うタイミングを逃さない?」

それでよく怒られる。買わなくて失敗することも多いが、買って失敗すると致命的。常に慎重に考えている。

「株価チャートの短期的な動きは気にしない?」

企業があげる利益が積み上がっていくということが一番重要。株価は所詮利益の影。影を追いかけても仕方がない。

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