白血病などの血液のがんに効果が期待される全く新しいタイプの薬、キムリアの保険適応が5月22日から始まりました。スイスの大手製薬会社、ノバルティスファーマが作った薬で日本での価格は過去最高の3,300万円です。新しい薬が登場することは患者にとっては希望の光となりますが、なぜ薬がここまで高額になるのでしょうか。
取材を進めるとブラックボックスともいえる価格決定の実態が浮き彫りになってきました。
ノバルティスファーマ株式会社
[blogcard url="https://www.novartis.co.jp/"]
5歳で急性白血病を患ったエミリーちゃん。抗がん剤などあらゆる治療法を試しましたが病気は治りませんでした。
しかし、それから5年。
投与から5年がたったが白血球などすべての値が完璧。おめでとう。よく頑張ったね。
エミリーちゃんの命を救ったのが新薬「キムリア」でした。
彼女は特に重い白血病でどの治療も効果がなかった。
この治療を試したところ回復した。それから5年、再発していない。
これは革新的なこと。
12歳になったエミリーちゃん。
小さいころ白血病になり、どの治療でもダメだったがこの薬が治してくれた。
諦めなくてよかった。
キムリア
キムリアはこれまでの白血病治療とは仕組みが大きく異なります。
まず患者の血液からT細胞という免疫細胞を取り出します。
これを遺伝子操作の技術を使い、がんへの攻撃力を高めたCAR-T細胞へとパワーアップさせます。
そのCAR-T細胞を再び患者の体内に戻し、がん細胞を攻撃します。
キムリアは患者本人の免疫細胞を元に1人1人に合わせてオーダーメイドする全く新しいタイプの薬です。
今井千速准教授
このキムリア、実はある日本人医師が研究開発に大きく関わっていました。
新潟大学の今井千速准教授。
2002年頃、留学先のアメリカの大学病院でCAR-T細胞を使った治療法の基礎研究に携わりました。
18~19年後に実際の患者を救うことができる端緒となるとは夢にも見ていなかった。
キムリアが日本で使えるようになったことは本当に心から喜ばしい。
今井さんはT細胞にがん細胞を長期間に渡って攻撃する持久力を持たせることに成功。その技術は別の大学で臨床開発がされた後、ノバルティスファーマが採用しました。
日本では早ければ年内にも患者への投与が行われるキムリア。今後、年齢や病気にかかわらず応用が期待されます。
白血病以外の小児がんにも対応できるようにするのが一番の目標。
10~15年後に実現できるよう、世界でみんなが頑張っている。
患者にとってはまさに奇跡の薬ともいえるキムリア。
しかし、
最初にノバルティスの金額を聞いたときはびっくりした。
オーダーメード治療で値段が高くなることは想像できるが、どういう形でどんな金がいくらという積算の仕方をしているか想像がつかない。
価格決定はブラックボックス!?
先週、厚生労働省で開かれた会議。
ここでキムリアは国内の保険適応で最も高額な3,300万円に決まりました。
この価格、どのように決まったのでしょうか?
キムリアのような革新的な新薬の場合、価格は薬の製造や開発などにかかる費用の合計から決まります。
キムリアの場合、ノバルティスファーマは自己申告した製造費や開発費などが入る製品総原価といわれるものが2,300万円。そこに会社に利益、流通コストや消費税が加わります。
費用の大半を占める製品総原価。ここにある問題があります。
厚労省の会議では参加者からこんな意見が出されました。
2,300万円の製品総原価のうち半分が分からない。まるでブラックボックス。
実はキムリアを作ったノバルティスファーマは製品総原価の詳細な内訳をほとんど明かしていないのです。開示度は最低ランクの50%未満。
会議でブラックボックスだと指摘した幸野庄司さん。
開示していないにもかかわらず企業の言い値をそのまま薬価に反映させている。
開示されないとその医薬品の価格が適正かどうか誰も判断できない。
企業しか知らないことになる。薬価が妥当か、その内訳を開示されないと。
厚労省さえ分からないし、国民はもっと分からない。
開示度が低いのはキムリアだけではありません。この1年で保険適応となった革新的な新薬は15種類。そのうち実に9種類がキムリアと同じ50%未満の開示度でした。
なぜ製薬会社はその詳細を明らかにしないのか…
今回、WBSは開示度が低かった製薬会社、8社へ緊急アンケートを行いました。
ファイザー、
競合上の理由および会社の方針によりコメントできません。
サノフィ、
海外での製造原価は他企業との提携もあり伝票で開示することは実質的に不可能。
ノバルティスファーマは、
開示できるデータはできる限り開示しました。
根拠が曖昧なまま算出される薬の価格。厚労省は、
日本に輸入される際の価格が日本以外の国が輸入する際の価格と比較して大きな差異がないことを確認して適切に薬価が算定できるようにしている。
根本大臣は薬価の仕組みに問題はないとの認識を示しました。
日本の医療保険制度では3,300万円のキムリアも患者の自己負担は上限が決められているため数十万円程度。残りはすべて公的医療保険が負担します。
今後も高額な薬が開発され、国の財政の負担がますます大きなることが懸念されています。
麻生財務大臣、
キムリアのような薬が出てくるのはいいことだと思うが、その結果、医療費が増額することになる。国民皆保険制度の存立が脅かさせる。