黒い瓶に入ったお酒ですが、よく見ると「NANBU BIJIN」と書いています。実は今から119年前、明治35年に創業した岩手県の老舗酒造「南部美人」が今年8月に発売した蒸留酒「ジン」です。
一方、八海山で知られる八海醸造のグループ会社は7月27日にジンなどを造る新たな蒸留所をお披露目しました。
いま酒造メーカーなどによるクラフトジン市場への参入が相次いでいます。一体なぜなのでしょうか。
株式会社ニセコ蒸溜所
[blogcard url="https://niseko-distillery.com/"]
千代田区のジン専門店「グローバル ジン ギャラリー」。
世界から集めた120種類以上のジンが並びます。コロナ禍で訪日外国人の土産需要や飲食店向けの需要は落ち込んだといいますが、一方で…
グローバル ジン ギャラリーの髙山憲吾代表。
売り上げはそこまで落ちていない。
コロナ前に比べ1割から2割、売り上げが伸びる月も結構ある。
バーがやっていないのでここで買って自宅で飲まれる方がかなり増えた。
自宅で飲む人に最近人気なのが国産のジン。
日高昆布を漬け込んだ北海道産のジン「9148(紅櫻蒸溜所)」など日本の食材を生かしたユニークな商品が増えたといいます。
しかし、なぜ自宅飲みで人が選ばれるのでしょう。
飲み方がいろいろ。ロックで飲んでもストレートで飲んでも。
僕は家でトニックウォーターで割ってジントニックとして飲みますが、作るのが簡単。
かんきつ類などの相性もよく、インスタ映えするなど女性人気も高まっています。
ジンの需要が高まる中、新規参入する企業が相次いでいます。
ニセコ蒸溜所の広報、浜崎こずえさん。
2019年に設立したニセコ蒸溜所が10月1日にグランドオープンする。
10月1日にオープンする蒸溜所。
実は日本酒「八海山」で知られる八海醸造のグループ会社です。
消費者のニーズの多様化に応えるためウイスキーの蒸溜所として造られましたが…
オープンに合わせて発売するのはジン「オホロ ジン」。なぜウイスキーに先駆けてジンを販売するのでしょうか。
ウイスキーはどんなに短くても3年寝かせないといけない。
その期間も酒を有効に使っていきたいという思いからジンを作っている。
実はジンは熟成させる必要がないためウイスキーが熟成するまでの間、短期間で製造し、販売することができるといいます。
さらにジンを選ぶもう一つの理由が…
使うボタニカル(ハーブやスパイス)によって地域の特製をすごく出せることも良いと思っている。
人は蒸留酒に必ず「ジュニパーベリー」というスパイスを加える必要があるだけで、あとは何を加えても自由。
そのため地域の特色が出しやすくクラフトジンを作りやすいといいます。
新商品ではニセコに自生するハーブ「ヤチヤナギ」と北海道の名産品「ニホンハッカ」を加えて北海道らしいクラフトジンに仕上げました。
ニセコ町の花がラベンダーなので地元の高校生が育てたラベンダーで作ったり、どんどん地域性を出していきたい。
軌道に乗りだんだん作れるようになれば海外にも輸出していきたいと思う。
実は世界的にもジンの市場は成長していて2027年には去年の1.4倍近くの1兆4,000億円まで拡大するという調査もあります。
またクラフトジンへの参入を決めた栃木県の老舗酒造メーカー「西堀酒造」はある事情が決断を後押ししたといいます。
このメーカーでは10月から3月に日本酒を醸造しているため従業員の夏の雇用が課題。
またコロナにより売り上げが2割から3割減ったのです。
西堀酒造の西堀哲也取締役。
コロナによる打撃、国の事業再構築補助金をひとつのタイミングとして。
最も大きかったのが国の事業再構築のための補助金。
コロナで売り上げが減少した企業の業態転換などを支援する制度で、今回この補助金を使って蒸留設備を整える計画です。
ここ(補助金)を活用するかしないかが分かれ道になるのでは。
一方、よなよなエールなどで知られるクラフトビールのヤッホーブルーイングは去年から意外な理由でクラフトジン作りを始めました。
使うのは山と積まれたビール樽。新型コロナを受けた営業制限で直営のレストランに出荷できなくなったものです。
ヤッホーブルーイングのクラフトジン事業責任者、山崎紗也加さん。
カレーの食材として使うとか何かできないか模索したが、料理に使うと少ししか利用できない。
大量の余剰ビールを生かすとなるとクラフトジンが向いていた。
長野県の老舗酒造「戸塚酒造」がそば焼酎を作る時に使う蒸留器で6,000リットルのビールを蒸留。アルコール濃度を高めた基本となるベーススピリッツを作ります。
これにハーブなどを加えるとビールがジンに生まれ変わるのです。
かんきつ系の香りや草っぽいグラッシーな香り。
モルト(麦芽)の柔らかさも出てビールを感じる味わい。
独自の味や香りを作ることができるクラフトジン。今後も参入する企業や酒蔵が出てきそうです。