大浜見聞録です。
今回は船の無人運行、自動車の無人運転はよく話題になりますが、実は船の世界でも船員の高齢化や人手不足などを背景にして無人運行を実用化しようという動きが起きています。
実際に企業や自治体による実証運転が始まっています。
そうした中で世界に先駆けた新たな技術も生まれようとしています。各社の挑戦を追いました。
公益財団法人日本財団
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神奈川県横須賀市の三笠桟橋。
こちらの小型旅客船「Sea Friend Zero」を使って無人運行の実証実験が始まろうとしていました。
実証実験を行うのは丸紅など3社。そして地元の横須賀市も協力しています。
こちらは陸との距離を測るセンサー。
そして周囲の状況を確認する3台のカメラ。
さらに衛星システムで船がどの位置にあるか把握します。
目的地は三笠桟橋から1.7キロメートル離れた猿島です。
出港直前の運行室では…
レバーがひとりで動いています。
微調整しているのが分かります。
スピード調整を自動で行いながら船が出港。
船は右に曲がっていますが、船長は手を動かしていません。
実証実験を繰り返すことでさまざまな航行データをAI(人工知能)に蓄積させています。
三井E&S造船の村田航さん。
コンピューターに風やエンジンの回転数、舵の情報を全て取り込んで、コースに沿って動かすには舵をどう切るか演算して指令をどんどん送っている。
およそ10分後、猿島に到着しました。
開発要素は多く残っている。
ファーストステップとしてはいいところまで来ている。
船の無人運行を目指す、その背景にあるのは船員の人手不足と高齢化です。
国内の内航船の船員は2万8,000人あまり、その内の半数近くを50歳以上が占めている状況です。
こうした中、大きく動いたのが公益財団法人の日本財団。
無人運行を目指す国内の5つの事業体に対して総額34億円の助成金を決めたのです。
日本財団の試算では2040年までには年間およそ1兆円の経済効果が期待できるとしています。
笹川陽平会長に話を聞きました。
「こういうきっかけがなければ特に若い人たちが海の分野が最先端の技術を活かせる舞台になるという意識を持てなかったのでは?」
大きな可能性があるマーケットに気付いてこなかった。
日本の造船業は日本の復興に大きな役割を果たしたが、"人減らし"の合理化の産業であって付加価値を得た革新的な船を造ってきたという歴史は存在しなし。
今がチャンス。
「今なら世界にも勝てる?」
まだ勝てます。
船の無人運行に向け新たな技術も生まれようとしています。
海運や造船など国内30社が参加するDFFASプロジェクト。来年の2月にかつてない大掛かりな実証実験に臨もうとしています。
内航コンテナ船の「すざく」を使った無人運行にチャレンジ使用というのものです。
全長およそ94.7メートルのすざくに専用のシステムを持ち込み、東京湾から伊勢湾までおよそ385キロの距離を無人で運行する計画です。
1日400隻以上の船の往来がある"浦賀水道"を通過する予定。非常に難易度の高いルートとなっています。
日本無線の担当者。
「日本無線株式会社」と言いまして無線関係とかマリン・海洋関係、システムソリューションをメインにしている。
EIZOの担当者。
私たちが準備しているのは船の監視映像を陸に送るという作業。
ウィザーニューズの担当者。
気象情報を提供して航路を最適に選ぶということを協力している。
こちらは主に船との通信を担当するチーム。NTTグループやスカパーJSATなどが参加しています。
そして施設内にはこんな設備も。
曲がり始めました。
非常時に船を遠隔で操るシステムです。常に予期せぬことが起こりうる海の上、特に注意が必要なのが障害物との衝突です。
日本海洋科学の運行技術グループ、桑原悟さん。
技術的にはかなり進んできているが周囲の状況、例えば浮遊物や海洋生物、どこに動いているか把握しないとそれをよけえることもできない。
"把握をする"ところに難しさがある。
周囲を把握するその精度を上げるためすざくにはミリ波レーダーという新しい技術が積まれる予定です。
ミリ波レーダーの開発を手掛ける古野電気の実験船「ペガサス」。
この丸い物体が開発中のミリ波レーダーです。
船内のモニターには周囲の様子を捉えた映像が映し出されていました。
古野電気の自律運行システム開発部、大浩司さん。
通常の航海用レーダーだと小さい漂流物を検知しにくいことがあるが、ミリ波レーダーは小さい物標でもより高い周波数の電波を発射することで精密に自船の周囲を検知して捉えられる。
通常のレーダーと比較してみると確かにミリ波レーダーの方が細かく捉えているのが分かります。
写真と比べてみてもご覧の通りです。
しかしミリ波レーダーにも弱点があります。通常のレーダーの場合、100メートル先まで検知できるのに対し、5メートルの範囲しか検知できないのです。
各センサーに苦手な部分がありますので、苦手な部分を色々なセンサーを使うことによって補う。
100パーセント検知を目指す、そこが一番の課題で難しいところ。
船舶用機器市場で世界シェアトップの古野電気。レーダーのシェアは40%を誇りますが、無人運行の分野でも世界に先駆けた技術開発を目指します。
古野電気の上席執行役員、矮松一磨さん。
日本のひとつの強みとして航海機器だけでなく、舶用機器の世界トップレベルの会社がたくさんある。
自律航行船にしても我々の会社一社でこれが実現できるわけではない。
日本のトップレベルのメーカーと協調しながら進めることで必ず世界に先駆ける自律航行船ができるのではないか。