お酒と煙草が主な原因といわれる食道がんの検査と治療について、その新たな選択肢を取材しました。
国立がん研究センター東病院
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千葉県にある国立がん研究センター東病院。
この日、検査に訪れた70歳の岡田たか子さん(仮名)。
去年、食道がんの治療を受けてから毎月検査を続けています。岡田たか子さんが受けるのは最新の内視鏡検査です。
検査に使うのがNBI内視鏡。先端から緑と青の光が交互に出ます。
がんが出来ると栄養を補給するために細い血管を作ります。NBI内視鏡の特殊な光を当てると血液の流れが茶色く映し出され血管が見つけやすくなります。
がんが作る細い血管の集まりを見つけ出し目に見えない早期のがんの発見につながります。
ある患者の検査画像では血管が集まったがんが茶色く映し出されています。これまでの内視鏡では発見できませんでした。
果たして岡田たか子さんは?
食道、きれいですから。
幸い、がんは見つかりませんでした。
食道がん
食道がんの患者数は約3万人。40代後半から急増します。
主な原因は飲酒や喫煙。舌を火傷するような熱い食べ物や飲み物も要注意です。
進行すると喉がつかえたり、声がかすれたりします。
国立がん研究センター東病院の消化管内視鏡科、矢野友規科長は、
食道がんは早く進行する病気。症状が出たときには進行していることが多い。
気が付かないうちに進行する恐ろしい食道がん。その治療の最前線を追いました。
陽子線治療
68歳の金森道郎さん。2016年11月に食道がんが見つかりました。
ほとんど症状がないまま、がんが進行していました。
先生に酒とタバコが原因だと言われた。結構長い間、むちゃをしていた。
金森道郎さんが受けるのは陽子線と呼ばれる放射線を使う、最先端の陽子線治療です。
まず装置を回転させ陽子線の照射位置が食道の上に来るようにセットします。
治療室の隣にはサイクロトロンと呼ばれる直径4メートルほどの巨大な装置があります。このサイクロトロンで陽子と呼ばれる粒子を1秒間に地球を5周するほどの速さまで加速させます。すると陽子線という特殊な放射線に変化します。
陽子線はがんがあるところでエネルギーが最大になる性質があるため、がんをピンポイントで治療することができます。
これまでの放射線治療に使われてきたX線は体の奥に行くほどエネルギーが弱くなるため陽子線より治療効果が低かった。
いよいよ金森道郎さんの陽子線治療が始まります。
1回の照射時間は約1分。これを1日1回、6週間ほど続けます。
この治療は保険が適応されないため費用は全額自己負担で約288万円です。
陽子線治療を受けた別の患者の検査画像では食道がんがきれいに消えています。
国立がん研究センター東病院の放射線治療科、秋元哲夫科長は、
がんにはしっかり当たる。心臓とか肺には放射線の影響を低く抑えられる。
PDT(光線力学療法)
放射線で治しきれなかった食道がんに有効な新しい治療も登場しています。
73歳の飯田良夫さん(仮名)は、2年前に放射線治療を受けましたが、食道に3ヶ所あったがんは治りませんでした。
そこで光と薬でがんを治すPDT(光線力学療法)を続けています。
まず特殊な薬を注射します。薬を投与して4時間、内視鏡を使った治療が始まります。
内視鏡の中に入れているのは光ファイバーです。光ファイバーを通してレーザーを照射します。
4時間前に注射した特殊な薬は食道がんにあつまる性質があります。その薬にレーザーを当てると化学反応を起こし活性酸素が発生します。この活性酸素ががん細胞を死滅させます。
がん全体に繰り返しレーザーを照射します。
1時間ほどで治療は終了しました。
治療費は保険が適応され約36万円(3割負担)。
10日ほど入院が必要です。
食事するとき、ちょっと痛みがある。今回の治療自体で苦しいとか、そういうのはない。
飯田良夫さんの検査画像、治療を始めて2ヶ月後、3つのがんのうち、1つがきれいに消えました。
国立がん研究センター東病院の消化管内視鏡科、矢野友規科長は、
食道の中だけで転移、再発、治りきらなかった人にPDTを行っている。高齢者とか体の具合の悪い方は放射線治療や手術が難しい。手術以外の治療方法を考えなくてはいけない。
新しい技術が登場している食道がんの治療。病を克服するための選択肢が広がり始めた。