
4月13日に円相場は一時126円台をつけておよそ20年ぶりの円安相場になりました。この急激な円安の進行によって飲食業界や旅行業界、そして小売業など幅広い業種の企業に動揺が広がっています。なぜここまで円安が進んだのか、そして私たちの生活には今後どのような影響が出る可能性があるのか取材しました。
20年ぶりの円安 126円台!どこまで進む? きっかけは?
記者
円安水準について受け止めと対応は?

岸田総理

為替の水準は私の立場からは申し上げない。それが常識だと思う。
一方…
記者
20年ぶりの円安水準だが?

日本銀行
黒田総裁

……
総理官邸で行われた会議から無言で立ち去ったのは日銀の黒田総裁。
その3時間前には…
日本銀行
黒田総裁

強力な金融緩和を粘り強く続けることで感染症から回復途上にある経済活動をしっかりと支え、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を目指す。
金融機関が集まる会合で大規模な金融緩和を続けると改めて強調。
この発言にすぐさま市場が反応しました。
加納康祥記者

きょう為替相場が急激に動きました。およそ20年ぶりに1ドル126円を突破しました。
円相場は今朝から1ドル125円台半ばで推移していましたが、黒田総裁の発言を受け一気に円安が進行。一時126円31銭を付け、2002年5月以来およそ20年ぶりの円安水準となりました。
なぜ一気に円安が進んだのか。背景にあるのは日米の金融政策の違いです。
アメリカは物価の上昇を抑えるため市場に出回っているお金の量を減らそうと金利を上げる政策を加速させています。一方、日本では黒田総裁が金融緩和を続け金利を低いまま抑え続ける姿勢を改めて示しました。
これによって投資家の間で円よりも利回りが期待できるドルを買う動きが加速し、円安につながったのです。
マネーパートナーズ
武市佳史投資情報室長

今、円を買う人はほとんどいない。
アメリカは金利が上昇しやすい、日本は金利は上がらない状況なので、円を売る人はいても、なかなか円を買う人はいない。
20年ぶりの円安水準に政府は…
鈴木財務大臣

急激な変化は大変問題である。
緊張感をもって為替の動向を注視していく。
松野官房長官

政府としては最近の円安の進行を含め、為替市場の動向や日本経済への影響をしっかりと緊張感をもって注視していく。
サイゼ 吉野家…動揺広がる!歴史的円安で「トリプルショック」
企業にも動揺が広がりました。
都内のワイン販売店「ヴィノスやまざき有楽町店」を訪ねました。
この店では常時500種類のワインを揃えていて、売れ筋はアメリカ・カリフォルニア産のワイン「ヴィノスセレクション グルナッシュ ソノマ・ヴァレー2017」です。
番組スタッフ
126円突破の受け止めは?

ヴィノスやまざき有楽町店
保坂清仁部長

朝の段階では125円中盤で推移していたので本日中に126円までいくとは驚きを隠し得ない。
原油高による輸送コスト上昇と産地の悪天候による不作に加え、円安は外国産ワインにとってはまさにトリプルパンチとなります。
ヴィノスやまざき有楽町店
保坂清仁部長

私どもとしては価格を抑えておいしいワインをお客様に届けたいが、一部商品に対して価格に転嫁していかないといけない。
来月、180種類ほどのワインを10%程度値上げする予定です。
ワインの愛好家は…
ワイン愛好家

価格転嫁。そこにはねてくると他のものにしようかと。
ワイン愛好家

情勢的に仕方がないのかなと思いながら生活には響く、悲しい。
さらに旅行業界でも…
渋谷にある海外旅行の代理店「令和トラベル」。コロナ後の旅行需要の回復を狙い、去年創業したばかりのベンチャー企業です。
夏休みに向け、満を持して4月12日に発表したのが…
令和トラベル
受田宏基執行役員

ハワイの目玉ツアーで4泊6日の7万9,800円の商品になります。
ホテルや航空券込みで8万円を切る格安のハワイツアー。実はこの価格、1ドル122円を想定して設定しました。
まだ販売開始前ですが、すでに発表してしまったことから価格は変更しない予定です。
令和トラベル
受田宏基執行役員

旅行業自体は旅行日ベースでホテルや航空会社に支払う。
このまま円安が続くとその損失を被る形になる。
輸入食材を多く使う外食チェーンのトップは…
記者
126円を突破、どう受け止めているか?

サイゼリヤ
堀埜一成社長

どう思いますかと言われても答えようがない。昔に戻ったなと。
円安は全ての輸入品に効いてくる。これも最悪の一つ。
低価格を売りにするサイゼリヤ、一部のメニューで国産化を進めるなど円安でも企業努力で価格を維持する方針です。
会見では黒田総裁を名指しする場面も…
サイゼリヤ
堀埜一成社長

円高になる要素がみえない。しばらく続くだろう。
黒田さんが代わらない限り円安は変わらない。
またアメリカとカナダからの輸入牛肉を使っている吉野家も…
吉野家ホールディングス
河村泰貴社長

過度に進んだ円安は歓迎しない。
原材料価格、原油価格が高騰、マーケットの回復も道半ば。
トリプルショック。
20年前の"円安ニッポン"!ハンバーガーは59円
20年ぶりとなる今回の円安。
今から20年前の2002年といえば小泉総理が電撃訪朝で初の日朝首脳会談を実現させた年。拉致被害者の5人が24年ぶりに帰国し、家族との再開を果たしました。
またアジアで初のサッカーワールドカップが開催されたのもこの年で連日の熱戦に日本中が湧きました。
この頃、人々が手にしていたのは今ではガラパゴス携帯と呼ばれている二つ折りのタイプ。ドコモが発表した新機種にはまだカメラは付いていませんでした。
そして小売や外食業界で繰り広げられたのは熾烈な価格競争でした。
マクドナルドのハンバーガーはなんと59円まで値下がり。
この値下げ競争が仇となったのか日本マクドナルドは初めて赤字に転落。
そして前の年に米国で起きたITバブル崩壊の影響は日本にも。日経平均株価は下落を続け、10月には8,000円台に。
1月には1ドル135円を付けていたドル円相場も株価の下落に引きずられる形で急激に円高方向へと進み始めました。
なぜ?日銀の"円安容認"!背景に政府の事情も?
その後、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災の影響でさらに円高は進み、一時1ドル75円台を付けました。
この流れが変わったのは2013年、日銀が当時就任したばかりの黒田総裁のもと異次元の金融緩和を開始。金利が大きく下がり、市場に大量の資金が供給されたことでみるみる円安が進みました。そしてついに20年前の水準まで戻ったのです。
ただこれまで輸出の比率が高い企業にはプラスとされてきた円安ですが、現在のように世界的に物価が上がっている中では輸入コストの急激な増加につながります。そのため日本経済にとっては悪い円安になるとの意見が強まっているのです。
それにもかかわらず日銀はなぜ円安を容認し続けるのか…
日銀に詳しい専門家に聞きました。
佐々木明子キャスター
日銀は円安を放置するのか?

日銀ウオッチャー
東短リサーチ
加藤出さん

日銀としては「悪い円安」論は絶対に認めない。
それを認めてしまうとこの9年の政策の否定となってしまう。
黒田総裁はこの金融緩和を続けながらできれば来年4月8日の退任まで政策を変えずに逃げ切りたい。
そもそも日銀は金融緩和を通じて賃金が上昇し、それに伴って物価が上昇することを期待していました。しかし、実際には賃金は上がらず、物価も目標に達していません。
さらに政府にも日銀の低金利政策をストップできない理由が…
コロナ禍で国債、いわゆる国の借金が膨れ上がっているため金利が上がるとその返済額が増えてしまうのです。
日銀ウオッチャー
東短リサーチ
加藤出さん

政府は当面は日銀に金融緩和をしてもらい金利を上げさせない。
円安で苦しむ企業・個人には補助金で対応するというのが政府・日銀の合意。
果たしてそういう手法で円安の荒波にいつまで耐えられるか非常に気になる。
佐々木明子キャスター
どこまで円安が進むか?

日銀ウオッチャー
東短リサーチ
加藤出さん

アメリカのインフレが収まらないと日米の金利差が開きやすいから1ドル130円が見えてくる可能性もある。