ガイアの夜明け ビジネス関連

[ガイアの夜明け] リオで勝つ!~スポーツメーカー水面下の攻防~(2)

2016年7月14日

リオで勝つ!~スポーツメーカー水面下の攻防~

美津濃株式会社

[blogcard url="http://www.mizuno.jp/"]

大阪にあるミズノの本社。

オフィスでラケットを振るのは三宅達也さん(28歳)。バトミントンの担当です。

大学まで選手として活躍していた三宅達也さん。その経験を生かそうと2011年にミズノに入社。

選手にしか分からない感覚を噛み砕いて開発にフィードバックしてラケットに反映させる役割。

奥原希望選手

2015年12月、茨城県利根町にある体育館で子供たちの熱い視線の先にいたのは奥原希望選手。

この日行われたのは奥原希望選手が子供たちにバトミントンを教えるイベントです。

そこに三宅達也さんの姿もありました。

実はミズノは2015年10月に奥原希望選手と契約したばかり、リオ五輪に向けて奥原希望選手専用のラケットの開発を急いでいました。

事前に奥原希望選手に渡していた試作のラケット。三宅達也さん、その感想を聞きに来たのです。

「板」っていう感じ。しならない。キャッチしてくれない。もうちょっと欲しい「キャッチ感」が。

奥原希望選手がこだわっているのはシャトルと呼ばれる羽をキャッチする感覚。それは彼女のプレイスタイルに関係しています。フットワークとレシーブで粘るのが特徴。それだけにラケットのしなり具合やシャトルをキャッチするような感覚を大事にしていました。

何をしたら、その選手の感覚になるのか。こっちが解釈して、提案して、それが正解かも分からないので、悩みながら次の試作をあげられるように頑張ります。

苦い思い出

三宅達也さんには苦い出来事がありました。見せてくれたのは2015年12月、奥原希望選手がミズノと契約した直後の全日本総合選手権の写真です。

こラケットは?

アディダス。

この大会、1回戦ではミズノのラケットを使った奥原希望選手。しかし2回戦からは以前使っていたアディダスのものに切り替え優勝しました。

「大事な試合なので今ベストでいけるラケットでやらせてください。」と、ミズノの商品を奥原選手が使っていいものだとアピールする仕事なのに、逆に契約をしているのにアディダスを使っているとマイナスイメージにもなりかねない状況。すごく焦った。

三宅達也さん、オリンピックまで時間がありません。早速ラケットをバージョンアップしようと開発担当者が集まりました。

キャッチする感覚をもうちょっと欲しいとか、やわらかさがほしいというニュアンスの言葉。そのやわらかさは「ヘッドが効く」ということだと思う。

三宅達也さんが奥原希望選手の感覚を噛み砕いて伝える相手、それがラケットの開発担当者の樋口直矢さん(34歳)です。

ラケット全体の「しなり方」はアディダスよりやわらかくしようと、グリップの長さが全部200ミリ以下になっている。

奥原希望選手が以前使っていたアディダスのラケットを分析。ミズノのものと比較してみました。求められたキャッチ感を出そうと試行錯誤を重ねます。

ミズノテクニクス

岐阜県養老町のミズノテクニクス。

ここは軽くて強い素材カーボンファイバー(炭素繊維)の加工工場です。

カーボンをそろえて1枚のシートにしたもの。

ミズノはこのカーボンを使って長年ゴルフクラブなどを作ってきました。その加工技術には定評があり、Gショックのベルトや燃料電池車「ミライ」の高圧水素タンクにも採用されています。

バトミントンラケットの製造では後発メーカーのミズノ。しかし得意とするカーボン技術で巻き返しを図ります。

カーボン技術に関してはノウハウをたくさん持っているので、それを生かして奥原選手からもらった課題を解決していく。間違いなく他者に負けないラケットができる。

新しいラケットが出来上がってきました。

樋口直矢さん、それをある装置に取り付けます。まずはラケットを水平にして回転のしやすさを計測。続いて垂直にして測ります。

ヘッドの重さが回転に影響するため、0.1グラム単位でシリコンを注入。微妙なバランスを調節します。

そしてフレームやシャフト、グリップの組み合わせを変え8種類のラケットを作りました。

満を持して奥原希望選手に新型のラケットを渡します。

しかし、

これダメ。

まさかのダメだし…

新型のラケット

1月20日、東京・大田区。

ミズノの三宅達也さんが大阪からやって来ました。バトミントンの奥原希望選手に新しいラケットを手渡すためです。

シャトルをキャッチする感覚が欲しいということに対して、ミズノの見解として「こうだろう」を詰め込んだ。新しいモデルを作った。

ミズノが今回用意したラケットは8種類。奥原希望選手、その場で次々に振って感触を確かめていきます。

これダメ。

瞬時に善し悪しを判断していきます。

この2つかな。

選んだのは2つのタイプ。試合で使ってみるといいます。

力が入らない時でも、ラケットが走ってくれたら生きた球がいってくれるので、そういうところは道具の力をどんどん使っていきたい。

日本リーグ

3週間後、国立代々木競技場。

この日はバトミントンの日本リーグ。奥原希望選手も出場します。

渡してあったラケットのうち、1本を手に取り試合に臨みます。

危なげない戦いでストレート勝ちした奥原希望選手。

試合を終えてやって来たのは、三宅達也さんの待つミズノのブースです。

安心しました。

安心してください。

早速、実践で使った感想を聞きます。

だいぶ自分のコントロールにもしっくりくるようになってきた。70点くらい。

厳しく聞こえますが奥原希望選手にとって合格点は80点。三宅達也さん、大きな前進です。

本当の合格点まではいっていないが、要望がネガティブではなくなってきているので、そこに関しては安心している。

改良型ラケット

4月20日、東京・江東区。

三宅達也さんが新たなラケットを持ってやってきました。

2ヶ月前に70点の評価をもらったラケット。それをさらに改良したのです。今度は合格点が貰えるのか?

デザインは青色。「奥原モデル」として準備したのでフィーリングを確かめてもらって。

ちょっと打ってみます。

早速練習で使います。

しかし、すぐに打つのを止めてしまいました。以前の黄色いラケットを手に取り、交互に素振りを始めます。そして新たしいラケットは置かれたままに…

理由を聞こうと三宅達也さんが近づくと

ダメですね。硬い。ここの「ひねり」が全然いかないから。

確かに硬さを感じるかも。

奥原希望選手、今回の青いラケットではシャフトのひねりに違和感を覚えているようです。

60~65点くらいですね。今回のラケットだと、ちょっと前回の黄色を使いたい感じになる。

2ヶ月掛けて改良した新たなラケット。しかし評価は下がってしまいました。

オリンピック本番は迫っています。三宅達也さん、どうするのか…

ショックでしかない。期間が近づいているので焦りも当然あるし…分かんねー。

ラケット作りのやり直し

ミズノ大阪本社、奥原希望選手にダメ出しされたラケット。

三宅達也さん、改善するために会議を行います。

待っていたのはラケット開発担当の樋口直矢さん。ある決断をしていました。

この部分を動きにくくして、これが今の設計ですが変えてみようかなと。

評価が70点から65点に下がったことで設計から見直そうというのです。

樋口直矢さんが向かったのはカーボン工場のミズノテクニクス。

ラケットに使うシート状にしたカーボンファイバー。2種類あります。1つは繊維の筋が縦、もう1つは斜めに入っています。

繊維が縦のものは縦の力には強いものの横からの力に弱いのが特徴。一方、斜めの繊維は縦と横、どちらからの力にも適度に強いものです。この2つを混ぜて使います。

今回、その配分を大きく見直しました。

まずは棒状に巻き、それをラケットの型にはめていきます。そして150度で15分間加熱するとカーボンが固まります。

果たして、どこが変わったのか?

ラケットの四隅を硬くすることで、中心から外して打った時にラケットが動かない代わりにシャフトの「ひねり」が起きやすくした。

フレームの四隅を硬くすることでシャフトのひねりを感じやすくするという新しいラケット。

計測器を使って分析します。

果たして、奥原希望選手が求める「ひねり」は感じられるのか。

出来栄えが気になる三宅達也さんもやって来ていました。彼もバトミントン選手。

どんな感じ?

これでいけると思います。

オリンピック日本代表の反応は?

全日本実業団バトミントン選手権

7月初旬、福井県勝山市。

奥原希望選手にとってオリンピック前、最後となる大会です。

「ひねり」を改良したラケットを使います。

スタンドには三宅達也さんの姿もあります。

奥原希望選手、出場した全ての試合でストレート勝ちしました。

三宅達也さん、奥原希望選手に声を掛けます。

「改善して欲しい」ところを新しく提案させてもらったが要望に応えられているかどうか。

最初よりはるかにいいし、下からもコントロールできるようになっている。ラケットでこんなに違うんだと、びっくりするくらい違いを感じる。

良かったです。

エスポートミズノ

東京・千代田区にあるミズノの旗艦店。

早朝、三宅達也さんの姿がありました。

この日、ある商品が発売されます。「奥原希望」限定モデルのラケット。1本1万8,000円です。

奥原選手の調子は?

オリンピックで勝ってくれると信じています。

選手とともに開発したものを商品化につなげる。スポーツメーカーにとって一番の目的です。

こうやって奥原選手のモデルとして発売されることで、やっと奥原選手がミズノの顔になったという実感が湧いている。お客様に手に取ってもらって体感してもらえたらと。

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