株式会社ミネルバ
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東京・品川区の老舗家具メーカー「ミネルバ」。
創業は1966年。設計から仕上げまで15人の職人が働いています。
創業者で会長の宮本茂紀さん(79歳)。
宮本さんは中学卒業後、東京・港区の木工所で職人となりました。当時、港区の新橋から芝にかけての一帯は木工所が軒を連ね、そこで働くことは一流の家具職人である証だったといいます。
我々の時代までは芝の職人といえば、どこに行っても太陽と3食の飯は付いて回ると言われた。
ミネルバではすべての家具を職人が手作りしています。
折り鶴をモチーフにした木製の椅子「TSURU」、一脚32万円。オーダーを受けてから4週間かけてつくるソファ「TOKIO」は約100万円から。どれも高級品です。
父、茂紀さんの背中を見て職人となり会社を継いだ長男の宮本しげるさん(44歳)。3年前から妻の麻衣さん(39歳)と共に会社の経営を任されましたが、
なかなか先の仕事が見えない。
仕事が空いているところを何とかしないと、毎年毎年だから。
海外で大量生産される安い家具に押され、10億円以上あった売り上げが3分の1にまで落ち込んでいました。
株式会社細尾
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1月下旬の京都。そこに宮本さん夫妻の姿がありました。
向かった先は西陣織の老舗「細尾」。
宮本さんを招いたのは12代目、細尾真孝さん(38歳)。
細尾さんは着物の需要が激減する中、西陣織の新しい価値を作り出そうと海外でデザイナーとのコラボレーションを展開。いま注目の若手経営者です。
その細尾さんから願ってもいない仕事の依頼が、
海外のラグジュアリーをターゲットにしたものづくりをしていければと思っていた。ぜひミネルバの技術と弊社の生地を合わせた家具のラインナップができないかなと。
新たに2018年春、海外向けの家具ブランドを立ち上げる計画があり、そのパートナーになってほしいというのです。
資料にはデンマークのデザイナーがCGで作成した木製家具の完成イメージが載っていました。
作るとなると結構、繊細な部分がある。
どれもかなり変わった形。それだけに高い技術が求められます。その分、自分たちの実力を世界にアピールするまたとないチャンス。
将来を考えても、ものを作る職人にスポットがあたってほしい。必ずものになると思って挑戦するつもりでいる。
世界のマーケットにはまだまだ可能性があるし、世界最高の家具が何かを一緒の追求していきたい。
試作品制作
2月上旬、東京のミネルバ。宮本さん、依頼された椅子の制作に向けて動き出しました。
今回作るのがこの椅子。
すごいですね。
ウォールナットでこんなふうに曲線を使ったもの。
大変ですね、これ。あまり見たことがない。
木工を担当するのが職人歴20年の横山拓巳さん(45歳)。図面を見つめていましたが、
25はちょっと無理。もたなくなっちゃう。
強度的に無理。
デザイナーが指定した木製フレームの太さは直径25ミリ。しかし椅子の場合、座る際に大きな力が掛かります。その太さでは壊れてしまう可能性があります。
デザインとして作った段階ではデザイナーが強度までは考えられない。どこでつじつまを合わせて完成度を高めるのか。
事務所に戻り一から設計を見直します。デザインを生かしながら、いかに座り心地がよく壊れにくい椅子を作るのか?
悩んだ末、フレームの太さを強度が保てるギリギリの直径30ミリに。それでも木製の椅子としてはかなり細いものです。安定感と耐久性を考慮し足のカーブの角度も微調整しました。
修正されたデザインを見た木工職人の横山さん。より美しく、壊れにくいパーツの継ぎ方を考えていきます。
簡単な椅子ならここまでしない。図面を見て大体分かる。
木目の向きなどにも注意をしながら作業を開始。曲線の多い繊細なデザイン、少しずつ削りながら細く丸いフレームへと仕上げていきます。
椅子のフレームに釘などは使いません。その為、継ぎ目に緩みがあると椅子が壊れる原因になります。慎重に組み立てていきます。
1週間ほどで基礎となるフレーム部分が完成しました。これに背板などを取り付けて表面の仕上げです。
専用のカンナや刃物を使い分け細かい部分まで丁寧に整えます。
機械には出せない味みたいなものが出ればいいかなと。ちょっとした感動を抱いてくれるものができたらいい。
椅子の土台が完成すると次はクッションと表面の布を貼る作業です。
使用するのは椅子のデザインに合わせて織られた西陣織。見る角度や明かりの具合で表情が変わるように光沢のある糸が使われていました。
銀糸が入っているのでなかなか伸びないかもしれない。
布地の特性をいかに引き出すか、ベテラン職人と共に手作業で貼り具合を調整します。
製作開始から約3週間、西陣織を使った椅子の試作品が完成しました。
トーマス・リッケさん
3月中旬、京都。宮本さん、完成したばかりの椅子を持って細尾商店へ。
細尾さんと共に待っていたのはデンマークから来日したトーマス・リッケさん。椅子をデザインした人物です。
さっそく見てもらいます。
仕上がりをチェックしていくトーマスさん。
美しい作りだ。素晴らしい。これは簡単な仕事ではありません。
宮本さん、一安心です。
最後に座り心地を確認していたその時でした。椅子に異変が起こります。
クラック(亀裂)。
前足のカーブの部分に亀裂が入ってしまったのです。
ここが最初から一番危ういのは分かっていたが、こんなに簡単に割れると思っていなかった。
高い評価から一変、大ピンチです。
改善案
東京・品川区の老舗家具メーカー「ミネルバ」。
壊れた椅子を持ち帰った宮本さん。前足の亀裂を防ぐにはどうしたらいいのか?
その方法を職人たちと話し合うことにします。
このままではまずいので改善をしなければいけない。
一番壊れやすいところ。
一番力が入るところだったから。
椅子の前足は縦と横のパーツを組み合わせて作っています。体重がかかった際に角の部分に力が集中、その結果、木目に沿って木が裂けてしまったのです。
すると木工職人の横山さんがこんな提案を、
細いホゾが中に入っているがそれを木目が切れているところが割れないように横の木目で。
縦と横のフレームの継ぎ目を長くすることで強度を上げる作戦です。
横山さん、さっそく自身が提案した新たな継ぎ目の試作に取り掛かりました。
この方法で亀裂を防ぐことはできるのか?
上から体重をかけて強度を試します。
かなりこれで強くなっていると思う。もう割れることはないと思う。
継ぎ目を変えたことで大幅に強度が増しました。
そこでフレームの太さをもう一回り細くしてみることにしました。出来る限りデザイナーの理想へと近付けます。
30ミリの直径を2ミリ細くできました。
椅子のフレームとしてこの辺が限界だと思う。
またクッションのサイズなども修正。その結果、最初の試作品よりもスタイリッシュに仕上がりました。
直した分は結果としてあらわれている。完成度は上がったんじゃないか。
ニューヨーク
5月下旬、宮本さんが完成した椅子を持って乗り込んだのはデザイン家具の本場アメリカ・ニューヨーク。
この日、市内の展示場では北米最大級のインテリアと家具の見本市「ICFF」が開催中。
世界各国のバイヤーやデザイナーが集まっていました。
すると宮本さん、作り上げた椅子をもってどこかへ。
会場近くでテストマーケティングを仕掛けようというのです。この日のために西陣織の赤い布地を使った椅子も用意しました。
パートナーの細井さんと招待客を待ちます。
いろいろな人の意見をいろいろな角度から見れたらいいかなと。
やって来たのはアメリカで家具会社を営む男性。さっそく椅子を見てもらいます。
これはいいですね。気に入りました。とてもいいです。カーブの感じとこの丸みを帯びたデザインも好きです。見事な職人技です。
幸先のいいスタート。
ブルックリンを拠点に活動するアートディレクター。
生地の色合いとフレームの感じがすごく合っています。とても心地良いですね。あなた方のブランドの価値はどこにあるとお考えですか?
1つ1つハンドメイドでデザイナーのわがままに応えたいというところが。
素晴らしいと思います。
こちらにもいい職人がいるだろうし、そういう中で日本の職人の技術とか、そういうものに価値をみてもらえる可能性があるのは良かった。
西陣織とのコラボで作った椅子。テストマーケティングは大成功でした。
カート・ビゲンホさん
2日後、帰国を間近に控えた宮本さん、突然の連絡があり向かった先は椅子を見に来てくれたアートディレクター、カート・ビゲンホさんの事務所です。
自らアート作品を制作し、イベントのプロデュースや広告などのデザインも手掛ける実力者です。
そのカートさんから思わぬ申し出がありました。
「実用的なアート」をテーマにした展示会を考えています。先日、皆さんの椅子と実績を知り一緒に仕事がしたいと思いました。私たちの企画に興味はありませんか?
カートさんが考えているのは椅子をテーマにしたプロジェクト「ISU ism」。世界中のアーティストからデザインを募り、それを職人が実際に使える椅子として完成させるというものです。
アーティストたちがより自由に発想できるように手助けしたいんです。そのためにはあなた方の高い技術が必要なのです。
こんなに具体的に話が聞けるなんて思ってもいなかった。ぜひ参加したいと思っている。
完成した作品は世界各国で販売することも視野に入れているそうです。
老舗家具メーカーの逆襲。いよいよ始まります。
挑戦することでしか、ものをつくる技術とか自分自身も成長していかないと思う。本当にこれからだと思う。
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