鈴久名牧場
6月上旬、北海道の東部に位置する浜中町。
ここの主な産業は酪農です。
浜中町で生み出された生乳は高級アイスクリーム、ハーゲンダッツの原料にも選ばれる高い品質を誇ります。
この町にある鈴久名牧場。
社長は4代目の鈴久名翼さん(36歳)。
仔牛まで入れて460頭。
町でもトップクラスの大規模農家です。
こだわりは原料を自ら栽培して作るエサ。
これ、コーンです。甘みが出るのが一番の特徴。
ここの生乳もハーゲンダッツの原料の生クリームになっているそうです。
毎日、搾りたてを飲んで味をチェックしています。
乳脂肪分が多く濃厚な味合い。
大丈夫。
高級アイスクリームにもなる生乳、「高く売れるのでは?」と聞いてみると、
価格は何も変わりません。どこに出しても北海道で酪農をやっている以上は変わらない。
指定団体
酪農家のほとんどは全国10ヶ所の指定団体へ生乳を出荷しています。
その指定団体を担うのは全て農協の組織です。
北海道では農家が絞った生乳は指定団体、ホクレン農業協同組合連合会を通して乳業メーカーに販売されます。
浜中町の生乳は高品質が売りですが指定団体を通すため買取価格は他の地域と同じ。差がつかないのです。
鈴久名翼さんは、
やっぱり不満。こういうのが現実だから。「指定団体」に俺一人でどうのこうの言ってもしょうがない。自分は自分で売り先を決めた方が確実かな。
株式会社MMJ
[blogcard url="http://www.milkmarket-japan.com/"]
そこに一人の男性がやって来ました。
株式会社MMJの茂木修一社長(62歳)。
茂木修一社長は生乳を農家から買い取る民間の卸売業者です。
うまいです。
指定団体の買取価格に不満を持っていた鈴久名翼さん、この日、出荷先を茂木修一社長の株式会社MMJへ変える契約を結びました。
初出荷
1週間後の6月8日、株式会社MMJのタンクローリーが鈴久名牧場に到着。
この日が初出荷です。
浜中町から株式会社MMJに出荷する農家は鈴久名翼さんが初めて。
地元でも大きな話題となったのです。
買取価格
買取価格は、
「指定団体」より高い。今の乳価だったら10円くらいは差があるかな。
株式会社MMJの買取価格は指定団体より10円高い、1キロ当たり約100円。
鈴久名翼さんは年間、2,000万円以上の増収になるそうです。
茂木修一社長は、
買い入れ単価が指定団体よりいい。それがうちの1番のセールスポイント。経営をやっていくのにすごくプラスになる。
出荷先を株式会社MMJに変えるだけで農家の売り上げが大幅にアップするのです。
株式会社MMJと契約する農家は全国に約50軒。
その生乳を各地の中小乳業メーカーが買い取り、製品にしています。
取扱量は全国の1%ですが、「指定団体」以外では唯一全国展開する民間の流通団体です。
株式会社MMJ
群馬県伊勢崎市。
住宅街にある建物の一角が株式会社MMJの本社。
一間だけの質素なオフィスです。
ここで働くのは従業員と茂木修一社長、合わせて4人です。
初めて来た人はみんな驚く。
人件費や設備などコストを大幅に減らすことで指定団体より高い買い取り価格を実現しています。
立派な事務所で何十人も職員がいるのが誰のためになっているのか。これでもやっていいけるというのを見てもらいたい。
かつて酪農家から仔牛を預かって育てる仕事をしていた茂木修一社長。
経営難で廃業していく仲間たちの姿を見て2002年に株式会社MMJを立ち上げました。
株式会社MMJに出荷することで、農家の所得が増えることは間違いない。農家が元気になれば後継者も入るし、従業員も増えて、牛も増えて、生産量も増える。そうなればバター不足は解消できる。
箱根ベーカリー
9月上旬、神奈川県・箱根町。
この日、茂木修一社長がやって来たのはバター不足に悩む箱根ベーカリー。
株式会社MMJの噂を聞きつけた市川美夏子社長が茂木修一社長に助けを求めたのです。
バターをかき集めて何とかやっている状況。非常に弊社も困っておりまして。
私どもで用意できるバターを使ってもらって少しでも足しにしてもらえたら。
なんと茂木修一社長、株式会社MMJで集めた生乳を使ってバターを作ろうとしていました。
期待しております。
年末までに調達することを約束します。
バター工場
10月中旬、北海道。
茂木修一社長、集めた生乳でバターを作ってくれる工場を探していました。
国産バターの約9割が北海道で製造されています。
道内には株式会社明治や雪印メグミルク株式会社、森永乳業株式会社といった大手メーカーのバター工場があちこちに。
茂木修一社長が訪ねたのはとある町の小さなバター工場。
担当者と話がしたいと前もって電話で面会を求めていました。
ところが、
今、出掛けています。
工場のことを分かる方は?バターの。
いないと私も通せないので。
困ったな。
茂木修一社長、苦笑い・・。
担当者は現れませんでした。
逃げられちゃった。話し合うつもりも全くないみたい。
群馬に戻ってからも、
バターを作っていただきたいんですけど。
茂木修一社長、各地のバター工場に次々と問い合わせます。
しかし、
申し訳ありません。
どのメーカーも会ってさえくれません。
ただの1社もMMJの牛乳は入れられない。「指定団体」以外の牛乳は入れたくない。
一体どういうことなのか?
富士乳業株式会社
[blogcard url="http://www.fujimilk.jp/"]
山形県天童市。
この町にある中小メーカー、富士乳業株式会社。
東北の乳業メーカーは農協が担う指定団体「東北生乳販売農業協同組合連合会」から生乳を仕入れています。
4年前、富士乳業株式会社が株式会社MMJと取引を始めると思わぬ事態に陥りました。
東海林恵会長によると、
「支払いを現金にしろ」とか、「保証金を3ヶ月分積んでくれ」ちかいろいろ来た。
「株式会社MMJと取引を始めたら?」
もちろん。
指定団体から送られてきた文書。
そこには取引価格の大幅な値上げなど契約の不利な変更を求める内容が。
これを拒むと、指定団体から生乳の供給を止められたのです。
一気に経営が悪化しました。
同業者をみんな知っているから「どうなんだ?」と調べた。よそには何もやっていない。何でうちだけ叩くんだと聞いたら「我々の都合だ」の一点張り。理由は一切言わない。
理由を確かめるため、番組では指定団体に取材を申し込みました。
すると「個別の取引内容は公開できない」との回答が。
流通をほぼ独占する指定団体を前に多くのメーカーが株式会社MMJとの取引に踏む出せないのが現実です。
ホクレン農業協同組合連合会
[blogcard url="http://www.hokuren.or.jp/"]
全国の指定団体の中でも特に力を持つのが北海道のホクレン農業協同組合連合会。
国内の生乳の半分以上、国産バターの約9割の流通を握っています。
9月下旬、北海道の酪農家たちがホクレン農業協同組合連合会の本部を訪ねました。
この日はホクレン農業協同組合連合会の職員との意見交換会です。
その席上でホクレン農業協同組合連合会の職員からこんな発言が、
山のようにバターが置いてあったら買わない。
どんどんなくなっていくと消費者心理からすれば「またバター不足が起こるのでは」と買い増しという行為が起こる。
近藤好弘部長
バター不足は意図的に起こされているのか、ホクレン農業協同組合連合会の本部を訪ねました。
出てきたのは、あの会合にも出席していたホクレン農業協同組合連合会の幹部。
酪農部の近藤好弘部長です。
消費者の心理としたは物がたくさんあったら焦って買わない。
ところがどんどん売れていって「なくなるぞ」となったら、いるのか、いらないのか、よく分からないけど「とりあえず買っとけ」と買っちゃいますよね。
そういう消費者心理ってありますよね。分かります?
あえてバターを品薄にしたいということなのでしょうか?
「バターは品薄くらいがちょうどいい?」
安定供給というのが大事だと私は思うので、そういうことではない。
ホクレン農業協同組合連合会が目指すのは安定供給だといいます。
しかしバター不足は毎年のように発生、一体何故なのでしょうか?
ホクレン農業協同組合連合会が集めた生乳をメーカーに売る際、作る商品によって生乳の販売価格が変わります。
牛乳向けは1キロ、117円。バター向けなら74円。つまりバターより牛乳向けの方が高く売れるのです。
「『飲用向け』に売る方が『バター向け』より高く売れる?」
その通りです。
「だから飲用向けが優先される?」
そのことだけではない。それも理由にあるし、バターは輸入という対応ができる。
バター不足には輸入で対応できる。だからより高く売れる牛乳向けに生乳を回す。
ホクレン農業協同組合連合会がこうして動くことがバター不足の一因となっていたのです。
規制改革推進会議
政府が50年以上続いた生乳の流通にようやくメスを入れようとしています。
改革案をまとめる規制改革推進会議、農業ワーキング・グループの本間正義専門委員に話を聞きました。
「国産のバターが不足するのは誰のせい?」
「システム」ですね。
だからこそ「指定団体という制度をやめましょう」ということにもつながってくる。
ホクレンは自分たちの儲けや組合員に対する利益を最大化しようと行動する。バターを増やすと損をする。
バターを増やすと損をする。
消費者が不足しているからといってバター用の生乳を増やしたりしない。
臨機応変に市場には対応できないシステムになっている。
箱根ベーカリー
11月中旬、神奈川県・箱根町。
株式会社MMJの茂木修一社長、バターの調達を頼まれた箱根ベーカリーを再び訪ねました。
その後どうでしょう?
あちこち当たって22社。残念ながら。お力になれなくて申し訳ありません。
茂木修一社長、約束を守れなかったのです。
「作る材料がなくて売れません」というわけにいかないので、このような問題をうちだけでなく困っている店がある。
茂木修一社長は、
ホクレンのやっている仕事の内容は生産者も消費者も無視したやり方。ここを何とか突破しなくてはしょうがない。
バター工場
1週間後、北海道の酪農地帯に茂木修一社長の姿がありました。
ここに工場を建設するため下見に来たのです。
バターをどこも作ってくれないので自ら工場を建てることにした。
稼働は2年後。それまでに契約農家をさらに増やしてバター不足の解消に本格的に乗り出すつもりです。
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再び、巨大「規制」に挑む!
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