
ある業界の収支の悪化を示したグラフ。コロナ禍でこの2年間の赤字幅が大きく拡大していますが、何の業界かというと全国を走る路線バスです。日本の人口減少によって苦境に立たされている路線バスですが、コロナ禍の行動制限で経営の厳しさに拍車がかかっています。こうした中、地域住民の足としての路線バスを守る取り組みが広がっています。
路線バス維持へ新たな一手!呼び出し型バス本格運行へ
茨城県の北東部に位置する高萩市。山や海に囲まれた自然豊かなこの土地にはおよそ2万6,000人が住んでいます。
いま市民の足として活躍しているのがとあるバス。一般的な路線バスに見えますが利用者にとって便利なあるサービスが…
利用客

アプリで呼んで、その時間に合わせてバスが来る。
専用のアプリを使って対象エリア内の乗りたい場所と降りたい場所を選ぶと10分程度でバスが到着。1回の乗車につき300円で目的地まで送り届けてくれるのです。
バスには他のお客さんとの乗り合いが可能。複数のお客さんのリクエストに対してAI(人工知能)が最適なルートやダイヤを導き出してくれます。
このサービスを展開しているのは公共交通事業を手掛けるみちのりホールディングスの傘下のバス会社「茨城交通」。
現在は実証実験中ですが10月から本格運行させると8月29日に発表しました。
茨城交通
任田正史社長

昼間は1時間に1本とか路線によっては2時間に1本とか非常に使いづらかった。
前よりも乗車人数が上回るようになり、まだまだ増えていく余地がある。
通勤や通学の利用者がいる朝と夕方は定期ルートを走る路線バスとして運行する一方、お客さんが少ない日中の時間帯の有効活用を狙ったこのサービス、これまで90人程度だった平日・日中の利用者は111人と1.3倍に増加したといいます。
利用者

運転できないから、いつも「のるるバス」を使っている。
利用者増加のカギの一つが新たなバス停の設置です。既存のバス停のほかに定期ルートを外れた場所などに141の仮想のバス停を追加で設置。お客さんに希望するより近い場所で乗り降りできる仕組みを取り入れました。
市内のショッピングセンターと自宅の往復でバスを利用していた女性も…
利用者

時間に追われないでバスの時間だからとバス停に急がなくていいから便利。
ただ、こんなハードルも…
利用者

できる人はアプリでやるのだろうけど、私はできないから電話をかけて予約する。
バスの呼び出しは電話でも行うことが可能。ただ、バス会社側でお客さんに代わってアプリに情報を打ち込むため人手が必要となります。
年配者の需要が多いと見込む一方でスマホアプリを使うサービスの性質上、課題も多いようです。
一方、地域住民の足を守るために年間3,000万円以上を負担してきた高萩市からは期待の声も。
高萩市
大部勝規市長

相当な赤字を埋めるために補助金を投入して今まで走らせた。
要は空気を運んでいた。
補助金も少なくなり抑制される。すごく希望が持てる事業になった。
茨城交通によると路線の維持にかかるコストを売上げが上回る状況にはまだなっていませんが、今後赤字幅を減らすことは可能だといいます。
茨城交通の親会社であるみちのりホールディングスは今後、青森や岩手などで路線バスの維持に苦しむグループ企業に対してもこのサービスを導入していく考えです。
みちのりホールディングス
大下篤志ディレクター

高齢者はこれからも増えていくし、免許を返納する人もいる。
公共交通の利用者はこれからも増えていくと思っている。
自治体とそのエリアに一番合った導入の仕方を模索して持続的な公共交通を構築していきたい。