地域で奮闘する企業を取り上げる「輝く!ニッポンのキラ星」。
今回は福井県坂井市からです。創業時の家業にとらわれず次々と新しい事業に取り組み、業績を伸ばす老舗企業を取材しました。
土木資材に繊維を使用!道路工事に欠かせないアイテム
福井県の工事現場。土地を切り開き、新たなバイパスを建設中。
現在、地盤を盛り上げる盛り土工事が行われています。
その現場で使われているのがシート状の物体。
前田工繊 福井営業
福田育広部長
アデムという商品で土を拘束する補強材。
繊維の補強材なので土との摩擦によって盛り土の安定を図る。
1988年に開発された盛り土の補強材「アデム」。繊維なので軽量で施工しやすいのが特徴です。
盛り土の間にアデムを挟むことで地盤を堅固なものにします。
以前は鋼の補強材を挟むのが主流でしたがアデムは…
前田工繊 福井営業
福田育広部長
従来の約90%の施工日数で済む。
費用も安く仕上げることができる。
また鋼とは違い腐食しづらいためいまや道路工事に欠かせない製品です。
工事に繊維を使うパイオニア
福井県北部に位置する坂井市。
ここに土木資材に繊維を使用したパイオニアの前田工繊があります。
1918年創業、従業員およそ1,200人の老舗企業。
2021年9月期の売り上げは430億円を超え、純利益は45億円に上ります。
主な事業は高機能繊維を使った土木工事向けの資材。
護岸工事やコンクリートの建物の補強などに使われています。
前田工繊 福井営業
福田育広部長
アデムに使用しているアラミド繊維。
アラミド繊維とは防弾チョッキなどにも使われている特殊繊維でアデムの中心に埋め込まれています。
これにより従来の鋼を使った補強材のおよそ7倍の強さを誇ります。
アデムを使った盛り土は東日本大震災の時にも崩れなかったといいます。
元々は繊維メーカーであった前田工繊。
土木産業に参入したきっかけが排水材。
排水材とは壁や道路の中に埋めることで水を浸透させ水はけをよくする製品です。
前田工繊
秋山茂信取締役
会長がある建設会社を訪れた時、テーブルにへちま状の繊維を見つけた。
「何に使うのですか?」と聞いたら「土の中に埋めて排水層を作ります」と。
それが天然繊維だったので合成繊維で同じように作って土木業界に入っていった。
排水材とアデム、2つの土木資材が事業の主軸となり、高速道路の建設ラッシュなど時代の流れに乗って売り上げは右肩上がり。
しかし…
前田工繊
秋山茂信取締役
2000年代に入って公共事業の予算が削減されていく状況になり、排水材や補強材のアデムだけでは成長に限界があると危惧してM&Aに踏み切った。
地方企業とのM&Aで成長
きっかけとなったのは兵庫県の太田工業から事業承継が難しいという相談を受けたこと。
太田工業は汚れた水の拡散を防ぐフェンスの製造販売を行っていました。
フェンスは一部地域でしか売れていなかったのですが、前田工繊は土木事業で全国にいる自らの顧客に売ることができると考え、小会社化したのです。
前田工繊
秋山茂信取締役
私どもの経営資源を新しい会社と混ぜる。
お互いの成長をさせていくのが我々のM&Aのやり方。
以降、現在まで16社のM&Aを行い、買収先の縫製技術などと組み合わせることで抗ウイルス加工マスクやガウンといった新たな事業を展開し、収益をを上げています。
さらなる顧客を求め、M&Aは完全異業種、2013年に自動車ホイールブランド「BBSジャパン」を小会社化。
BBSのアルミホイールは高品質でベンツやポルシェなどで採用され、前田工繊は工場見学後、経営改善の余地あると判断し、およそ56億円で買収しました。
BBSジャパン
製造本部 高岡工場
早苗圭悟課長
今までは効率良く作ることが進んでなかった。
前田工繊になってから自動化など効率良く製品を作れるようになった。
最新のロボットや大型プレス機など60億円以上の設備投資を行っています。
BBSジャパン
北秀孝社長
大きな設備投資の決断をしていただいて現在のBBSがあると思っている。
前田工繊
秋山茂信取締役
BBSジャパンは高いブランド力、高品質だったことが心を打った。
BBSの販売先は海外にもあり製造拠点のある。
当社もさらにグローバル展開をする上で足がかりになると感じていた。
2022年から自動車レースの最高峰「F1」の統一ホイールに4年間独占供給が決まり、前田工繊が関わってからの売り上げは100億円以上と倍増しています。
M&Aの対象先はモノづくりをしている地方の企業。
前田工繊の顧客・技術・人材を混ぜ、相互の大きな成長に繋げた経営実績は「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の特別賞を受賞しています。
前田工繊
秋山茂信取締役
モノを作っているメーカーを元気にすることによって、日本の課題を我々が作り出すモノで大きな貢献ができると考えている。