京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長、
論文で使用されているような細胞はできていなかった。
1月22日、京都大学のiPS細胞研究所が開いた会見です。
36歳の男性助教が書いた人のiPS細胞から脳の血管の細胞を作ったという論文についてデータの改ざんと捏造があったとして山中所長自らが謝罪する事態となりました。
男性助教は調査に対して図の見栄えを良くしたかったと話しているということですが、一体なぜ不正を行ったのでしょうか?
取材を進めると日本の研究体制の危機が明らかになりました。
京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)
[blogcard url="http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/"]
京都市左京区
佐藤真人記者、
論文の不正が起きた京都大学iPS細胞研究所です。こちらでは約400人の研究者が所属しています。
不正が行われた背景には何があったのか?
取材を進めると色々な証言を得ることができました。
研究者は、
次のポジションを得るために不正をやってしまったのかなという感じ。
「業界を見て感じることは?」
雇用が不安定。
不安定な雇用が背景にあるという指摘がありました。
実は研究者には定年まで雇用が保障されている人と数年の単位で契約する任期付きの人(非正規)の2パターンがあります。
不正を行った男性助教は2018年3月末で3年間の任期が終わるところだったといいます。
別の人物は、
研究は厳しい世界。契約の更新のためには成果を出さなくてはというプレッシャーがある。
「契約の更新があるというのはどんなプレッシャー?」
他に同じような研究を出されると論文とかが出せなくなる。常日頃、競争がある。
契約の更新のために限られた期間で成果を出さなくてはならない重圧。これが不正を生んだ原因の一つだと指摘もあります。
iPS細胞研究所の山中所長自身も研究者の不安定な雇用を懸念していました。
2016年7月、
iPs研究所には400人近い教職員がいるが、非正規(任期付き)雇用の割合はどのくらいか。90%が非正規雇用。
なんと所属する研究者や職員の9割が任期付きの雇用だといいます。
国立研究開発法人理化学研究所
[blogcard url="http://www.riken.jp/"]
さらに雇用の問題は他の研究所でも。
4年前、STAP細胞を巡る論文不正に揺れた理化学研究所。
30代の研究者が匿名で取材に応じました。
京大で発覚した論文不正についてどう感じているのか?
有期雇用の人が不正をやったと思う。業績を稼ぎたい気持ちはわかる。
「研究で危ういシーンを見たことは?」
それはある。例えばデータとか、捏造というわけではないが、きちんとデータを取れるようにしたいと、そういう場面にあったことはある。
言葉に詰まりながら現場の窮状を訴える男性。約10年間、理研で研究をしている彼も実は任期付きの契約です。
今年度の雇用契約書、任期は2018年3月までの1年間。年度ごとに更新されるかどうか決まります。
契約更新は基本的にこの時期になることが多い。その場面でクビを切られる可能性もある。すごいプレッシャー。
理化学研究所でも約3,000人の研究者の9割をこうした任期付き職員が占めています。
STAP細胞研究の中心を担った小保方晴子氏も任期付きの雇用だったといいます。
任期付き雇用が多い理由
研究者の任期付き雇用が多いことについて、この問題に詳しい近畿大学の榎木英介博士はこう分析します。
研究費がプロジェクト単位なのが大きい。競争原理を研究に導入する意図。政府が選択と集中をしようとしている。
大学が自由に使い道を選べる国からの運営費交付金という資金はここ10年余りで1割以上削減されてきました。
その代わり増えたのがプロジェクトごとの研究資金。テーマや機関ごとに国や企業などから研究資金を受けます。その範囲内で研究者を雇用するため任期付きのほうが運営上都合が良いのです。
さらに、
若手研究者が任期付きの雇用に移行したが、シニアはそのまま任期のないパーマネント職。あまり成果が出ない教授がどかない、世代間問題みたいなものもある。
内閣府の調査では任期付きの研究者のうち50%以上を30代が占めている一方、それより上の世代の割合は大幅に低い。
先程の理研の研究者は、
10月くらいになると転職活動をやるという人がいる。それが研究を阻害している。
論文不正の背景を追って見えてきたもの、それは若い世代を取り巻く厳しい現実でした。