東京都立六郷工科高校
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東京・大田区にある都立六郷工科高校。
2004年創立、生徒数590人の工業高校です。
実はこの学校、全国唯一というクラスがあります。それがデュアルシステム科。
「デュアル」は英語で2つのという意味。生徒たちは「学校」と「企業」、2つの場でモノづくりを学びます。
学校では機械の使い方など基本を習得。さらに企業に出向いて就業訓練を学びます。3年間で合計4ヵ月以上、最大6社を経験できます。
熊谷正広教論は、
しっかりと自分の将来の職業として選択できるようにしてあげる。
株式会社極東精機製作所
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2016年11月、朝7時30分、デュアルシステム科2年生の媚山歩輝さんがやって来ました。
着いたのは自宅から自転車で15分の町工場。
おはようございます。今日からよろしくお願いします。
1ヶ月間の就業訓練を受けるのです。
株式会社極東精機製作所は1948年創業、従業員12人。自動車や鉄道関連の部品を手掛けています。
20台以上の大型工作機械を揃え金属の精密加工を得意にしている町工場です。
媚山歩輝さんが株式会社極東精機製作所を志望したのも、こうした機械が目当てでした。
楽しいですね。ものを作っているのは。違った種類の製品がたくさんあるのですごく面白いと思う。
訓練中は午前8時から午後5時まで従業員と同じように働きます。
指導に当たるのは鈴木亮介さん(27歳)。この会社の3代目です。
まず媚山歩輝さんに任せたのは金属部品の断面や角を滑らかにするバリ取りという作業。
鉄道のレールを固定するために使われる部品、その数は1,000個以上。いきなり商品を任せてみます。
ここが取れていない。
高校生といえども求めるのは正確な仕事。就業訓練の間、町工場と高校生はお互いを知ることができます。
その結果、生徒の6割以上が訓練先に就職しています。
いま工場を支えるのは高齢の職人たち。鈴木亮介さんも将来を担う若い人材を探していました。
このままでいったら、まずいんじゃないかという。ベテランの人は年を取って、技術継承とかできなくなっていくという思いがあって。
町工場側の期待。今どきの高校生に伝わるでしょうか?
夕方、工場を覗くと媚山歩輝さん、黙々とバリ取りを続けていました。作業が早くなっています。
しかし指先を見てみると軍手に大きな穴が空いています。
軍手が破れたら取り換えて。ケガしちゃうから。
作業に夢中で気が付いていなかったようです。
午後5時過ぎ、引き受けた高校生、2人から初日の作業報告書を受け取ります。
この会社でやっていけるかどうか、1ヶ月間で見極めるつもりです。
媚山歩輝さんの報告書、「簡単な作業だと思っていました。集中力を切らさないように頑張ります」とあります。
有限会社関鉄工所
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大田区はモノづくりの町。3,500もの工場があります。
そのひとつに向かう男性の姿が。東京都立六郷工科高校デュアルシステム科の先生たちです。
訪ねたのは一軒の町工場「有限会社関鉄工所」。
新たに生徒を受け入れてくれる会社を探していました。
現在、提携先は260社。その多く新入社員に定着してもらえずに悩んでいます。
関英一社長は、
早い人だと1ヶ月で辞めていく。我慢できないでしょう。自分が伸びていることに気付かない。
高卒の離職率(3年以内)は約4割。デュアルシステム科には事前に互いを知ることで離職率を下げようという狙いもあるのです。
機械の使い方
就業訓練17日目。
鈴木亮介さんが媚山歩輝さんに機械の使い方を教えていました。
次にボタンを押したら何が起きるか分かっていないと加工できない。
この機械が扱えなければ、ここではやっていけません。
金属に穴を開けたり削ったりする最もよく使う機械です。例えば「M6」と入力するとドリルを交換します。「M3」と入力するとドリルの回転方向が変わります。こうしたコードが約600種類。加工の手順をプログラミングして機械を動かします。
この作業を媚山歩輝さんも希望していました。
でかいものとか加工するのが好きなんで、でかいものを加工した方が「すごいのやってるな」となるのでうれしい。
鈴木亮介さん、まずは媚山歩輝さんに自分の仕事を手伝わせます。その作業を通じて機械のプログラムを勉強するように伝えました。
5日後、
覚えた? 大体。
大体は教えてくださったことは。
「M6」は何だ?
「待機」違う、「正回転」。
違うね。「M6」って自分で書いたんじゃないの?
メモをみるとただコードを書き写しただけ。内容は覚えたつもりが思い出せません。
予想以上に忘れちゃっていて。まずいかなと。
一方、媚山歩輝さんは、
しんどい。
この先、どうなってしまうのか?
課題
東京・大田区にある株式会社極東精機製作所。
ここに1ヶ月の就業訓練に来た東京都立六郷工科高校2年生の媚山歩輝さん。
機械のプログラムを覚えるように言われていました。しかし、それが思うようにいきません。
どうやらお手上げ状態。
難しい。1つ理解するだけでも俺やっとですよ。
若い人材に入ってきてほしい。この工場の3代目、鈴木亮介さんはどうするのでしょうか?
根性とかやる気はあるので、何とかそれをいい方向に持っていってあげたい。僕もあきらめたくないんで。
そこであることを。
これが今回の課題だから。
機械を使った課題を出すことにしたのです。用意したのはアルミの材料。これに円周上に8個の穴を開けるというものです。
刃物は何を使うのか、どうやって芯出しするのか、プログラムを組んで、スタートするまで。
鈴木亮介さん、課題を通しての成長を期待していました。3日後にテストをすることに。
そんな媚山歩輝さんを気にかけている従業員がいました。この道30年の小宮夏夫さん(52歳)です。
こっちから見ながら大丈夫かなって。うーんと思いながら。自分で覚えてやらないといけない。
休憩時間、食堂を覗くと、
「G56」と「HA」。これセットだからね。
セットですか? 刃物補正。
小宮夏夫さんが見ていたのは媚山歩輝さんが書いたプログラムのメモ。課題の相談に乗ってあげているようです。
こっちからどんどん言ってあげれば、それに対して分からないことを言ってくれる。そうすればどんどん教えてあげられる。
媚山歩輝さん、課題を与えられてからは1人居残って勉強するようになりました。
鈴木亮介さんの課題通りに部品が作れるのか?
テスト
就業訓練25日目。
課題は円周上に8個の穴を開けるというもの。これまで準備してきたメモが頼りです。
1つ1つのコードの意味もしっかりと書いてありました。
穴を開ける位置や深さなどを指定する30種類のコードを入力していきます。
鈴木亮介さんも気になる様子。
媚山歩輝さん、いよいよスイッチオン!
円周上に穴が空いていれば成功です。
結果は穴が四角形に並んでいました。失敗です。
何だよ、その残念な感じ。
悔しいです。
惜しかったんだよ。どう?
やらせてください。
実は鈴木亮介さん、媚山歩輝さんの間違いに気付いていました。途中であえて止めなかったのは失敗から学んでほしいという思いからです。
原因は穴の位置を正しく設定できなかったことでした。改めて数値を入力します。
今度は自分の力で完璧に作り上げました。
最終的にここまでできたのがうれしいです。
この研修をやる前の媚山君とはわけが違うよね。
媚山歩輝さん、嬉しそうです。
その足で向かった先は、
小宮さん。自分でこうやって初めて作って楽しかったです。昔の俺をグーでパンチしてやりたいです。
それは良かった。また分からないことがあったら聞いてくれればいいじゃん。
こうして町工場と高校生がお互いを知る1ヶ月間が終わりました。
ダイヤの原石であることは間違いない。磨けば光ると思う。
まだ2年生の媚山歩輝さんは来年もこうした就業訓練を続け就職先を見つけることになります。
卒業式
3月9日、卒業を迎えた3年生の教室です。
卒業証書、デュアルシステム科。
この春、就職する24人のうち11人が訓練先に入社することになりました。
4月1日から始まる新たな世界に飛び込んでいく不安というのはある。でも人生はその繰り返しだ。つらいことがあって辞めたいと思うときが必ず来る。そのときに必ず学校に来い。
3年以内の離職率を3割にまで減らしたデュアルシステム科。
ここからモノづくりを支えていく人材が増えていきます。
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