悪化すると足の切断に至ることもある血管の病気「末梢動脈疾患」。
いま患者の負担の少ない新たな治療法が生まれています。
その最前線を取材しました。
小倉記念病院
[blogcard url="http://www.kokurakinen.or.jp/"]
福岡にある小倉記念病院。
この病院に入院中の内田孝雄さん。1ヶ月ほど前から足の痛みが続いているといいます。
150メートルぐらい歩くと痛くて歩けなくなる。今はもっとひどい、100メートルくらいで足を引きずる。
医師から病状が説明されました。
右はだいたい30センチぐらい詰まっていた。
内田さんの検査画像、片足の血管が映っていません。血液が流れていないのです。
内田さんは末梢動脈疾患と診断されました。
末梢動脈疾患
末梢動脈疾患とは主に足の血管が動脈硬化により詰まってしまう病気。
血液中のいわゆる悪玉コレステロールが血管の中で溜まることで血管が硬く狭くなり、やがて血液が流れなくなるというというものです。
実際に動脈硬化が起こった血管の断面、コレステロールが詰まっています。
病状が進行すると血液が流れなくなり、足が壊死し切断に至ることもあります。
主な原因は糖尿病や高血圧などの生活習慣病。喫煙も原因のひとつと考えられています。
患者数は100万人以上といわれ50代以降の男性に多く発症します。
怖いのは末梢動脈疾患に気付いた時には、すでに脳や心臓でも動脈硬化が起きている可能性があるということです。
横浜市立大学医学部、循環器・腎臓・高血圧内科の田村功一主任教授は、
他の動脈硬化性疾患、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの可能性を留意する必要がある。
動脈硬化がもたらす深刻な病、末梢動脈疾患。
その治療の最前線を追いました。
体にやさしい人工血管
先程の内田さん、最新の治療を受けることになりました。
麻酔していきます。
治療は局所麻酔を使って行います。
医師が用意したのは、
「ステントグラフト」といってステントに人工血管がついている。
ステントグラフトと呼ばれる最新の医療器。特殊な樹脂と金属で作られた人工の血管です。直径は7ミリメートル。
最初は細い状態ですがカバーを引き抜くと血管の中で広がる仕組みです。
これを詰まった血管の中で広げることで血流を回復させます。
いよいよステントグラフトの出番です。
患者の足の付根から入れていき、足の動脈の塞がったところまで通していきます。
そして、
いきますよ。広げますよ。
カバーを引き抜くと血管の中でステントグラフトが広がっていくのが分かります。
終わりました。うまくいきました。
治療は無事に終了しました。
この治療にかかる時間は1時間半ほど。
内田さんの足のレントゲン画像、治療前は写っていなかった血管に血液が流れはっきり写っているのが分かります。
治療費は保険が適応され3割負担の場合、約10万円。
小倉記念病院、循環器内科部長の曽我芳光医師は、
外科手術しかなかった複雑病変にカテーテルでのアプローチが可能になった。ステントグラフトを使うメリットは大きいと考える。
横浜市立大学附属病院
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カテーテルでの治療ができない重症患者のための新たな治療も登場しています。
神奈川県に住む杉浦春子さん(仮名)、半年ほど前に末梢動脈疾患と診断されました。
杉浦さんの検査画像に白く写っているのが石灰化した動脈。末梢動脈疾患の重症化によって動脈にカルシウムが溜まり硬くなった状態です。
これではカテーテルが通らず治療はできません。
とにかく痛くてしょうがない。痛くなかったら普通の生活がしたい。
そこで杉浦さんは最新の治療を受けることになりました。
植田瑛子医師、
まず1本目の針を刺していきます。
杉浦さんの治療が始まりました。腕の静脈から血液を抜き、機械を通して体内に戻します。
これはLDLアフェレシス療法と呼ばれる最新の治療です。
LDLアフェレシス療法
まず患者の腕から血液を抜き、機械で血しょうと呼ばれる成分を分離します。
この中に悪玉コレステロールが含まれています。
その血しょうを特殊なビーズが入った器具に通すと悪玉コレステロールが吸着されます。
そうして悪玉コレステロールを取り除いた血液を体に戻すと血流が改善します、という仕組みです。
治療は週に1~2回。合計10回行います。
約3時間で治療が終わりました。
別の患者の足の画像、治療前は皮膚の一部が壊死し骨が見えていました。治療後は血流が戻り、皮膚で覆われるまで回復しました。
治療費は保険が適応されず、この病院では1回約1万3,000円で行っています。
横浜市立大学医学部、循環器・腎臓・高血圧内科の田村功一主任教授は、
末梢動脈疾患の重症患者が増えている。一般的な治療が有効でない人にこの治療を行うことで長期的な症状改善に役立つと考える。
血管の危機がもたらす末梢動脈疾患。医療技術の進歩により救われる患者も増えていくはずです。