知っておきたい病気予防の最前線です。2回目となる今回は腸内フローラです。最新の研究で意外な病気の予防にもつながる可能性が分かってきました。
腸内フローラ
ある日、突然襲う恐ろしい病。
しかし、その予防のヒントは日常に隠されています。
研究の最前線から予防法を探ります。
最近よく耳にする腸内フローラ。
それは大腸などにいる1,000種類、100兆個以上もの腸内細菌の集まりのこと。
実は最新の研究である腸内細菌が重大な病を防ぐカギとなることが判明しました。
この腸内細菌を増やす事で心臓病を予防できる。
その腸内細菌は日本人の死亡原因2位の心臓病、さらには500万人の患者がいる認知症にも関わっているといいます。
神戸大学
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その腸内細菌とは何なのか?
訪ねたのは神戸大学循環器内科の山下智也医師。
山下医師は3年前、心臓病予防につながる腸内細菌を突き止めました。これがその腸内細菌。
我々が研究しているバクテロイデス。
バクテロイデスの菌が増殖した状態。
心臓病を予防する菌。
バクテロイデス
これが心臓病予防につながるというバクテロイデス。
実はほとんどの人の大腸にいる腸内細菌の一種です。
山下医師は心臓病患者や健康な人など119人の便を集め、300種類にも及ぶ腸内細菌の量の違いを調べました。
すると、健康な人では平均で全体の27%を占めていたバクテロイデスが心臓病患者では18%でした。つまりバクテロイデスが多いほど心臓病のリスクを減らせると考えられるのです。
それはどうしてなのか?
冠動脈疾患(心臓病)は動脈硬化がベースに存在する。
動脈硬化は炎症が関係していて、バクテロイデスは炎症をかなり抑制できる。
動脈硬化を抑制する菌。
LPS
心臓病の原因の一つが大腸で作られるLPSという炎症物質。
これが血流に乗って心臓の血管にまで届くと、血管の壁が炎症を起こし狭くなる動脈硬化が進みます。
やがて完全に詰まると心臓が壊死する心筋梗塞を引き起こしてしまう。
しかし、山下医師の研究でバクテロイデスが増えるとLPSが減少することが分かったのです。
つまり動脈硬化の進行が抑えられ、心筋梗塞を予防できると考えられます。
マウスの実験で口からバクテロイデスを入れ動脈硬化が約3割減少する事も見つけた。
これが研究に使われたマウスの血管の輪切りの画像。赤いところが動脈硬化の部分です。
そのマウスにバクテロイデスを与えると動脈硬化が3割ほど抑えられました。
これがバクテロイデスによるものだといいます。
バクテロイデスの腸内細菌製剤をつくって患者が飲める環境。
それを達成するため研究を進めている。
バクテロイデスの増やし方
では、バクテロイデスは日々の生活の中で増やせるのか?
山下医師はその研究も進めています。
使うのは神戸大学農学部などが開発した人腸管モデルという装置。いわば人工の大腸です。
神戸大学の科学技術イノベーション研究科、佐々木建吾特命准教授、
大腸内の環境を模して人間の腸内細菌叢(最近の集まり)を保持できる装置。
大腸と同じ環境を作り出し、人から集めた1,000種類以上の腸内細菌をその割合までほぼ忠実に再現できます。
山下医師はこの装置を使ってある食品の成分の効果を調べました。
それを人から集めた腸内細菌に加えて計測すると…バクテロイデスが2倍以上に増えたのです。
レジスタントスターチ
その食品の成分とはレジスタントスターチ。
レジスタントスターチとはパンやコメ、パスタなどに含まれるでんぷんの一部。
一番の特徴は小腸では消化されにくいため大腸にまで届くということ。
大腸にいるバクテロイデスのエサとなり、その量を増やすと考えられています。
レジスタントスターチは温かいご飯にも含まれていますが、冷ますとほかのでんぷんがレジスタントスターチに変化し、1.5倍に増えます。
おにぎりなど冷めた状態で食べるのが効率的な摂取法です。
野菜などに含まれる食物繊維もバクテロイデスを増やすと考えられています。
レジスタントスターチと同様に食物繊維の多い野菜などをしっかり取ると結果として心臓病の予防になる。
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
[blogcard url="http://www.ncgg.go.jp/"]
さらに最新の研究でバクテロイデスが認知症予防にもつながる可能性が分かってきました。
研究を行ったのは国立長寿医療研究センターの佐治直樹医師。
研究で認知症患者とそうでない人、128人の腸内細菌を調べると認知症患者はバクテロイデスの割合が10%ほど低かったのです。
認知症を患っていない80代の宮下さんはバクテロイデスの割合が高いことが分かりました。
良い(バクテロイデスが多い)菌のパターン。
食事が良いのか、運動が良いのか、ぜひ引き続き。
うれしい。
妻の食事が一番の要因ではないか。
認知症
では、バクテロイデスと認知症はどう関係しているのか?
腸内細菌の活動で出てきた物質や菌の成分が脳に悪影響を与えて認知機能が下がると考えられている。
まだ詳しくは分かっていませんが、バクテロイデスが減ることで、大腸である物質が増える。
それが血管を通り脳に影響を与え、脳が萎縮する認知症を引き起こすという仮説が考えられると佐治医師はいいます。
詳しいメカニズムが分かれば将来、認知症予防にもつながる可能性もあります。
事前に腸内細菌を調べる事で病気のリスクが分かり予防につながる可能性がある。