リスキリングは従業員が新たなスキルや技術を習得する学び直しのことで、今後の経済成長のカギとして注目されています。政府はこの分野に5年間で1兆円を支援する方針です。リスキリングで生き残りをかける企業を追いました。
"学び直し"で生き残りかける
デジタル化で売上げもアップ
東京・日本橋にオフィスがある北村化学産業。プラスチックなど化学品の原料調達や販売をする創業120年の専門商社です。
社員はおよそ100人。
そのオフィスを訪ねると業務中にパソコン画面で見ているのはオンライン講座です。
会議室でもデジタル技術の勉強をしています。

新しく仕事をつくっていくためには自分をアップデートしていかないと。
いま会社が特に力を入れているのがデジタル分野での学び直し(リスキリング)です。3年ほど前から全社員にオンライン講座などの学びの機会を与えています。
世界的に脱プラスチックの動きが加速する中、リスキリングによる新たな事業にかけているのです。
入社7年目の山口徹さん。机にはデジタルに関する参考書が…
北村化学産業
デジタルソリューショングループ
山口徹さん

プロジェクトメンバーで集まってポイントを教え合ったり。
もともとは総務部で働いていましたが、3年前からリスキリングでAI(人工知能)などのデジタル技術を学び始めました。現在、新事業のリーダーをしています。
山口さんがこの日向かったのは栃木県の工場。自動車のプラスチック部品などを作る神戸化成工業です。
原料を販売する50年来の取引先ですが、この日は原料の商談ではありません。
見ていたのは山口さんたちのチームが開発した工場の稼働を分析するソフト「カドウライザー」です。
カドウライザーは部品の製造にかかった時間や品質などのデータをAIが細かく分析。工場の稼働状況を数値で"見える化"することで業務の改善につなげるシステムです。
山口さんたちがリスキリングで得たスキルがここで活かされているのです。
北村化学産業
デジタルソリューショングループ
山口徹さん

もう少し大きく全体を表示するページをいま作ろうと思っている。
神戸化成工業
神戸泰社長
いままで眠っていた宝、数字・データがひと目で分かるようになった。

工場では業務改善が喫緊の課題。そんな中、山口さんらから提案を受け、カドウライザーを半年前に導入しました。
神戸化成工業
神戸泰社長

普段は原料を仕入れていて、最初話を聞いた時は「なんでこんなことまでやっているの?」という感じだったが、うちにとって必要な部分をミニマムコストでお願いできている。
いま山口さんたちが新たに提案しているのが工場の作業員が手書きしている作業日報を電子化するシステムです。作業を一段と効率化できるといいます。
神戸化成工業
神戸泰社長

これからもっとDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めていかなければいけない。
北村化学産業
デジタルソリューショングループ
山口徹さん
日々学び直しが必要。
学習によってインプットして、お客さまや事業に対してアウトプットをする。
その両方があってリスキリングは非常に効果が出る。

新事業のためデジタル技術のリスキリングに取り組む北村化学産業。
営業を担当する部署では若手や幹部もITスキルの資格を取得済みです。
取引先にデジタルを使った業務改善システムを導入することは工場での製造量を増やし、本業である原料販売の売上アップにもつながっているといいます。
北村化学産業
経営管理本部
有吉英郎本部長

お客様の課題を解決するにはDXは外せない課題。
リスキリングが無いとビジネスとして今後成り立っていかないのでは。
中小企業もDX人材育成
"学び直し"市場拡大へ
一方、都内にある従業員およそ150人の旅行代理店「T-LIFEホールディングス」。
ここでも受けていたのはDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する講座です。
東京都がオンライン学習の世界最大手「ユーデミー(udemy)」などとともにリスキリングを支援するために始めました。
都内の中小企業250社を対象にデジタル技術やクラウドサービスなどの講座を全て無償で提供します。
こちらの旅行代理店では以前から作業のデジタル化を進めたかったといいますが、コストなどが課題だったといいます。
T-LIFEホールディングス
大南進一さん

プログラミングや設計の講座は需要があるので費用が高くて。
自治体が支援するのは非常にいい機会。
動き始めたリスキリングの取り組み。
世界最大手のオンライン学習事業を展開するユーデミーの幹部は今後、日本での重要性がさらに増えると強調します。
udemy
メリッサ・ダイムラーCLO

岸田総理が1兆円の投資を表明したことでリスキリング市場はさらに拡大する。
「学ぶ」こと自体が仕事であるということを企業もようやく気付きはじめた。