ドイツ・ベルリンで先月開かれた世界最大の鉄道見本市を現地で取材しました。現在、ヨーロッパでは鉄道事業をめぐって、ヨーロッパ、中国、日本勢が激しくしのぎを削っています。脱炭素が加速する中で競争は激化していますが日本勢に勝算はあるのでしょうか?
世界鉄道ビジネス最前線
世界最大の鉄道見本市「イノトランス」。
豊島晋作キャスター

線路が会場の中に敷いてあり、その先には鉄道車両が所狭しと並んでいます。
これまで2年ごとに開かれてきましたが今回は新型コロナの影響で4年ぶりの開催となりました。
2,800以上の企業や団体が参加し、およそ13万人が来場、123両が出展されました。
会場で目についたのがH2(水素)の文字。
世界3位の鉄道メーカー、ドイツ「シーメンス」の最新車両。水素エネルギーのみで動き、二酸化炭素を排出しないゼロカーボン。
スイスを代表する鉄道メーカー「シュタドラー」アメリカで初めて導入される水素燃料車両を公開。2024年から西海岸、ロサンゼルス近郊で走り始める予定です。
スイス・シュタドラー
ユレ・ミコルチッチ上級副社長

CO2削減はドイツなどヨーロッパでは止められないトレンドだ。
政治も車両メーカーも鉄道会社も対応を求められている。
一方、ひときわ注目を集めていたのは世界最大の鉄道車両メーカー「中国中車(CRRC)」のブースです。
中国中車(CRRC)

時速600キロのリニアシステムを紹介できてうれしい。
この日、世界最速クラスとなる時速600キロのリニアモーターカーをヨーロッパで初めて発表しました。実用化は近い将来として具体的には示されませんでしたが…
スペインからの来場者

すごいプレゼンでとても良かった。
ドイツからの来場者

ヨーロッパも日本も一緒になって中国勢に立ち向かわないと負けてしまう。
中国中車は売り上げが4兆円規模で世界最大、現在のその9割が国内向けです。中国全土に短期間で高速鉄道網を普及させた経験とコストでの優位性を武器にヨーロッパ市場を狙います。
豊島晋作キャスター
最近の政治状況はビジネスに影響しているか?

中国中車
畢宇鵬ブランドマネージャー

誰もが政治状況とは向き合わないといけない。
ただ鉄道で「ウィン・ウィン」の関係を築きたい。どの鉄道会社とも良い未来を作りたい。
会場にはもちろん日本勢も。
日本企業で初めてヨーロッパに旅客用の鉄道車両を納入したJR東日本グループの総合車両製作所(J-TREC)。
展示したのは水素エネルギーと電気のハイブリッドで動く最新車両「HYBARI(ひばり)」です。日本では試験運転を始めています。
豊島晋作キャスター

会場では日本の鉄道メーカーの社長自らがトップセールスを行っています。相手はアイルランドの鉄道会社のトップということです。
トップセールスの相手はこれまでも取引があるアイルランド鉄道のジム・ミードCEO。
総合車両製作所
西山隆雄社長

20年前に納入した車両が「まだしっかり動いている」と聞いている。
アイルランド鉄道
ジム・ミードCEO
一番信頼できる車両で手厚いサポートにも助けられている。

強調するのはこれまでの実績と日本の品質、ジャパンクオリティーです。
豊島晋作キャスター
総合車両製作所の製品をどう評価するか?

アイルランド鉄道
ジム・ミードCEO

とにかく品質が高く、水素での取り組みも非常に興味深い。
総合車両製作所
西山隆雄社長

好印象を持ってもらっている。きょうはあらためて認識してもらった。
豊島晋作キャスター
会場では中国勢の存在感もすごいが?

総合車両製作所
西山隆雄社長

強力なライバルだと認識している。
日本の品質をいかに上げるか、そしてコストの勝負になるのでは。
そしてヨーロッパで実績を伸ばし続けているのが日立製作所。
日立製作所
鉄道ビジネスユニット
アンドリュー・バーCEO

走行の手法は3通り、CO2を従来比50%以上削減できる。
発表したのはイタリアの鉄道大手「トレニタリア」との間でおよそ1,700億円で納入計画をした新型車両「ブルース」です。
従来型の電気に加え、バッテリー、ディーゼルの3種類を組み合わせることで環境に優しい走りが実現できるといいます。
車体や内装はイタリアのチームがデザイン。
自転車専用のラックのほか、電動自転車の充電設備を付けるなど、現地のニーズを取り入れることを徹底しました。
見学者

自転車用のスペース設置が良い。これは結構大切なこと。

デザインが良い。日立が手掛けているとは分からなかった。
日立は2015年にイタリアの鉄道メーカー「アンサルドブレダ」を買収。現在はフランスの鉄道大手「タレス」の買収交渉も進めています。買収戦略をテコに今後もヨーロッパでの事業拡大を狙っています。
豊島晋作キャスター
頭の中には次の買収先があるのか?

日立製作所
鉄道ビジネスユニット
アンドリュー・バーCEO

まずはタレスとの統合をうまく終わらせることに集中する。
ただ成長につながるデジタル技術を持つ比較的小さい企業などの買収機会はあるだろう。
相手を探し続ける。
会場で出会った日立の鉄道部門の前トップ、アリステア・ドーマー氏に聞きました。ヨーロッパでの事業をここまで成長させた人物です。
豊島晋作キャスター
日立は世界トップ3と肩を並べることはできるか?

日立製作所
鉄道ビジネスユニット
アリステア・ドーマー前CEO

もちろんだ。常に野望と自信を持っている人材・技術はそろっている。