
陣田健造さん
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三重県北部に位置する四日市市。一軒のお宅を訪ねました。
陣田加代さん(72歳)。75歳の夫、健造さんとと二人暮らしです。
ベッドに寝ていなくちゃ「足が膨れる」っていうのに、ここまでパンパンなんです。
ガン末期の患者に見られるむくみの症状。
本当の末期。転移する可能性大の。
2016年8月に背中の痛みを訴えて病院へ、告げられたのは末期のすい臓がんでした。
15キロも痩せて全然食べられないのに抗がん剤を打たれるのは本当につらいです。分かっていても。
健造さんはあるものを加代さんに託していました。
冒頭に「安楽死の宣言書」の文字。さらに「延命措置は一切お断り」。どのような医療を受けたいのかの意思表示です。
人生の最後は住み慣れた我が家で迎えたい健造さん。そして看取りたい加代さん。
石賀丈士さん
末期のすい臓がんを抱えている陣田健造さん。
そこに一人の男性が訪ねてきました。石賀丈士さん(42歳)。患者の家を訪問して診療する「在宅医療」の専門医師です。
外出できるくらい良くなっている。
患者や家族に寄り添いながら人生の最後と向き合う若き医師の挑戦とは?
医療法人SIRIUS いしが在宅ケアクリニック
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三重県四日市市にある「いしが在宅ケアクリニック」。
開業は2009年。四日市市内では初となる在宅医療に特化した診療所です。9人の医師と11人の看護師が24時間体制で対応しています。
この診療所を率いるのが石賀丈士さんです。
ここでは年間300人ほどの患者さんの最後を在宅で看取っています。これは全国でもトップクラス。
なぜそれほど多くの患者さんが石賀さんを頼るのでしょうか?
これから初めての患者さんを訪ねるというので付いて行くことに。
石賀さん、最初の訪問の時には特に気を付けていることがあるといいます。
不安いっぱいな方が多いので初回は笑顔にできるくらいリラックスした雰囲気をつくって信頼関係ができるまで時間をかけることを心掛けている。
診療所から15分ほどで到着。
竹腰充利さん
初対面の患者さんは竹腰充利さん(75歳)。末期の前立腺がんで寝たきりの状態です。
介護しているのは妻の節子さん(73歳)と娘の知香さん(50歳)。
いま食べるものはどんな感じですか?
返事がありません。
おしゃべりはする?
もともと口数は少なくて、脳出血で麻痺が残ってからしゃべりにくくなっている。
寝たきりになってから家族との会話もめっきり減っているそうです。
話の糸口を探ろうとする石賀さん、壁にある竹腰さんの写真に目をやります。若い頃、スキーや登山が趣味だったようです。
竹腰さん、めっちゃイケメンですね。
するとわずかですが、竹腰さんが頷きました。
モテました?奥さんの前では言えない?
また反応しています。
食べたいもの、見に行きたいところあります?
すると、
家が一番いい。
家で奥さんがごちそうを作ったり、「家が一番いい」と言っているから。
帰り際には手を振ってもらえるまで打ち解ける事ができました。
在宅での看取り
石賀さんが在宅医療に取り組みようになった原点、それは高校生の時、祖母を自宅で看取った経験です。10年間、自宅で療養していた祖母の最後はとても穏やかなものだったといいます。
家で死ぬことは楽な死に方だと思ったのが原点。医学部に入って実習が始まると、医師や設備もそろっているのにしんどい死に方しかできないのかと怒りを覚えて。
そうした思いから在宅での看取りに力を入れるようになったのです。
しかし在宅で看取りを行っている病院や診療所は全体のわずか5%にすぎません。これを改善するため石賀さんはある取り組みを進めています。
まず24時間対応が必要な末期がんなどの患者さんをいしが在宅ケアクリニックが一手に引き受けます。一方、老衰や認知症など緊急性が低い患者さんは地域の開業医に受け入れてもらいます。こうすれば開業医も在宅医療に参入しやすくなると考えたのです。
これに応える医師も次第に増えていきました。笹川内科胃腸科クリニックの山中賢治院長もその1人。石賀さんの呼びかけに応えて3年前から週2回、在宅医療に取り組むようになったのです。
がん末期の患者さんはかなり医師に負担がかかる。石賀先生が来て在宅医療の心理的な負担やハードルが下がっている。
四日市市では石賀さんが在宅医療を始めてから、その和が広がり新たに20の施設が実施するようになりました。
稲垣妙子さん
3月、また一人、石賀さんを頼る患者さんが現れました。
稲垣妙子さん(68歳)。2016年8月、末期の大腸がんと診断されました。手術をしましたが転移が見つかり在宅医療に切り替えたのです。
妙子さんのお腹は大きく膨らんでいます。
早速、石賀さんがエコーで状態を確認。がんが進行し、お腹に水が溜まっていて、それが痛みを引き起こしていました。
痛みを取り除くことを最優先にお腹の水を抜く処置を行います。
しばらくすると、
楽になってきた?
楽よ、ここが痛くないから。
妙子さんを心配そうに見守るのは夫の髙公さん(69歳)と離れて暮らす長男の大樹さん(41歳)。
ずっと自宅で過ごせたらいいけど。
静かにね。最後まで自宅で過ごせたら理想。
「最後まで我が家で」という妙子さん。
夫の髙公さんは、
今できることはかなえたい気持ちはある。ずっと家内に言っていたのが1日でもいいから自分より早くいかないでくれって。
それから3日後、妙子さんの体は日に日に弱っていました。
そこで石賀さん、こんな提案をします。
目標を決めないと、桜を見に行くとか。
目標があれば少しでも生きる力が湧くと考えたのです。
すると、
土日に行くかな。花見な。
2日後の4月8日、妙子さんの望みを叶えるため家族で花見に向かいます。
車に乗って向かったのはこの地域きっての桜の名所、桜を見たいというのが妙子さんの望みでした。
普段は離れて暮らす3人の子供も集まりました。孫の愛梨ちゃん(5歳)も。
愛梨ちゃん、自転車に乗れるようになったことをおばあちゃんに見てほしかったのです。スクスク成長する孫の姿をその目に焼き付けます。
満開の桜のもとで家族揃って過ごしたこの日は妙子さんにとってかけがえのないものになりました。
しかし花見から2日後の4月10日。容態は目に見えて悪くなっていました。
妙子さんを在宅医療で支えてきた医師の石賀さん、夫の髙公さんを別室に連れ出します。
ゆっくり説明していきますね。
これから最後の時を迎えるまでに妙子さんの体に起こることを丁寧に説明します。
夢の中でしゃべる。苦しいとかではなくて夢の中でいろいろなことをしゃべり出すので。今週がヤマです。
最後の時
末期がんの妻を自宅で介護する稲垣髙公さん。すぐさま診療所に連絡をします。
石賀先生が急いで駆けつけます。
そして、
2時55分、死亡を確認しました。
最後まで自宅で過ごすことを望んだ妙子さん。
妙子さんが旅立ってから2週間後、自宅で最後を看取った家族には何が残ったのでしょうか?
長男の大樹さんは、
より親密に濃密な時間を過ごせた。
夫の髙公さん、
本人も喜んでいると思います。私としては良かったと思っていますけどね。
自宅での看取りは患者本人だけでなく家族にとっても大きな意味がある。石賀さんはそう確信しています。
在宅で看取りに関わった家族は誰でもお別れはつらいけど、達成感や、やりきった感を皆さん持たれるので、自宅で望んだときに利用できるシステムを整えるのは我々の責任。
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