日本の岸田総理、アメリカのバイデン大統領、さらに就任2日目というオーストラリアのアルバニージ首相、さらにインドのモディ首相、この4人は5月24日に太平洋地域の戦略対話であるQuad(クアッド)首脳会合を開きました。その狙いが海洋進出を強める中国への包囲網をどう構築するかです。4ヵ国のうちカギを握るとみられるのがインドです。なぜインドなのでしょうか。
中国反発必至"中国包囲網"!結束の鍵を握るインドは…
5月24日午前10時半。総理官邸に集まったQuad(クアッド)4ヵ国の首脳。
会合の冒頭、日米両国からは…
岸田総理
ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章でもうたわれている諸原則への真っ向からの挑戦だ。
われわれはインド太平洋地域で同じようなことを起こしてはならない。
アメリカ
バイデン大統領
われわれは歴史上の暗黒期に直面している。
ロシアのウクライナへの残忍で挑発的な戦争は人道的危機を引き起こした。
これはヨーロッパの問題ではなく世界的な問題だ。
ロシアのウクライナ侵攻を非難し、それを引き合いにインド太平洋地域での平和と安定を訴えました。
モディ首相は…
インド
モディ首相
クアッドは国際社会において重要な地位を占めている。
われわれの信頼と決意は民主主義勢力に大きな力となっている。
ロシアによるウクライナ侵攻には言及せず、民主主義勢力で結束するする重要性を強調しました。
ロシアとの結びつきが強いインド。特に軍事面ではロシアから防空ミサイルシステムなどを調達するなどロシア依存が際立っていました。
またロシアに対する国連の非難決議案では棄権。このためロシアに対する姿勢では他の3ヵ国との隔たりが指摘されています。
ただ今回のクアッドではあくまでも中国の覇権主義的な動向を念頭に自由や民主主義、法の支配を重視する立場で一致しました。
会議の終了後、記者会見に臨んだ岸田総理はそのインドに言及しました。
岸田総理
インドも参加する形でウクライナでの悲惨な紛争について懸念を表明し、立場の違いは少しずつあるが、世界に対して一致したメッセージを発することができた。
わざわざインドという国名を出して意見が一致したことをアピール。また岸田総理は議題の中心が中国が海洋進出を強める海域だったことを明らかにしました。
岸田総理
東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念やインド太平洋地域の情勢についてもしっかりとした議論をした。
共同声明には「現状を変更し、地域の緊張感を高めようとするあらゆる威圧的、挑発的又は一方的な行動に強く反対する」と明記。
中国の名指しこそ避けましたが東シナ海などへの海洋進出の動きを強くけん制しました。
さらに6兆円を超える巨額のインフラ投資のほか、4ヵ国が保有する人工衛星の観測データを水害対策への支援を名目にインド太平洋諸国に提供する方針を表明。
中国が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗し、クアッドに協力する恩恵を示すことで地域での影響力を強める狙いがあるとみられます。
中国包囲網ともいえるクアッド、その中国は5月24日に日本近海でロシアとともに爆撃機を共同飛行させたことが明らかに。
防衛省はクアッドの首脳会議に合わせた示威行動として分析を進めています。
中国
汪文斌報道官
関係国には色眼鏡で何の根拠もなく非難しないように求める。
「小さなグループ」をつくって陣営対立を引き起こすことこそが海洋秩序の構築を脅かすものだ。
人口14億人 巨大市場インド
席巻する中国メーカー
中国包囲網の強化に向けてカギを握るのがインドとの連携です。
そのインドでは新型コロナの感染者数が減少し、一部で規制も解除されるなどコロナ前の日常が戻り始めています。
そして注目されるのが市場としての魅力です。
人口は現在14億人を超えて2027年ごろには中国を抜き世界最大になると予想されています。
そのインドで存在感を強めているのが…
インド在住
中村ゆりさん
ローカルマーケットの至るところには中国メーカーの看板をたくさん見かけます。
市場の至るところに中国のスマートフォンメーカーの看板が立ち並びます。
市場にある店で一番売れているのもvivoといった中国メーカーのスマホです。
店員
中国製のブランドは価格が安くていろいろな機能がついている。
品質も良い。また販売後のサービスも良い。
すでに中国メーカーのスマホはインド市場で6割以上のシェアを占めます。そしてその多くがインド国内で生産されています。
実はインドは世界の工場になろうとさまざまなメーカーの誘致に力を入れてきました。この政策で多くの中国メーカーがインド国内に工場を置いてきました。
しかし専門家は中国との関係に大きな課題があるといいます。
日印協会現在インド研究センター
堀本武功上席研究員
中印国境紛争があるので解決しないと両国の安定した関係が保てない。
政治的な安定性が保てないと経済的な関係も生まれにくくなる。
脱中国依存 日米に投資呼びかけ
2020年にインドと中国の国境地帯で軍事衝突が発生し関係が悪化。そのため中国とのつながりが大きいと安全保障上の懸念が出てくるためインドは中国依存度を減らすため日米などのメーカーに投資を求めています。
すでにアメリカのアップルはインドで新たにiPhoneの生産を始めたことを発表。
こうした中、5月23日にモディ首相は来日後にインドで自動車の高いシェアを持っているスズキの鈴木修元会長やユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長など日本の財界人と会い、インドへの投資を呼びかけるなどしました。
ソフトバンクグループ
孫正義会長兼社長
インドは急速に成長している。スタートアップ支援やユニコーン企業のさらなる創造でインドを世界のハイテクの中心にする。
インドの未来は明るい。
そして日印首脳会談では…
インド
モディ首相
この数十年でインドが成長するにあたり日本が非常に大事な役割を果たしてきた。
コロナ後の世界ではインドと日本のパートナーシップが最も重要な役割を果たしている。
岸田総理は3月に今後5年間で官民合わせて5兆円をインドに投資する目標を発表しています。
日印協会現在インド研究センター
堀本武功上席研究員
日本企業もこれからインドに出ていく。
日本としては技術力が欲しい。システム関係、インド工科大学があるのでIoTのようなものを作る余地は大きく膨らんでいる。
脱中国依存 日本企業に商機
すでにインドに進出した日本企業も…
田中瞳キャスター
こちらはドローンでしょうか?
ACSL
鷲谷聡之社長
開発や試験のために使っているドローン。
インフラの点検や物流などに使われる産業用ドローンを手掛けるACSL。国内では日本郵便と共同でドローンを使って荷物を届ける取り組みなどを進めています。
事業を拡大するため去年、地元企業とともにインドに合弁会社を設立。今夏にも現地で製造・販売を開始する予定です。
田中瞳キャスター
「海外初進出」の場をインドにしたのはなぜ?
ACSL
鷲谷聡之社長
インドのドローン市場は6割ほどが中国製がシェアを占めている。
どうやってインド製のものにかえていくかをインド政府が模索している。
セキュリティーや部品の安全調達性を担保しているものが存在しないとの情報。
商機があると思っている。
この企業のドローンは撮影した画像や飛行記録を暗号化してデータの漏えいを防ぐなど高いセキュリティー性能が特徴です。
インドではこれまでドローンの多くを中国から輸入していました。しかし安全保障などの観点から中国製の規制を強化。そのインドに日本のドローンを売り込もうとしているのです。
ACSL
鷲谷聡之社長
脱中国の動きは継続的に進んで、場合によっては加速すると思う。
当社にとって確実に追い風になるので今がチャンスとアクセルを踏み込むことにした。
日本政府もこうしたインド太平洋地域のサプライチェーンを強化するため、この企業に補助金を出し、後押しすることを決めています。