新たなビジネスを生み出すとして、いま注目を集めている人工衛星があります。それがSAR衛星と呼ばれるものです。この衛生をめぐって世界各国で激しい開発競争が繰り広げられています。その現場を取材しました。
世界で注目のSAR衛星とは?
広がるビジネス…大きな試練が
福岡市、この街に人工衛星の開発で80億円以上の資金を調達した企業があります。
2005年設立のQPS研究所。
どんな人工衛星なのでしょうか。
QPS研究所
大西俊輔社長

昼夜、天候を問わず、いつでも画像が撮れるのがSAR衛星。
地球観測市場、レーダー市場を引っ張っていきたい。
大西さんたちが開発しているのがSAR衛星と呼ばれるレーダーを使った観測衛星。
マイクロ波を地上に向けて照射することで、悪天候で雲に覆われていたり、夜間でも地上の画像を撮影することが可能です。
SAR衛星で東京ドームを撮影すると屋根の膜を透かして内側を見ることもできます。
QPS研究所
大西俊輔社長

災害は昼夜問わずいつ起きるか分からない。
そういった中でもすぐ状況を把握することによって、人々の生活に安心安全を提供できる。
10月12日、福岡市内で行われたのは小型ロケット「イプシロン」の打ち上げを見守るパブリックビューイング。そこに大西さんの姿が…
実は大西さんたちが開発したSAR衛星を2基、イプシロンに載せていたのです。
しかし…
司会者

大変申し訳ございません。
最後の分離まで見せられる状況ではないという情報が入ってきた。
機体に異常が見つかりイプシロンとともに衛星は破壊されてしまったのです。
大西さんは2025年以降を目標に36基のSAR衛星による地球観測網の構築を目指していますが、まさかの打ち上げ失敗。
大西さん、この試練にどう立ち向かうのでしょうか…
日本 町工場の技でNo.1を目指す
打ち上げに失敗したイプシロンロケットに2基の衛星を載せていたQPS研究所の大西さん。
あれから2週間後、大西さんは次に向けて動き出していました。
QPS研究所
大西俊輔社長

これがこの先打ち上げる衛星の実際に飛ぶモデル。
そして、SAR衛星を打ち上げる次なる方法は飛行機。
上空1万メートルまで飛び、ロケットを発射。衛星を宇宙に打ち上げます。
大西さんはアメリカのヴァージン・オービットが開発したこのロケットで2023年初頭に次の衛星を打ち上げる計画なのです。
しかし、大西さんには強力なライバルが…
フィンランド企業のアイスアイ。すでに21基のSAR衛星を運用しており、戦禍のウクライナでも被害状況の把握などに活用されているのです。
アイスアイのSAR衛星を活用しているのが保険会社の東京海上日動。
会議で見ていたのはSAR衛星で撮影された静岡市の画像です。
東京海上日動
損害サービス業務部
萩原周さん

赤い点が浸水域の範囲内に入っている。
静岡は9月に台風15号によって甚大な被害を受けました。
この会社では迅速に保険金を支払うため雲がかかっても地上の被害状況が把握できるSAR衛星の画像を活用しています。
東京海上日動
損害サービス業務部
萩原周さん

一部の建物は立ち会いを省略して判断が可能になっている。
最短で発生から2日ほどで保険金の算定内容の案内ができる。
大西さんが世界のライバルと戦うため協力を求めたのが地元九州の中小企業。
金型やアルミ加工などおよそ20社が衛星の部品を製造しています。
オガワ機工
伊藤慎二副社長

最初の蝶番から半分以下の重さになっている。
QPS研究所
大西俊輔社長
つくれないと思っていた。

オガワ機工
伊藤慎二副社長

「できるよね」と言ったら「できるけど…」
目指すは世界最小・最軽量のSAR衛星です。
QPS研究所
大西俊輔社長

コンパクトで100キロ級と軽くつくっている。
従来の20分の1の重さ。
さらに製造コストは小型化により従来のSAR衛星に比べ100分の1まで削減できたといいます。
この日、大西さんがやって来たのは大分空港。ヴァージン・オービットはこの大分空港からの打ち上げを計画しています。
大西さん、九州でつくった人工衛星を九州から打ち上げようというのです。
QPS研究所
大西俊輔社長

最終的に36基を打ち上げて、世界中を10分ごとに観測する。
この世界をつくっていくことを目指す。
九州から世界の宇宙産業にインパクトを与えていく。