著名な経営者から生きた経済を学ぶモーサテ塾のコーナー。2回目のシリーズは星野リゾート代表の星野佳路さんを講師に招き「モーサテ星野塾」としてお伝えしています。3時限目の今回はIT革命によって観光業界の構造が大きく変化する中で星野リゾートが目指すべき方向性を示した教科書が新たに登場します。
星野リゾートの経営の教科書
観光業界のカリスマ経営者として知られる星野佳路さん。その経営手法はビジネス上の課題を解決し得る教科書を採用し、その通りに実践する教科書通りの経営です。
今回は星野さんがマーケティングの神様から薦められた教科書。その中にIT時代を勝ち抜くためのヒントがありました。
星野リゾート
星野佳路代表
マーケティングマネージメントが出てきたのが10年ほど前。マーケティングの神と呼ばれているのがフィリップ・コトラー。
フィリップ・コトラーは顧客志向。
お客様のニーズを把握して応えていくことを最初に言い出した人。
マーケティングミックス(4P)は聞いたことがあると思いますが、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)。これが1つのターゲットに対してミックスされていかないといけない。
物を売る、売上を上げるためにはProductは4分の1、この全てがターゲット市場に対してフィットしている状態をつくることがマーケティング・マネジメントの役割だと唱えた。
私にとっては一番大事な教科書の1つ。
1990年代後半、そのマーケティングの神様、コトラー教授の講演会に星野さんは参加しました。
星野リゾート
星野佳路代表
講演が終わった後に気に入られようとして「マーケティング・マネジメントの『4P』本気で頑張っています」と言った。
するとコトラー教授は「あんな古いものをまだやっているのか。役に立たない」と言われて衝撃を受けた。
「いま何をやるべきなんですか?」と聞いた。
「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」かなと言った。
マーケティングの神様が薦めた教科書
野沢春日キャスター
それが「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」。
星野リゾート
星野佳路代表
早速取り寄せて読んだ後に新たな感動があった。
うちの教科書になると確信が持てた。
理論があったので集中投資する覚悟ができた
ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略とは
星野リゾート
星野佳路代表
コトラー教授のマーケティングマネジメントからファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略に到るまでにIT革命があった。ITが与えた影響は巨大だった。
ITが発達した中で「4P」に代わる概念をどう持ち得るか。「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」が私の中でしっくりきた。
4Pに対してファイブ・ウェイ・ポジショニングの5つの要素が新しく定義されています。
この理論では商品・サービス・経験価値・買いやすさ・価格という5つの要素について特に何を重視するか選ぶことが戦略上必要だと説いています。
星野リゾート
星野佳路代表
それぞれに「レベル」がある。
例えば価格はレベル3「市場支配」、レベル2「差別化」、レベル1「業界標準」、それ以下「信頼がない」がある。
レベル3は市場を支配できる水準で5点獲得、レベル2は他社と差別化できる価格で4点、レベル1は標準的なレベルで3点とされています。
星野リゾート
星野佳路代表
「高い方を目指せ」という話かと思うと実は違うことを言っている。
5つの要素の中で全部を5点にしようとした企業は利益が出ていない。「全部を5点」はあまりに大変。
効率的ではないし、持続可能ではない。
収益を持続させ、競争力を持っている企業の状態を研究すると5つの中で1つを5点にして、もうひとつを4点にして、あとの3つを3点にしている。
これが一番良い状態と語っている論文。
これは僕の中では衝撃的だった。
お金がない会社が「全部を5点」と言われたらもう無理だとなる。
1つの要素を5点のレベルを押し上げろと私たちの場合だと「経験価値」。
泊まったときの顧客の価値を一番重視している会社。
2番目を「買いやすさ」にした。この要素があったことはすごい発見。
これを差別化することで競争力をつくれるということを教えてくれたのが「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」。
「買いやすさ」で差別化を図る
「買いやすさ」、つまりホテルの予約をしやすくすることで差別化しようと考えたのです。
星野リゾート
星野佳路代表
例えば「星のや沖縄」については必ず飛行機の予約が加わる。
飛行機がセットになるケースは通常代理店からの予約の方が有利になる。
私たちのホームページではマーケットで一番安い航空券が同時に予約できる機能をつけた。
ギフト券を販売しているがプレゼントしたギフト券が直接オンラインで予約できる仕組みを作ったり、全てのことをオンラインでできるような投資を繰り返ししている。
今では星野リゾートの施設は大体7割から8割が直接予約。
お客様が私たちのスマホのサイトから直接予約してくれている。ファイブ・ウェイ・ポジショニングの中で選んだ結果。
この理論があったのでそこに集中投資をする覚悟ができ、信じることができた。
この教科書が私に与えてくれた方向性で、それが今の星野リゾートの教科書に使っている。
7~8割の予約を直接取っている大手のホテルはない。
その利益率が私たちにとって大きなプラスになっている。
お客様と直接コミュニケーションを取ることによっていろいろなアレンジを事前にできるのも大きなメリットになっている。
星野リゾート
星野佳路代表
昨年の10月にコトラー教授と対談をした。
「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略をめちゃくちゃ一生懸命やって今の星野リゾートがあります」と自慢をした。
そしたらコトラー教授は「ファイブ・ウェイ・ポジショニングって何だっけ?」と僕に言った。
「先生が教えてくれた論文ですよ」と言ったら「じゃあ今度読んでみる」って言っていました。
髙坂將太さん(24歳)
「買いやすさ」もいずれ模倣されたり、コモディティー化するかなと思う。
他の企業ができない星野リゾートの強みは?
星野リゾート
星野佳路代表
これはなかなか模倣されにくい部分。
「買いやすさ」を追求するにはシステム開発が相当大変。すごく投資しなければいけない。
星野リゾートの中で「買いやすさ」を担当しているエンジニアは56人います。
彼らは3年先にローンチ(使用開始)する仕組みまで予定が詰まっていて、それを必死にうくってくれている。
このような状態をつくるのは相当大変。コスト面と時間面で。
模倣するには相当な覚悟が必要なトレードオフを伴う活動になる。