3年前、真の普通選挙を求める香港の若者たちが幹線道路を選挙した大規模デモ「雨傘運動」。
この時、香港政府代表として学生と対話し、学生の要求を退けたのが鉄の女とも称される林鄭氏でした。
3月26日、香港政府のトップ、行政長官を決める選挙が行われ、その林鄭氏が当選しました。
林鄭氏は親中派で中国政府の支持を受けていたとされています。
林鄭氏の当選の背景にあるのは香港の選挙制度です。市民に投票権はなく、投票するのは親中派が多い1,500人の選挙委員です。
今回の林鄭氏の当選で香港社会の分断が深まっています。
林鄭月娥氏
当選したのは林鄭氏です。
香港行政長官に当選した林鄭月娥氏。
香港社会は分裂し多くの欲求不満を抱えている。それを解消し社会を団結させることに優先的に取り組む。
3月26日、5年ぶりに行われた香港の行政長官選挙。
市民にも公開された開票センターで林鄭月娥氏の当選が決まると一斉に掲げられたのは香港の旗ではなく中国国旗でした。
選挙会場の外には中国本土出身者でつくる団体が陣取り、中央政府支持の声を上げました。
親中派は、
大陸の存在がなければ、いまの香港の発展はない。香港は中国に返還されたんだから大陸と違いはない。
しかし街からは林鄭月娥氏を支持しないという声が多く聞こえてきます。
林鄭氏が長官である限り香港は終わっている。香港の団結はない。
中国側の言い分ばかり聞かずに香港市民の声を聞かないと、香港の分裂は経済に悪影響を与える。
批判の声
林鄭月娥氏に批判の声が集まるのにはワケがあります。
選挙前の世論調査で支持率トップだったのは林鄭月娥氏ではなく、市民の声に耳を傾ける姿勢を示し若者を中心に人気を集めた前財政官の曽俊華氏でした。
しかし、この市民の声は選挙結果に影響を与えず当選したのは中国の強い後押しを受けた林鄭月娥氏でした。
3月初め、中国の共産党幹部は「中国には香港行政長官選挙に介入する権利がある」と発言するなど、中国政府はあからさまに香港への影響力行使をと強めています。
高度な自治を認める一国二制度が大きく揺らぎ、香港人の将来への不安は大きくなっています。
私は全力で一国二制度を守ります。
勝利宣言でこう言ってみせた林鄭月娥氏。しかし、その言葉を信じる香港人は少ない。
悲鳴「家が買えない!」
香港社会の溝が深まるは背景には香港が抱える格差拡大があります。最も顕著なのが深刻化する住宅事情です。
公営住宅の申込み会場では早朝から安く入居できる住宅を求める人で溢れています。
家は30m2、4人の子ども含む7人で住んでいる。
土地が限られ常に住宅が不足する香港では珍しくありません。
公営の賃貸住宅に申し込んでも入居まで平均3~4年は待たなければいけません。
新たに供給が決まった総戸数2,000戸の分譲型公営マンション。40m2前後の狭い物件ですが価格は5,000万円以上。それでも公営のため相場より約3割安いといいます。
住宅価格高騰のワケ
なぜ香港の住宅がそこまで高いのか?
中国本土から毎日150人ずつ香港に移住するためにやってくる。
中国本土から来て金に物を言わせて買うのでどんどん値段が上がっていく。
住宅価格の高騰の最大の要因は大陸から来る中国人富裕層の存在です。潤沢な資金で香港の物件を高値で購入し、香港人には手が届かない水準まで相場を押し上げています。
一方、景気低迷を受け香港の賃金は伸び悩んでいて香港人にとってマイホーム購入は叶わない夢になりつつあります。
大陸富裕層と地元香港人の間に生じた経済格差。中国政府の影響力が増せば格差はさらに拡大するという懸念が林鄭月娥氏を支持しないという民意の裏にあります。
2月に香港政府が売り出した土地が史上最高値で落札されました。約1万m2の住宅用地。日本円で2,400億円以上です。落札したのは中国本土の資本です。
現地の吉田知可さんは、
こちらが史上最高値で落札された土地です。この周辺の相場を大きく上回る価格でした。ここに中国本土の企業が高級住宅を建設する予定です。
政府は2025年度までの10年で28万戸の新規供給を目指しています。しかし限られた土地も香港の庶民向けではなく中国企業によって富裕層向け用地に姿を変えています。
香港の不動産業者は、
中国本土では不動産を安心して置いておけない。政治が不安定なので恐怖に駆られて香港に来る。共産党に一言で一文無しになってしまう可能性もある。
存在感を増す格差と香港人の懸念を解消できなければ、香港は再び混乱への道を進みかねません。