全国の土地取引の指標となる基準地価が9月20日に公表されました。全ての用途を合わせた全国平均は1年前に比べて0.3%のプラスと3年ぶりに上昇に転じました。その内訳を見てみると商業地は0.5%の上昇、そして住宅地は0.1%と31年ぶりの上昇です。土地の需要が全国的に回復傾向に向かう背景を取材しました。
全国基準地価発
最高は17年連続…
宮崎文子記者
高級ブティックが立ち並ぶ銀座2丁目のビル、今年最も土地価格が高く1平方メートルあたり3,930万円でした。
17年連続で最高価格となったのが明治屋銀座ビルです。新型コロナが落ち着いたことで繁華街への人手が戻ったことや今後のインバウンド需要が増える見込みから東京23区の商業地は2.2%上昇しました。
住宅・商業で上昇率全国トップ
北海道"ボールパーク"がけん引
住宅地と商業地の両方で上昇率全国トップに立ったのが北海道北広島市。その最大の要因はプロ野球「北海道日本ハムファイターズ」が来年3月に開業するボールパークです。
小川知美記者
あちらにボールパークの屋根が小さく見えます。ボールパークから徒歩圏内のこのエリア(北海道北広島市共栄町)が地価上昇率全国1位の住宅街になりました。
人口5万人台の北広島市が今回、住宅地の上昇率で全国トップ3を独占することに。
北広島市民
私のうちもすぐそばだけど1.5倍になった。固定資産税が上がる。
地価を大きく押し上げるボールパーク開発。核となる球場は日本初となる開閉式屋根の天然芝球場。総工費は600億円、3万5,000人を収容します。
球場内には温浴宿泊施設から醸造所付きのルーフトップバーまでさまざまな仕掛けが。
さらに球場の周りにはマンションやキャンプ場、シニア用レジデンスも開業予定。
球場を中心とした一つの街のような空間、それがボールパークです。
ファイターズスポーツ&エンターテイメント
前沢賢取締役
マーケットを増やせるポテンシャルがどこにあるかという観点で最終的にこの場所に行き着いた。
人口急増への期待からか商業地も北広島市が上昇率1位、2位に躍り出ました。
街の玄関口、JR北広島駅の前ではバスターミナルやホテル、飲食店が入る複合商業施設も建設中。
北広島市
企画財政部ボールパーク推進室
川村裕樹部長
札幌に隣接したこの立地性をボールパークによって知ってもらったことで、こういう住む街があるということが見直されて、人の流入が始まっている。
さらにボールパーク効果は雇用面でも。敷地内で開業するこども園では保育士などスタッフ20人の募集に対して10倍のおよそ200人が応募。その7割が市外在住者だといいます。
札幌一極集中の北海道の人の流れを北広島市へ引き寄せ始めています。
かつてない街の変化に戸惑いの声も…
JMPサンライズ
羽田好志社長
今年4月にできたマンション。
ボールパークの雇用者狙いでつくった。
このすぐそばにも建設中のマンションが。こうした集合住宅が新たに15棟ほど建っているといいますが…
JMPサンライズ
羽田好志社長
正直すごく未知数。
ここまでアパート増やして大丈夫なんだろうかという逆の懸念は持っている。
そして今後の地価を左右しかねないのが交通渋滞だといいます。
JMPサンライズ
羽田好志社長
北海道は車社会なので車の利便性が悪いとなると買い控えが出てくるかもしれない。
こうした問題に市もただ手をこまねいているわけではありません。ボールパーク周辺の道路を拡張して、その命名権を合わせて2億円で販売。維持費を確保しました。
さらに移動手段を分散させる策も。
北広島市
企画財政部ボールパーク推進室
川村裕樹部長
JRの線路を生かして、ここに新駅をつくる。
市からJRに請願し、ボールパーク直結のJRの駅が2027年度に完成します。
北広島市
企画財政部ボールパーク推進室
川村裕樹部長
ボールパークを活用したいろいろなことにチャレンジする街にしていきたい。
人が動くとお金が発生するので、そういった効果を見込んでいる。
2029年まで大規模開発
存在感増す東京・中野
一方、東京でも地価が大きく上昇しているエリアがあります。
田中瞳キャスター
中野駅から歩いて10分ほどの新井という地域に来ています。
このあたりは住宅街ですが、このあたりが東京都の住宅地の地価の上昇率として最も高くなった場所ということです。
中層のマンションが立ち並ぶ住宅地、去年と比べて地価が5.6%上昇しました。
地元の不動産店では…
オープンハウス
中野営業センター
藤沢昌寛センター長
中野駅周辺は現状350万~400万円ほどの坪単価となっている。
コロナ前と比べ10%上がっている。
物件が出れば1週間以内で売れてしまう物件も多い。
なぜこれほど急激に地価が高騰しているのか、区役所で田中キャスターが案内されたのが…
中野区まちづくり推進部
松前友香子さん
中野通りから西にかけて人工地盤をはり、北と南をつなぐ南北道路、新しい改札を作っていく。
現在、中野駅やその周辺は大規模な再開発の真っ最中。駅ビルが建つほか、駅の南には30階を超えるマンションやオフィスビルが建設中です。
また区役所も移転。新庁舎が完成します。
そして中野のシンボルも…
中野区まちづくり推進部
松前友香子さん
中野サンプラザは来年6月で営業終了。
7,000人規模の多目的ホール、商業、住宅、オフィスが入る複合ビルになる。
100年に1度といわれている中野の再開発。2029年までに11の地区で開発が行われ、高層ビルが立ち並ぶ新しい街へと変貌します。
中野区まちづくり推進部
松前友香子さん
より住みやすく人や情報が中野に集まって広く発信される。
より中野のプレゼンス(存在感)を高められたら。
地元の人は…
地元の人
みんなチェーン店ばかり。
開発が進んで貸す方が家賃を上げてきている。
中野レンガ坂商店街
岡田俊彦会長
非常に商店街としても期待している。
ランチ、夕食、商談、レジャーも期待できる。
"物流拠点"で地価上昇
人手不足で倉庫には…
工業地でも大きく地価が上昇したエリアがあります。
村上航大記者
圏央道厚木インターチェンジから車で数分の場所(神奈川県厚木市下依知一丁目)が去年と比べて工業地地価上昇率が神奈川県で1位となりました。
近くには物流の拠点などがあります。
上昇率は14.4%。周辺ではいま続々と物流施設が建設されています。
そのきっかけといえるのが整備が進む圏央道です。厚木は神奈川から千葉までを環状に結ぶ圏央道が東名高速道路などと接続する地点。都心からも近く、関東一円にアクセスしやすいため物流拠点として注目されています。
コロナ禍でネット通販が大きく伸び、物流施設への需要が高まったことも追い風に。
同じエリアの海老名市では三井不動産が新たな物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク海老名Ⅰ」を建設。9月20日に報道陣に公開しました。
三井不動産
三木孝行専務執行役員
こちらは従業員が使うラウンジ。
ホテルのような施設にした。
天然の木を使いデザインにこだわったラウンジ。屋上にはテラスが設置され、景色を一望することができます。
いま倉庫がこうした施設を設けるのには理由があります。
三井不動産
三木孝行専務執行役員
物流業界は人手不足が最大の課題になっているので、できるだけここで働きたいと思えるように。
働きやすい環境が求められるようになった物流施設。
この施設も厚木駅から徒歩10分の場所にあります。駅が近くにあり、通勤しやすい点も人材確保に有利だといいます。
三井不動産
三木孝行専務執行役員
周辺人口が多く、若い人が多く住んでいる。
駅から近いことが大きな要素。
物流施設としてはこれ以上ない立地。
工業地を含め、今回全ての用途で全国平均がプラスに転じたことに対し専門家は…
さくら事務所
長嶋修さん
コロナで2020~2021年が落ち込んだが、今年に入り回復・回復期待が入ったと思う。
住宅地については在宅勤務という経験を踏まえ、低金利下で住宅を買う流れ。
商業地は国内観光は多少回復し、昔のように戻る期待が大きい。