地域で奮闘する企業を取り上げる「輝く!ニッポンのキラ星」。今回は広島県熊野町からです。地域の伝統産業だった筆を化粧に使う化粧筆として世界に広げたメーカーを取材しました。
伝統産業を世界のブランドに
京都にある老舗の百貨店「ジェイアール京都伊勢丹」。秋の化粧品フェアが行われていました。
今回、特別に設けられたコーナーが化粧をするための化粧筆です。アイシャドウ用やパウダー用などさまざまな筆が並んでいます。
ジェイアール京都伊勢丹
化粧品担当
前田敏美さん
化粧品も大事ですが、化粧品をつける"筆"がとても大事。
筆が違うとメイクの仕上がりが全然違う。
この筆を作っているのが白鳳堂。世界の100以上のブランドに供給しています。
お客さん
白鳳堂の筆はしなり方が全然違う。書道の筆と一緒で自在にかける。
広島県熊野町。江戸時代後期から書道の筆の産地として栄えてきました。
その熊野の筆を化粧筆として世界に広げたのが白鳳堂です。さまざまな用途に応じて品数は2,000種類にも及びます。
白鳳堂の特徴がフワッと丸みを帯びた筆先の形。メイクがやわらかく仕上がると世界のメイクアップアーティストが使っています。
従業員はおよそ260人。
2022年7月期の売上高は17億円以上を見込んでいます。
手作りながら月に最大で50万本を生産します。
白鳳堂
髙本壮社長
十数の国または地域に出荷。
取引ブランド数は百数十。
売上は国内3割、海外7割を20年以上。
創業は1974年、もともと創業者の父は洋画用、母は日本画用の絵筆に携わってきましたが売上は大きくありませんでした。
白鳳堂
髙本壮社長
立体(顔)に通用する道具を作ろうということで化粧筆。
当時は化粧筆という言葉も無かった。
その化粧筆はメイクのプロを中心に徐々に浸透し、1995年にカナダの化粧品メーカーと契約したのをきっかけに世界での存在感が一気に高まりました。
白鳳堂
髙本壮社長
我々が化粧筆のパイオニア。
それを見て熊野町の同業者も「ウチも化粧筆やるぞ」と熊野町全体に裾野が広がった。
化粧筆作りを見せてもらいました。
束毛(そくもう)といってさまざまな動物の毛をそろえる作業。曲がっている毛などをカミソリの先で整え、毛先がそろうまでこの作業を繰り返します。毛先をカットすると断面が大きくなり肌にチクチクしてしまうため、この作業が欠かせません。
白鳳堂
髙本美佐子副会長
動物の毛だからオスもメスもいる。
育った環境とか獲れた時期、そのクセがそれぞれ違う。
毛と対話する。
化粧品を塗ってみると粉が飛ぶことが少なく、まんべんなくなめらかに塗ることができます。
白鳳堂が世界に認められ始めたころ、筆作りの生産体制を大きく見直しました。それは1998年に髙本社長が入社したときのこと。
白鳳堂
髙本壮社長
品質は良いが歩留まり(良品率)が悪い。
筆作りは小さな工夫の積み重ね。
伝統的な筆作りは毛の担当、金具の担当と細かく80以上に分かれ、内職仕事として外に依頼していました。
髙本社長は職人を社員として迎え、さらに86の作業を8つに減らし、効率化を図ったのです。
こちらは入社28年目の桶谷フサ子さん。
白鳳堂(入社28年目)
桶谷フサ子さん
内職は決まった時間が獲れない。仕事をしながら家事をする。
入社後、子育て中は休める。生活は楽になった。
地域の職人が白鳳堂に集まるようになり、生産性も向上しました。
出来上がった筆は会長の髙本和男さんが毎日およそ2,000本検品して最終チェック。
白鳳堂
髙本和男会長
例えばこれ、毛が出てる。
100本に1本くらい不合格が出る。
質だけは守っていかないと。
世界に羽ばたいた化粧筆は日本ものづくり大賞 内閣総理大臣賞。そして、世界的な市場を作ったとしてグローバルニッチ トップ企業100選に選ばれました。
コロナ禍でいま化粧業界は大きなダメージを受けています。
白鳳堂
髙本壮社長
コロナでリモート会議などで画面に出る時代になった。
男性もメイクをする時代になる。
そこで去年11月から男性用化粧筆を展開。
白鳳堂
髙本壮社長
アフターコロナを見据えて動く。
今年の秋から海外催事を始める。
縮こまっている時期は過ぎた。
しっかりと進んでいく事が大事。