マイクロファイナンスで急成長
すべての人が金融サービスを使える世界の実現を。

その思いで発展途上国で少額の金融サービス「マイクロファイナンス」を提供し、成長している企業があります。


五常・アンド・カンパニー。
これはマイクロファイナンスのお客様。

ミャンマーのヤンゴン市。

ミシンはマイクロファイナンスの用途として一番ポピュラーな物の1つ。

内職の道具として役立つ。

そう語るのは代表執行役の慎泰俊氏。2014年に五常を立ち上げました。

創業からわずか7年でカンボジア、スリランカ、ミャンマー、インドなど5ヵ国でサービスを提供。顧客数はおよそ100万人です。

目指すのは2030年までに50ヵ国、1億人のサービスを提供すること。

薄い青が将来事業をしたい国。

フィリピンやインドネシア、ベトナムも。

アフリカが圧倒的に多い。

いまや五常に投資する企業や団体は第一生命やJAFCOグループなど24にも上っています。

金融サービスはすべての人がアクセスできるべき権利。

ただそれが今の世界では当たり前になっていないのでそれを当たり前にしようと。

「民間版の世界銀行」を創るプロジェクト。

世界中の良い人達が集まってくれるプロジェクトを創る。

マネー新潮流、日本発でグローバルに急成長するマイクロファイナンス企業、その進化の秘訣に迫ります。

マネーの力で新たな動きを生み出す挑戦者のシリーズ企画「マネー新潮流」。3回目の今回はスタジオに五常・アンド・カンパニーの代表執行役、慎泰俊さんをお迎えしています。

まずは慎さんのプロフィールをご紹介します。
モルガン・スタンレー・キャピタルで投資ビジネスに携わる傍ら、2007年にはNPO法人「Living in Peace」を立ち上げ、日本初のマイクロファイナンス投資ファンドをつくります。そして2010年、32歳で五常・アンド・カンパニーを設立しました。

創業への思いとは
マイクロファイナンスとな低所得層向けに提供される事業向け少額金融サービスのことですが、そもそもなぜマイクロファイナンスの事業を立ち上げようと思ったのか。

大学時代に人権派弁護士になり格差や不平等などを無くそうと思っていた。国際NGOなどでインターンなどをする中でお金が大切だと思った。ゲームのルールは資本主義と感じ、資本主義を勉強できるとこ呂に入って修行しようと思いモルガン・スタンレーに入社。
初心を忘れないために働き始めて2年目からNPOもつくり、夜中と週末と休暇を全部使い、NPOの活動を通じてマイクロファイナンスに出会い、マイクロファイナンスに投資をするファンドを日本で初めて創った。
これがうまくいったので世界中でやろうと。いまも世界中で途上国に40億人ぐらい暮らしている人がいるが、金融機関に講座がない人がおよそ4割、金融機関からサービスを受けていても値段に満足できていない人や不便と感じている人が8割います。数十億人のための大きな事業になる。これを本業にして、まずは世界中の人たちが金融サービスを当たり前に使うことができるように会社を始めた。

マイクロファイナンスに関心を持ったきっかけは?
私自身、金融アクセスがないとここにいなかった。4人兄弟で4人が大学・大学院と行ったが、それは親が親戚からお金を集めたり、奨励金の仕組みなどいろんな事があったおかげで高等教育を受けられた。
世界を見ると特に途上国の農村、貧しい農村などに行くと生まれた時点で自分がどこまで人生で達成できるかを周りが勝手に決める。それは私は嫌だと思う。
機会の平等を実現するためには金融サービスは大切なこと。金融サービスだけで世の中が良くなるわけではないが、すべての人が少なくともこれだけは使えるようにしたいと思った。
慎さんのマイクロファイナンスから融資を受けた方からはどんな声が?
お客様が途上国5ヵ国に100万人います。お客様の大部分はお母さんたちで家族の面倒を見ている。お母さんたちが稼いで使うお金はまずは子どもの食費、2つ目が学費、ここまでは固定されている。子どもの数も200万~300万人、日本の子どもの数の10分の1で、ある程度は前に進んできたと思っている。
なぜ急成長できるのか
ここまで急成長できる理由はなにか五常のビジネスモデルについて確認していきます。
五常・アンド・カンパニーは現在、5ヵ国に8つの事業法人をグループ会社化し、顧客数は右肩上がりで増え、現在100万人の顧客がいる状態です。

短期間でなぜ、このようにグローバル展開ができたのか、それは独自のビジネスモデルに要因があります。
五常は日本をはじめ世界の投資家から資金を調達し、カンボジアやインドなどの有望なマイクロファイナンス機関を小会社化・関連企業化しています。東京の持株会社では従業員40人だけですが、グループ全体では1,500人以上の従業員を抱えています。出資や経営支援を受けた現地のグループ会社が低所得者向けの金融サービスを行っています。

実際に現地のマイクロファイナンス機関をグループ化し、それを成長させていくというのは難しいと思いますが、その秘訣を3つポイントを上げてもらいました。
多様でグローバルなプロ集団 |
パートナーシップ構造 |
コストにカギ(日本発とデジタル化) |

多様でグローバルなプロ集団
1つ目は「多様でグローバルなプロ集団」、これはどういったことか?
グループ全体で働いている人が15~16ヵ国います。テクノロジーや金融、投資、デザインなどの専門家が集まって事業をしている。
実際にどういった方が働いているのかご覧ください。
それでは始めましょう。

まず会社のシンボルマークだがいくつか準備しているものがある。

こちらは毎週行われている経営会議の様子ですが全て英語で進行されています。やはり外国人の方が多いです。こうした人材の多様性は重要だということでしょうか?
民間セクターの世界銀行を目指すということで創業したので、ゴールから考えると世界中から優れた人たちが集まっているのが当たり前だと考えている。日本で生まれ育ち、日本でしか働いたことはない、気心がしれた人は日本語ができる人ばかりだが、その人たちばかりで起業すると先に行くのが難しい。会社の決まり事が日本語ばかりになるので、海外の一番仕事ができる人はわざわざ日本語を使う会社で働く理由がない。共同創業者もインド人で英語だけで仕事をしてきた。
成長のためにはグローバル人材は欠かせないということです。
パートナーシップ構造
2つ目のパートナーシップ構造とはどういうことでしょう?
グループ会社全体でいい人が集まるために、みんなとパートナーとして一緒に働くということを決めてやっている。例えば小会社という言葉は使わない。グループ会社やパートナー企業などの名前をつけて仕事をしている。
コストにカギ
3つ目は「コストにカギ(日本発とデジタル化)」とあるがこれはどういうことでしょうか?
2つあり、日本は資本コストが安い国。それを途上国に持っていくことでコスト競争力が上がる。
2つ目はテクノロジーを活用することで人件費率を下げて金融サービスをの値段を安くする。
五常のグループ会社はどのくらいの貸出金利の水準なのか?
国により異なるがタジキスタンは預金の金利が17%なので、そこから始めないといけない。いまはグループ全体で25%くらいが貸出金利。これはグラミン銀行が30%くらいなので、それよりは5%くらい低く。私たちとしてはまだまだ高いのでこれを下げていきたい。
途上国でデジタル化はどうやって進めているのか?
お客様でスマホを持っていない人がほとんど。代理店の人たちにタブレットを配って、スマホを持っていない人が訪れたら代理店の人がタブレット経由でお客様の情報を登録するなどに使用している。
スマホを持っているお客様にはスマホ向けのサービスを提供していて、タジキスタンでは一番大きな決済のアプリを提供している。

デジタル化をすることでコストを抑制しているということです。
なぜ五常に投資するのか
スタートアップに欠かせないのは資金調達です。五常になぜ資金は集まるのか、出資元の機関投資家への取材を交え詳しく伺います。
マイクロファイナンスで急成長する五常・アンド・カンパニー。しかし、創業当初は資金調達に苦労したといいます。

その潮目が変わったのは機関投資家である第一生命からの出資がきっかけでした。

五常に投資を決めた理由を投資担当役員の重本和之さんに聞きました。

慎さんの理念、思いに共感した。われわれのインパクト投資につながる。

2つの視点で投資を決めた。

2014年から投資のリターンだけではなく、「社会課題の解決に資する投資」を標ぼうしていて、五常のマイクロファイナンスで金融にアクセスしてもらおうという事業が新興国の銀行口座を持たない方々の社会課題の解決につながる。

インパクト投資では環境や社会への貢献度を測定し、可視化することが求められます。第一生命はその第1号案件として投資を決めたのです。

実際、現地に担当者を派遣して五常のサービスの視察も行いました。

われわれが運用している資金は保険契約者の保険料。

当然、保証している予定金利は満たさないといけない。

慎さんは社会課題の解決の理念はあるわけだが、同時にリターンを上げることに非常にシビアに取り組む経営者。

投資に前向きになれる案件だった。

実はインドやカンボジアなどには第一生命も本業の保険事業で進出していて、そこでのシナジーの期待もあるといいます。

五常にマイクロファイナンスのビジネスを進めてもらって、「リスクに備えたい」というお客様のニーズが出てくれば、われわれが保険を提供していく形でシナジーができればいい。

五常・アンド・カンパニーは2014年の創業以来、累計で資金調達額が146億7,000万円に達しています。最初は苦労されたのでしょうか?

最初の3年は機関投資家は一切つかなかった。マイクロファイナンスが何なのか分からない人も多かった。分からないものにもは投資をしないのはプロとして当たり前なので結構大変だった。
個人の人たちを回って、元々の上司や同僚、友人などを回って個人から15億円ぐらいを資金として集めた。日本のベンチャーで個人の援助から集めた金額だと多分一番大きい金額だと思う。
事業が大きくなり、第一生命が最初の株主として投資をしてくれた。
第一生命がインパクト投資として投資を決めたとあったが、五常ではこのようなインパクトレポートを2019年度から出しています。具体的には社会課題の解決にどう関わっているのか、現場の声やSDGs目標に対する進捗などに対する成果が欠かれています。具体的にどれくらいのインパクトを生み出しているのでしょうか?

SDGs目標 | KPI | 2019年3月時点 | 2020年3月時点 | 2021年3月時点 |
---|---|---|---|---|
2030年までに貧困状態にある人々の数を半減させる | 総顧客数 | 334,404 | 574,471 | 707,527 |
農村部の顧客割合 | 87.0% | 88.7% | 87.1% | |
2030年までに全ての人々の社会的経済的およそ社会的な包含を促進する | 融資残高に占める農村部の顧客割合 | 64.0% | 71.0% | 75.3% |
貯蓄残高 (任意・必須) | 1,700,600ドル | 4,828,000ドル | 7,215,000ドル |

表にもある通り、顧客の数やそのうちの農村部の割合なども全部見ている。いま5ヵ国で100万世帯に金融サービスを届けている。人口では500万人。ノルウェーと同じ人口ぐらい。その多くのお客様にとって私たちが唯一の金融機関なのである程度前に進んできたと思う。
女性の雇用割合も高い水準をキープしています。
SDGs目標 | KPI | 2019年3月時点 | 2020年3月時点 | 2021年3月時点 |
---|---|---|---|---|
助成に対する経済的資源に対する同等の権利を与える | 女性の顧客割合 | 99.4% | 99.1% | 99.0% |
金融サービスへのアクセス改善などを通じてMSME(中小零細企業)の設立や成長を奨励する | SME顧客数 | N/A | 24,686 | 31,848 |

女性は常に9割以上。マイクロファイナンスはもともとお母さんたちがお金を稼ぐお手伝いをしている。そうすることで家族のバランスが変わり、より一層子どもの食費や教育にお金が回ることになる。
SDGsやESGといったワードが生まれているが、そうした社会的な変化は資金調達の助けになるか?
世界的な潮流としてインパクト投資やESG投資が当たり前になっている現象がある。日本だとインパクト投資といった時に投資先が再生エネルギーなど環境系が多いが、社会で格差をなくしていくなどの投資対象があまり多くない。そういった需要は受けられていると思う
今後のロードマップは
五常は今後の目標として2030年までに50ヵ国1億人に金融サービスを提供するという目標がを掲げているが、達成の見込みは?
できると思う。50ヵ国1億人は創業時から掲げている目的。最初は笑われていたが、民間セクターの世界銀行をつくるのでそれぐらいの規模感は出さないといけないと思う。
過去5年の年率成長率、顧客数は106%。今後5年を80%、その後の4年を50%で成長すると1億人に達する。なのでやればできると思っている。

ここまで急成長、海外展開、146億円のお金を集めている。いま見えている課題は?
人はマイクロファイナンスをやっている会社としては世界で一番いいチームが集まっている。ヨーロッパなどのプロの投資家が見ても一番いいチームだと言ってくれる。
1億人に金融サービスを届けようと思うと、弊社の顧客1人あたりの残高は5万円ぐらい。1億人になると5兆円になる。借り入れと出資のお金で5兆円のお金が必要。今までの146億円もありがたいが、これから10倍、100倍としていかないといけない。
コロナでお金が返せない人が出てきて貸し倒れが増えているのはリスクにならない?
ある程度はある。コロナ前は貸し倒れは3%を上回ったことはない。
0.3%の大半はお客様が亡くなってしまう。コロナ後で一番高い時期で2.8%ぐらいまで上がった。今は2%強まで下がっている。
2%強は同業他社だと普段がそれぐらい。弊社の利益としてはインパクトは大きなものではないが、2~3%の裏にコロナで打撃を受けたお客様がいるのは事実。なにかできることをしていきたい。
事業リスク上ではコロナは乗り越えられ、登場国だと内戦や政治リスクも乗り越えていけるのでしょうか?
歴史的にマイクロファイナンスは内戦や戦争があっても打撃を受けにくい。戦争や内戦があっても生活は続く。生きていかなければいけないので、そのためには事業をしている。
私たちの金融サービスはニーズがある。
今回、ロックダウンがあったので今回の状態がマイクロファイナンスにとっては一番厳しかった。
今後多くの人に貸していくためにはIPO、株式上場も視野に入ってくる?
資金集めは重要。上場も数年以内にしなければいけないと思っている。
ただそれは出発点で引き続きお金をちゃんと集めていき、民間セクターの世界銀行をつくることを目指したい。
日本の「成長と分配」
日本の岸田政権が掲げる成長と分配についてどう考えるか、また日本の企業は成長できないといわれているが何が必要だと思うか?
岸田政権、マーケットの関係者の意見はあると思うが分配は大切。それは政府にしかできないこと。世界中が格差を進める方向にいったものを戻すというために重要なものだと思っている。